日本支援でインドネシア初の地下鉄開業 海外進出でカギを握る「システム」と「人材」
先月25日、インドネシアの首都ジャカルタでは、初の地下鉄が開業した。日本の政府開発援助(ODA)によるものであり、「オールジャパン」の鉄道輸出プロジェクトとして注目を集めている。
車両は日本車輌製造がつくったこともあり、日本の鉄道でよく見られるタイプの車体だ。先頭部は関東圏の私鉄を感じさせる。運行管理面や安全面でも日本式のシステムを採用し、指差喚呼も日本語で行われている。
成長戦略としての鉄道海外展開
日本のインフラシステムの海外展開は、アベノミクス成長戦略「未来投資戦略」の柱として位置づけられている。その中で国土交通省は、日本の鉄道の海外展開を推進している。
国土交通省は次のように記している。
日本の鉄道システムはすぐれており、それを世界に広げることにより、日本が経済成長するだけではなく、相手国の経済・社会の発展にも寄与するというものだ。
日本の国際援助や経済進出は、開始以来相手国の経済発展だけではなく、援助国である日本の経済発展にもつながるというスタイルでやってきた。これまでは工場設置や道路などを中心となって行われてきたものの、それらは一通り終わった。東アジア・東南アジア各国が経済成長をとげる中、見合ったインフラ整備が必要ということになり、日本が鉄道システムを展開することになっている。
そのために首相や国土交通大臣など政府挙げてのトップセールスが行われ、2014年には株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が設立された。この事業体ではアメリカ・テキサス州の高速鉄道やベトナムの都市開発事業に取り組み、日本式の「新幹線」や、鉄道と沿線開発を一体化させた「小林一三モデル」の普及に力を入れている。
日本の鉄道の海外展開としては、台湾の新幹線や、JR東日本のイギリス進出などが挙げられる。日本の鉄道システムは世界に期待され、多くの国に同様のシステムを普及させたいと、現在の政府は考えている。
だが、それでいいのだろうか。
世界に日本式鉄道を広める際の難点
日本の鉄道は、高頻度大量輸送、高速輸送などの面で優れていることは確かだ。都市鉄道や新幹線など、先進各国の同種のものに比べて小規模な設備である一方、それらの国よりも大量の人をさばいているという現実がある。それ自体は優れているといえよう。
だがしかし、それを支える人間が日本にはいる、ということをよく考えてもらいたい。日本人は、組織的規律が高く、学校の「隠れたカリキュラム」でそういったものを身につける。集団での暗黙の意思統一の得意さや、徹頭徹尾にまで至る暗黙知の共有、同質さを重視する人間関係の構造など、日本で生きていないとわからないものが、日本社会にはある。そしてそういった背景があってこその、日本の鉄道システムの優秀さというものもあるのだ。ある鉄道会社社員の雑談でメディアについての話を耳にしたことがあり、その内容が経営トップのものとそっくりだったというのには驚いてしまった。そこまで意思統一するのかと。
採用や労使慣行も、日本特有のものがあるといってよい。新卒中心の採用、しかも採用の際には組織への従順さをなによりも要求する。労働組合のあり方も、国によって大きく異なる。日本のように労使協調路線や、組合さえも脱退してしまうということは、そう簡単には外国ではないと考えたほうがいい。JR東日本の第一組合・JR東労組の闘争方針に組合員が反発し、大量の脱退者が出たのは記憶に新しい。その後脱退した人はどこの組合にも入らない人がほとんどで、組合に守られなくてもいいと考えていることになっている。
世界の国々では労使関係や労働組合のありかたというのはさまざまであり、概して日本よりも労働組合が強い。そのあたりのソフトシステムをどう考えるかが海外での鉄道プロジェクト展開には必要であり、人間関係のあり方や労使関係などは、それぞれの国の慣習にしたがったほうが反発はなく、現地に根ざした鉄道が作れると考える。
押しつけで日本の企業が利益を得るようなスタイルにするのではなく、現地の人や社会のためになるような日本の鉄道の海外展開を行うことが必要である。