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【論点整理】こども家庭庁は旧統一教会の陰謀?見落とされている2つの視点【こども基本法・複数アクター】

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:イメージマート)

安倍晋三元総理の死によってあきらかになった一部自民党議員と旧統一教会との癒着は、日本国民にとって大きな衝撃と政治不信をもたらしています。

そのひとつが「こども家庭庁がこども庁から名称変更されたのは旧統一教会の影響があったからだ」という陰謀論的なイメージにもとづく言説です。

私自身は、比較的早い時期から、こども庁・こども家庭庁の政府内議論を観察し、関りをもつ研究者の一人です。

当初はこども庁の議論も警戒していましたが、今では、こども家庭庁の役割に期待しています。

国会や関連省庁も含めた真剣なとりくみにも関わっており、与野党の国会議員、官僚や支援団体・専門家とともに、こども政策・こども財源を前に進めようとしているからです。

その私の立場から申し上げると、「こども家庭庁は旧統一教会の陰謀ではない可能性が高い」ということです。

いたずらな陰謀論は、子ども・若者のために必死で頑張る関係者を傷つけるだけでなく、旧統一教会信者への差別にもつながってしまいます。

いま必要なのは冷静な検証です。

この記事では「こども家庭庁は旧統一教会の陰謀ではない可能性が高い」と私が考える2つのポイントを提起し、私の知りうる事実を述べます。

論点整理・こども家庭庁陰謀論が見落としている2つのポイント

―こども基本法は安倍元総理を含む自民党保守派も賛成

―こども家庭庁は複数アクターの影響で決められた名称

こども家庭庁陰謀論が見落としているポイントは2つ、です。

ポイント1:こども基本法は安倍元総理を含む自民党保守派も賛成

ポイント2:こども家庭庁は複数アクターの影響で決められた名称

ポイント1・こども基本法は安倍元総理を含む自民党保守派も賛成

私自身が、こども基本法成立を求める署名活動を行ってきました。

当初、こども家庭基本法になるのではと懸念されていましたが、自民党内の意思決定において、安倍元総理を含む自民党保守派も賛成し、結果として「こども基本法」として成立した事実はゆるぎのないものです。

そのプロセスで、自民党保守派と呼ばれる国会議員とも対話の機会がありました。

もし旧統一教会がほんとうに陰謀をはり巡らしていたのだとすれば、日本の子どもたちを権利の主体とし、日本の子どもたちの最善の利益を実現するための法律である「こども基本法」は成立しなかったのではないでしょうか?

なお私がこども基本法の実現をすすめるプロセスで、面談を申し込んだところ、快く応じていただいた自民党の国会議員もおられました。

報道では、「マルクス主義の中には、個人主義を重視しすぎ、家族を否定するような行き過ぎた思想が一部にある」とこども基本法に異論を唱えたとされる城内実衆議院議員です。

※東京新聞,マルクス主義?左派的?「こども基本法」に自民党保守派が異論を唱えるワケ,東京新聞2022年2月22日

こども基本法を推進する私ですが、研究者として「マルクス主義」とは明確に異なる立場をとっていることもあり、誤解を解くために面談を申し込んだところ、応じていただきました。

端的に申し上げれば、虐待・不登校・自殺など過去最悪の状況に置かれる日本の子ども・若者たちのためにも、子どもの人権・権利は重要だ、という見解を共有いただきました。

また、家族やこどもコミッショナーについても重視される理由や慎重な見解を持たれる理由をお教えいただきました。

外務副大臣もつとめられた城内議員は、移民や難民問題、子どもの権利条約にも詳しく、子どもには家族の存在も重要であるという、子どもの権利条約の規定の重要性、それとともに子ども自身が差別から守られたり安全に生きられる権利の重要性も認識しておられました。

またこどもコミッショナーと言われている子どもの権利・利益の擁護機関については、子どもを利用しかねない大人への懸念や、丁寧な制度設計の重要性などの論点について意見交換をすることもできました。

私は、民主主義とは選挙によってのみ成り立つものではなく、異なる立場の者同士が対話を重ね、合意をつくるプロセスを大切にし、合意できないことについてもお互いがその理由を共有することにもあると思っています。

そのような民主主義を実践され、根拠をもって冷静に見解を示し対話する国会議員に、旧統一教会の影響を見てとることは、私にはできません。

上記の記事に「左派の考え方だ。恣意的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」、という山谷えり子参議院議員の発言が紹介されています。

