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前代未聞!星野源「おげんさんといっしょ」が爆発的ツイート数を記録

境治コピーライター/メディアコンサルタント
画像はNHK番組ホームページより(意外に簡素だ)

星野源・初の冠番組「おげんさんといっしょ」驚愕のツイート数

少し前から「おげんさんといっしょ」という番組名がちょっとした話題になっていた。星野源による初めての冠番組で、このゴールデンウィークの放送とのことだった。筆者も見るつもりだったが放送日の夜、リアルタイムで見れなかった上に、録画予約をミスする大失敗をしでかしてしまった。

翌日、ツイッターで番組名を検索すると、かなり面白かったようで盛り上がった視聴者の様子が見てとれた。

そこで、データセクション社の分析ツール、TV Insightで番組ツイートを見てみて驚いた。

データセクション社「TV Insight」分析画面より
データセクション社「TV Insight」分析画面より

ツイートした人数が3万人、ツイート数が12万を超えている。こんな数値はあまり見たことがない。1時間番組で、しかも毎週やってるわけでもない特番(現時点ではおそらく)だ。それがこんなに爆発的なツイート数になるとは、ありえない現象だ。

テレビ番組の放送中のツイート数は、1000人で3000ツイート数くらいだと、もう「ずいぶん盛り上がっている」状態だ。1時間番組で万単位の人が十万を超えるツイート数をつぶやくことなど滅多に起こらない。よほどのヒット作か、恒例イベント的な番組くらいだろう。

例えば星野源の人気を一躍押し上げたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の最終回を見てみよう。

データセクション社「TV Insight」分析画面より
データセクション社「TV Insight」分析画面より

ツイートした人は1万9千、ツイート数は5万8千。多くの人はご承知の通り、最終回は大いに盛り上がった。その結果としての数字だ。視聴率も初回の10%台から最終回は20%を超えるほどめきめき上がり続け、その結果としてのツイート数だ。

あるいは年末恒例の「紅白歌合戦」のデータを見てみよう。

注)グラフの山が低いのは後半に高くなり画面に入り切らないため
注)グラフの山が低いのは後半に高くなり画面に入り切らないため

さすがにツイートした人数は5万6千人。ツイート数は16万6千だ。「おげんさん」よりずっと多い。

だが紅白は4時間半の長丁場。1時間番組の「おげんさん」の4倍以上。16万6千を4.5で割ると3万7千で、時間比で見ると「おげんさん」の圧勝だ。

視聴率は高くないのにツイート爆発の不思議

ということは「おげんさんといっしょ」は、相当な視聴率を獲得したのでは?と誰しも考えるだろう。何しろ「逃げ恥」最終回の視聴率は20.8%、去年の「紅白」の視聴率は前半35.1%、後半40.2%だ(両方とも関東の数値)。星野源の人気沸騰で、視聴率も沸騰していたのではないか?

ところが、先ほど出た記事によると、視聴率は3.8%だったそうだ。

「星野源の「おげんさん」3・8%も「癒された」の声」(日刊スポーツ・2017年5月8日10時27分)

ここ数年、テレビとネットの関係を追ってきた筆者だが、やはり視聴率が高まるとツイッターも盛り上がっていた。もちろん視聴率がさほど高くなくてもツイート数が多い事例も多々あったが、例えば視聴率が10%を一回しか超えなかった「カルテット」のツイート数が1万を超えて驚く、という水準だった。(→筆者記事「消費するのか、咀嚼するのか。TBS「カルテット」が示すドラマの新しい楽しみ方。」)

それからすると、今回の「おげんさん」のケースは異常と言っていい。視聴率が3.8%なのにツイート数が12万というのは、常識を超えた数値なのだ。番組中で「ハッシュタグをつけて曲のリクエストをツイートして」と煽ったというから、それが影響はしているだろう。だがツイートの中身を見ていくと、それに当たるツイートは実はさほど多くはない。ではいったいどういうことなのか?

ツイートを誘発する仕組み?

ツイート数爆発の理由として考えられるのは、制作者と星野源自身によるソーシャルメディアの上手な活用だ。

まず番組のツイッターアカウントを見てみると、面白く番組を紹介している。

このように、少しずつ中身を明かしていったり、視聴者からの募集をしている。明かされた配役が「お父さん=高畑充希」といった具合にツッコミたくなる要素満載だ。

だがこの番組アカウントは、実は投稿数が多くない。4月24日から番組放送日の5月4日まで、投稿数はたったの20だ。それなのに、フォロワー数が12万人もいる。

なぜか。

星野源のアカウントから誘導されたのだ。

星野源のアカウントでは、当然ながら自身の出演番組として「おげんさん」が告知されている。それと同時に番組アカウントも盛んにリツイートされており、71万人いるフォロワーの一部が早速番組アカウントもフォローしたことが推測できる。

また星野源はラジオ番組「オールナイトニッポン」のパーソナリティとしても人気で、連休直前にギャラクシー賞を受賞した。

この受賞が追い風になったというのもあるだろうが、ここで気付かされるのは、星野源が自身でクロスメディア的なプロモーションを行なっていることだ。彼のツイッターアカウントを軸に、ラジオとテレビの間を行き来している様子がツイッターから見えてくる。

つまり「おげんさんといっしょ」の異常なツイート数は、もちろん番組そのものの面白さがあり、星野源のあふれる才能の結果なのだが、それ以上にソーシャル上でファンたちを誘導した証でもあるのだと思う。そしてまた、星野源にはそれに反応する熱いファンがついている、ということだろう。

ただ、それにしても今回の数字は異常だ。説明しきれない。追ってまた情報を収集し、何か見えたら続報としてお伝えしたい。また、番組を見た方はぜひコメント欄やツイッター上で「なぜツイートしたのか」を教えてもらえたらと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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