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JR東日本・JR西日本の地方路線の「収支」 企業規模からしたらどんなものなのか?

小林拓矢フリーライター
芸備線を走るキハ120形(写真:イメージマート)

 先月の29日、JR東日本とJR西日本は、輸送人員2,000人/日未満の地方路線の収支を公表した。

 JR東日本は2023年度に757億円の赤字を36路線で計上している。JR西日本は、2021年度~23年度の平均で233億円を17路線で計上している。

 確かに鉄道路線の赤字としては、大きな額といえる。詳細を検討してみよう。

JR東日本、営業係数が最悪のところの赤字額は?

 営業係数の悪さで知られる久留里線の久留里~上総亀山間。営業係数は13,580円。平均通過人員は64人/日。2億3500万円の赤字。

 でも赤字額だけなら、羽越本線の村上~鶴岡間の49億6800万円のほうが上だ。平均通過人員も1,423人/日おり、営業係数は945円。

 単純に利用している人が少ないところでいえば、陸羽東線の鳴子温泉~最上間。平均通過人員51人、営業係数は13,465円、赤字は4億3900万円。

 営業係数で苦しんでいるところ、赤字額で苦しんでいるところ、利用者の少なさで苦しんでいるところ、いろいろある。

 利用者が少なくて営業係数が高くなっているところもあれば、経費がかさんで赤字額が大きくなるところもある。羽越本線の村上~鶴岡間なんて、特急列車が走っているところだ。

JR東日本閑散線区の収支データ(JR東日本プレスリリースより)
JR東日本閑散線区の収支データ(JR東日本プレスリリースより)

JR東日本閑散線区の収支データ(続き)(JR東日本プレスリリースより)
JR東日本閑散線区の収支データ(続き)(JR東日本プレスリリースより)

JR西日本、営業係数が最悪なところの収支率は?

 同様にJR西日本も見てみよう。JR西日本は収支率で発表している。

 営業係数が最悪なのは、芸備線の東城~備後落合間だ。営業係数は11,766円。平均通過人員は20人。収支率は0.8%。

 いっぽう、ここより平均通過人員が少ないところはない。収支率が低いところもない。

 営業費用も公開している。営業費用がもっともかかるのは、紀勢本線の新宮~白浜間で、34億2000万円。ここの営業係数は703円、収支率は14.2%である。平均通過人員は935人。紀勢本線は特急が走り、この区間は観光地も多い。

 JR西日本の場合は、困難の大半が芸備線に集中しているといえる。

JR西日本閑散線区の収支データ(JR西日本プレスリリースより)
JR西日本閑散線区の収支データ(JR西日本プレスリリースより)

JR東日本・JR西日本はこの困難を支えられるのか?

 で、ローカル線の苦境を訴え続けているJR東日本やJR西日本の経営成績ってどうなの? という話になる。

 JR東日本の有価証券報告書を見てみよう。2024年3月期が最新である。

 連結で営業収益が2兆7301億円、営業利益が3451億円となっている。運輸事業の収益は1兆8536億円、利益は1707億円である。現行の経営成績で、赤字路線を支えられないというものではない。流通・サービス事業や不動産・ホテル事業でカバーすることも可能だ。

 ではJR西日本の有価証券報告書。同じく2024年3月期が最新だ。連結で営業収益が1兆6350億円、営業利益は1797億円。モビリティ業の営業収益は9864億円、営業利益は1144億円である。もちろん、流通業や不動産業でも稼いでいる。

 確かに閑散線区を廃止すれば、少しばかりは収益や利益が上がるだろう。もともと、閑散線区の収支などを発表したのは、コロナ禍でJRの経営が悪化し、利用状況の悪い路線が経営の数値に響いていることを示すという意図があった。

 しかし、莫大すぎる新幹線や都市部の通勤輸送での収益、そして都市部の不動産開発で得られるお金は、そんな数字を吹き飛ばしてしまうところがある。

 JR東日本は、高輪ゲートウェイ周辺の開発に総額6000億円を投ずるという。非鉄道事業を強化し、企業を成長させる方針があるからだ。

 事情はJR西日本も同じで、都市部の不動産開発など、非鉄道事業に力を入れ、企業を成長させようとしている。

 では、JR東日本やJR西日本は、何を言いたいのだろうか?

JR東日本は都市開発に力を入れている
JR東日本は都市開発に力を入れている写真:アフロ

閑散線区の「数字」を示した真意は?

 閑散線区の経営状態が厳しく、経営上の数字の足を引っ張っているところはあるものの、圧迫するほどという状況にはない。さらには、鉄道があることでその鉄道を利用してもらって、新幹線などを利用し、都市へと人を運んでいくという考え方もある。JR東海は、すべての路線が東海道新幹線へのアクセス路線だという考えで、かなりの閑散線区でも廃止せずに残している。高速鉄道や、都市部の商業施設に人を集めるために、鉄道が必要だという考えのほうが、鉄道会社の採用する方針としては理にかなっている。

 しかし営業係数や利用者数などの数字を示すことで、地域によっては鉄道よりも効率性が高く低コストな輸送手段を採用したほうがいいと示していると考えるのが妥当だろう。

 鉄道会社としてはある意味「敗北宣言」になってしまうのだが、都市と地方の格差が激しくなり、分断が目に見えているこの国において、鉄道は都市部、少なくとも人口がある程度いるところのものということを示しているのかもしれない。

 鉄道を走らせるには、乗客が少なすぎるのであり、人口もいない地域がある。そのことをJR東日本やJR西日本は示したいのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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