私も東京新聞と同様に、面談を申し込みましたが、お返事もいただけず、まだ対話の機会が得られていません。

報道への説明の機会や、対話の機会を大切にしていただくことが、国民の負託に応えることでもあるはずです。

山谷議員が、こども家庭庁名称問題や旧統一教会との関係についても説明や対話の機会を持たれることに期待したいです。

そして山谷議員も、こども基本法に賛成票を投じた事実も私たちは忘れてはなりません。

安倍元総理を頂点とする自民党保守派の同意が得られたからこそ、自民党・公明党の議員立法である「こども基本法」は国会提出されました。

私自身は、研究者として安倍元総理の教育・こども政策の功罪と向き合ってきましたが、安倍元総理がこども基本法に同意いただいたことには深く感謝しています。

ポイント2・こども家庭庁は複数アクターの影響で決められた名称

―「家庭」を強く主張した旧統一教会系国会議員の言動は、国会・ジャーナリズムの検証が必須

さて、こども家庭庁名称問題ですが、自民党内での議論の検証と、自民党の外も視野に入れた広い検証との両方が必要です。

自民党の外も視野に入れると、「こども家庭庁」という名称は複数アクターの影響が大きい、研究者としてはそのように判断しています。

与党・公明党は昨年5月には「子ども家庭庁」の創設を掲げ、首相に提言しています。

またこども家庭庁は、厚生労働省・子ども家庭局再編を基軸とした新省庁設置としての政治的文脈としての意味合いも持っています。

自民党以外の政官主要アクターも、「こども家庭庁」という名称が望ましいと考え、動いていたのです。

この点については、研究者や報道関係者のさらなる検証が比較的容易であり、ドキュメント分析やインタビュー調査をされても同じ結論に至ると判断しています。

なお野党・立憲民主党は今年の第208国会に提出した子ども総合基本法案において、従来、子ども家庭省としていた省庁案を「子ども省」としています。

この点を事実誤認しておられる大人も多いようなので、敢えて追記しておきます。

さて自民党内での議論については、より検証の難易度は上がります。

「こども庁」の議論を精力的にリードされた山田太郎議員、自見英子議員はそれぞれ次のように証言されています。

山田太郎議員:党も政府も『こども庁』で進めてきたのに、突如ひっくり返った。『家庭』を入れたい議員の強い意向があった。手続きを経た決定なので従うが、私は趣旨も経緯も全く納得していない。

※東京新聞「こちら特報部」2022年7月22日記事、インターネット未公開

自見英子議員:自民党の中の様々な議論を経て、そして家庭という言葉が入りましたが、先ほど申し上げたとおり、家庭という言葉は非常に重要です。

ですから、これが正式名称として審議されているということ、私は一つのこれ喜ばしいことだと当然思いますが、同時に、このこども庁という言葉も愛されていたということも感じたわけであります。

参議院内閣委員会議事録・2022年5月24日

これらの証言をふまえれば、自民党内での議論では、家庭がとても厳しい場所だった虐待被害当事者の意見を尊重し、「こども庁」に賛成した議員もいれば、「家庭」を入れたい強い意向の議員もいたということがわかります。

それらの発言をした議員が誰だったのか、特に「家庭」を入れたい強い意向の議員に対して、旧統一教会が「決定的な影響力を行使したかどうか」を検証する必要があります。

これこそが国会、そして報道の使命ではないでしょうか?

岸田総理のおっしゃるように、自民党議員と旧統一教会との関係については以下のように「丁寧な説明は大事」と繰り返し述べておられます。

旧統一教会との関係が報道されている議員が「こども家庭庁」名称問題についても、「丁寧な説明」をされることが必要でしょう。

御指摘の点については、社会的に問題になっている団体との関係については、政治家の立場からそれぞれ丁寧に説明していくことは大事だと思っています。それぞれ、様々な説明を行っているようですが、国民の皆さんの関心も高いわけですので、こうした丁寧な説明を行っていくことは大事であると思っています。

(首相官邸HP・令和4年7月31日総理会見

おわりに・陰謀論を払拭するためにも、こども家庭庁は略称「こども庁」で

ここまで述べてきたように、こども家庭庁名称は旧統一教会の陰謀ではありません。

私はそう判断しています。

ただし、こども「家庭」庁を主張した国会議員に、選挙や献金等を通じ旧統一教会がどのように影響していたか、議員本人の説明や検証が必要な状況なのです。

その意味では、旧統一教会と安易な関係を持ってきた自民党議員が、こども家庭庁に汚点を残したことを私は残念に思っています。

しかし、これだけは断言できます。

いま動いている、省庁としての、こども家庭庁に旧統一教会の影響はありません。

子ども・若者自身の権利・利益が守られ、最善の利益が実現されるために、着実に、そして可能な限り迅速に職務を果たしておられます。

私も以下のように、こども家庭庁の実態を評価し、期待を表明してきました。

こども家庭庁への期待が大きいのは「組織は人なり」という言葉のとおり、子どもの権利を基盤とし、こども政策の実現に全力を注ぐ官僚が、そこにいるからです。

※末冨芳,【解説】こども政策のスタートへ!#こども家庭庁 何が良くなる?略称 #こども庁?#子どもの権利,2022年6月15日

官僚だけではありません。

こども家庭庁に関わる与野党の国会議員、支援団体・専門家とともに、こども政策・こども財源確保を本気で前に進めようとしているからです。

だからこそ、あらためて関係者にお願いしたいのは、こども家庭庁の略称は

「こども庁」

にしませんか、ということです。

自見英子議員の参議院内閣委員会発言の続きはこのようになっています。

こども庁という言葉も愛されていたということも感じたわけであります。

これは個人的な希望でありますけれども、仮にこども家庭庁ができたときには、こども家庭庁の略称はこ家庁ではなくこども庁でお願いできたらいいなとは個人的には思っているということだけ申し上げたいと思います。

こどもまんなか、の理念を実現する「こども庁」。

こどもがどこかに消えている「こ家庁」(コカチョウ)という略称では私も残念な思いがします。

「こども庁」は、子どもたちにもわかりやすい、子どもたちのための省庁として、大人からも愛される略称ではないでしょうか?

日本の子どもたちを、ほんとうの意味で大切にしてくださっている日本国民のみなさんは、どのようにお考えでしょうか?

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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