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「青春18きっぷ」はなぜ「改悪」されてしまったのか? 「自動改札機対応」で失うものの大きさ

小林拓矢フリーライター
「青春18きっぷ」は、幹線系統なら1日で長距離の移動も可能だ(写真:イメージマート)

「青春18きっぷ」がこれまでの「5回を1枚」から、連続する5日を1枚にし、3日連続のも追加することで、鉄道ファンの間に怒りの声が沸き起こっている。

 先日、JR旅客各社は冬の「青春18きっぷ」の発売を発表し、大幅リニューアルすることとなった。そのリニューアル内容は、これまでの「青春18きっぷ」ユーザーからしてみるとあまりにも使い勝手が悪くなるということで、大きな反発を呼んでいるのだ。

 どんなリニューアル内容なのか?

利用者は1人に、連続する日数のみ

 これまでの「青春18きっぷ」は、5回使用するものを1枚買っておけば、利用期間内にはいつでも使用することが可能だった。1日ごと、飛び飛びの日に出かけてもよく、3日と2日の連続使用を組み合わせるという現実的な使い方も可能だった。また、複数人で同時利用するという使い方も見られた。

 最初に買っておけば、かなりフレキシブルな使い方も可能なものだった。

 リニューアルした「青春18きっぷ」では、利用できる路線は変わらないものの、「連続する3日間」もしくは「連続する5日間」で、1枚につき1人しか利用できなくなる。しかも、購入時に利用開始日を指定しなければならない。

 ただし、これまでの「青春18きっぷ」で利用できなかった、自動改札機を使用することが可能になる。

 1人が連続する3日もしくは5日にはなったものの、自動改札機を使えることがJR側のアピールポイントであるといえる。

 あわせて「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」は、新青森~木古内間の新幹線利用に区間変更し、自動改札機対応になる。なおこちらも利用日を購入時に指定する。

「青春18きっぷ」は、3日間用が10,000円、5日間用が12,050円となる。なお「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」は、4,500円だ。

 いままでは利用開始日を指定しなくてもよかったのを考えると、かなり制約条件がきつくなる。「改悪」といってもいい。

なぜ、自動改札機に対応する必要が?

 JR側は、「自動改札機対応」を強くアピールしている。それ自体は、駅の改札などに人がいなくなっている現在、仕方がないことかもしれない。

 ただ、現在の駅は人を減らしすぎており、「青春18きっぷ」の利用者が押し寄せると、改札担当の駅員が忙しくなってしまう。省力化を基本とする現在のJRは、こうした「人手」を必要とすることを嫌う。そこで自動改札機対応にした。自動改札機対応にするために、1人にしか利用できないようにし、連続する日しか利用できないようにした。

都市部の駅では自動改札を利用するほうが便利で、有人改札は混んでいる
都市部の駅では自動改札を利用するほうが便利で、有人改札は混んでいる写真:イメージマート

 しかし、5日間連続だと利用不可能な人が多く出ることが予想される。そこで、3日間用も発売されるようになった。

 ただ、同じ「青春18きっぷ」を3日または5日、自動改札機に通していると、よれよれにならないかということは考えられる。

「青春18きっぷ」にかかわる人手を減らしたい、というのは大きな理由だろう。それゆえに多人数で同時に利用できるというメリットをなくしても、労力削減をめざす理由で「青春18きっぷ」の形態を変えたことは当然考えられる。

そもそも、5日連続は難しい?

「青春18きっぷ」は、5回使用できるものだった。それゆえ、リニューアル後も5回連続という形態になった。

 しかし現在、連続する5日間普通列車に乗り続ける、という形態の旅行は可能なのだろうか?

 夜行の快速・普通列車はもうなく、夜間はどこかに泊まらなくてはならない。4泊もするとなると、宿泊費も相当かかる。しかも現在は、ホテルの予約が取りにくい状況で、価格が高騰している。

 学生含め多くの人が忙しい現在、5日間という長い日数を鉄道の乗車に充てられるということは考えにくい。そんなにみんな自由な時間はあるのだろうか? ないことはわかりきっている。あえて使いにくくしたという見方も可能だ。

 5日間連続は現実的なものではないから、3日間連続のきっぷを出した、ということも言えるだろう。

金券ショップ対策?

 JR旅客各社は、回数券などをどんどん廃止していった。ネット予約などのほうが安くなる、ポイントもつくといった利用者への誘導策は取っているため、現実の利用者には問題がないものの、とにかく回数券は「役割を終えた」ということでなくしている。

 回数券は紙のきっぷであるゆえ、改札機メンテナンスの省力化ということも、鉄道事業者の側としては意識している。

「青春18きっぷ」は、2日もしくは3日くらい使用したものを金券ショップが買い取り、少しばかり価格を上乗せして販売しているのがよく見られる。場合によっては、完全未使用の「青春18きっぷ」が金券ショップの店頭に並ぶこともある(なぜかクレジットカードで購入されたものばかりだ)。

 このあたりが、「青春18きっぷ」の「改悪」の根本理由ではないかといえる。省人化が求められ、かつ金券ショップ対応となると、こういう形になるしかなかったのだ。

1日券を出そう

 ただ、これまでのようにばらばらの日に「青春18きっぷ」を使用してきた人への対応は必要だ。そのためには、1日のみ使用可能な「青春18きっぷ」を発行しなければならない。帰省などでこのきっぷを使用するケースもあり、その場合に使用できるものが必要だ。

 ぜひ、1日のみ有効の「青春18きっぷ」を出してほしい。形態は、3日用や5日用と同じく、日時指定でいい。

 これなら、自動改札機でも使用が可能で、かつ金券ショップで扱えないものとなる。

 ただ、自動改札機で紙のきっぷ自体を扱うことを減らそうとしている現状で、紙の「青春18きっぷ」がいつまで残るかわからない。QRコード対応のWebアプリにするか、もしくは廃止となるかということも想定しなくてはならないだろう。

 JRの都合で大きく変わってしまった「青春18きっぷ」のあり方。「改悪」ともいえる状況であり、売り上げは減ると考えられる。いや、あえて減らしたいのか?

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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