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「メディアの中身はすべて、習近平指導部が見せたいものとなる」中国で広がる悲観論

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
(写真:ロイター/アフロ)

 中国政府は最近、国内で民間企業が報道業務に携わることを禁じる新たな規制案を公表した。今月14日まで意見を募り、案を最終決定する。中国ではこれまでにもメディアに対する厳しい規制が敷かれ、報道の自由は制限されている。今回の規制が決まれば、報道は「すべて国営」となり、インターネット上には「中国からニュースというものが消える」との悲観論が広がっている。

◇民間企業の報道を禁止

 中国の国家発展改革委員会は今月8日、市場参入を制限する分野を列挙した2021年版「ネガティブリスト」の案を一般に公開した。そこには報道に関連して、「非公有資本」(民間企業)の禁止事項を次のように記している。

(1)ニュースの取材、編集、放送、配信事業に従事できない。

(2)通信社や新聞社、ラジオ・テレビ放送局、インターネットニュースの会社などを設立・経営してはならない。

(3)報道機関の紙面、周波数、チャンネル、記事・コラム、アカウントなどを運営してはならない。

(4)政治、経済、軍事、外交、重要な社会問題、文化、科学技術、衛生、教育、スポーツおよび、政治的志向や世論誘導、価値観に関わるその他の活動・イベントの生放送を手掛けてはならない。

(5)海外メディアが発表したニュースを引用してはならない。

(6)ニュースや世論の分野でのフォーラム、サミット、賞の選考活動を禁止する。

◇党大会に向け社会や思想の統制強化

 中国では、国営の中央テレビや新華社通信、中国共産党機関紙・人民日報が党や政府の考えを伝え、人民日報系の環球時報に党・政府の本音が記されているといわれる。北京や各地方の党組織や傘下企業が独自に発行している新聞もあるが、近年の新聞離れに加え、習近平指導部発足後の厳しい規制によって内容も影響力も大きく落ち込んでいる。

 このため調査報道を志す記者たちの多くが「新浪」「網易」などの新興のインターネットメディアに移籍し、独自の取材活動を展開するようになった。だが、この動きを追うように、当局はネットメディアへの規制も強め、現場に行くことを許可しなかったり、記事を削除したりするようになった。

 中国では一般市民の多くが、多様なメディアが発信した記事を「新浪」「網易」「今日頭条」などのポータルサイトや、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」などを通して読む。ただ、これらの中でもフロントページの一番上に配置されるのは、ほぼ習近平(Xi Jinping)国家主席に関するニュース。見出しも内容もほぼ同じだ。また事件・事故の原稿は政府発表や新華社報道がそのまま使われている。

 今回の措置により、ネットメディアがさらなる打撃を受けることになり、記事は当局の意向に沿ったものだけになる。

 党や政府は来年秋に予定される党大会に向け、社会や思想の統制を強めている。今回の措置にも、党や政府が直接コントロールできる国営メディアだけに取材・報道を認め、言論統制を強化するという意図が明確になっている。

◇「すべてが“残り物”になる」

 今回の措置に対して、微博上には多様な意見が匿名で記されている。

 あるユーザーは「これはニュースメディアが完全に国有化されることを意味しており、その影響は非常に大きい。なぜなら、ニュースと情報の境界がいま、曖昧になっているからだ」と書き込み、報道に限らずネット上のあらゆるコンテンツにも網がかけられる可能性を危惧している。

 ほかにも警戒のコメントが続く。

「早晩、ニュースというものはなくなる」

「ジャーナリストはこのニュースを見て、沈黙してしまった。彼らの立場はますます制限され、コミュニケーションの手段も厳しくなる」

「あなたが目にするものは、すべて国家が見てほしいものになる」

「新鮮な情報がなくなり、すべてが“残り物”になる」

 中国で最近、多方面に広がる規制に対して「嘔吐してしまう」という拒否反応が記される一方で、「大衆ができることは、ただ『支持』を表明することである」「いずれ、こういう日が来るとは思っていたが、それが来るのがあまりにも早い」というあきらめの声もささやかれる。

 国内外では、こうした習指導部の急進的な社会統制を「文化大革命(1966~76年)の再来」とたとえる声も少なくない。「わずか50年、中国はまた生まれ変わった」というため息も漏れる。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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