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北朝鮮の衛星打ち上げ失敗にも「処罰」ではなく「失敗から学べ」――金正恩総書記に焦りはないのか

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
国防科学院で演説する北朝鮮の金正恩総書記=朝鮮中央通信HPキャプチャー

 北朝鮮が軍事偵察衛星の打ち上げに失敗(27日)した翌日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は軍事部門幹部とともに、衛星開発で重要な機能を有する国防科学院を訪問した。同院の開設60周年式典で演説した際、自ら「失敗」を口にし、その原因まで言及した。金総書記は失敗をとがめるのではなく、むしろそこから教訓を得て、次の成功にこぎつけるよう激励するものだった。金総書記に焦りはないのか。

◇「制裁違反ではない」を強調か

 日韓の報道を総合すると、27日午後10時44分ごろ、北朝鮮は西海衛星発射場(平安北道東倉里)から軍事偵察衛星「万里鏡-1-1」号を新型衛星キャリア・ロケットに搭載して打ち上げた。だが同46分ごろ、北朝鮮側の海上で爆発が確認された。

 北朝鮮当局は「ロケットは1段の飛行中、空中爆発して打ち上げが失敗した」(国家航空宇宙技術総局副総局長)と発表したうえ「初歩的な結論」として「新たに開発した液体酸素+石油エンジンの作動の信頼性に事故の原因がある」と明らかにした。

 そもそもロケットは地球を離れるために莫大な推進力を要する。それを生み出すため、燃料と酸化剤(酸素のない宇宙空間で燃料を燃やすためには必要)のさまざまな組み合わせを用いる。酸化剤と燃料は混合・点火されると爆発し、推進力となる。

 韓国の専門家の意見を総合すると、北朝鮮が「新たに開発した」としているのは、液体酸素(酸化剤)と、「ケロシン」(灯油の一種)を組み合わせた推進剤。米国やロシアなど宇宙開発国では主流のロケット燃料だが、北朝鮮ではこれまで見られなかったものだ。

 液体燃料エンジンは軍事用と宇宙発射用では異なる。

 軍事用は「直ちに発射可能」という状態に置く必要があり、常温でも運用できる酸化剤を使わなければならない。したがって低温の液体酸素は軍事用には向かず、移動式発射も液体酸素では不可能とされる。

 つまり北朝鮮が「新たに開発した液体酸素+石油エンジン」によって強調しているのは――自分たちの「衛星打ち上げ」は、国連安全保障理事会が禁じる「弾道ミサイル技術を用いた発射」ではなく、「純粋に、科学的な目的に基づくものだ」ということではないか。

 つまり北朝鮮は核弾頭を搭載して発射するような弾道ミサイルへの転用を考えてない、つまり国連安保理決議違反には当たらない、という論理を示唆しているのだろう。

 一方、液体酸素を使うエンジンは北朝鮮が直ちに開発できるものではない。通常、新型の開発には少なくとも2〜3年かかることから、ロシアの支援を受けた可能性がある。ロシアからこのエンジンを持ち込み、数回の燃焼試験を経て使用した可能性が高い――専門家の見解はこの点で一致する。

◇「失敗に恐れを抱いて萎縮するな」

 国防科学院での演説で、金総書記は今回の打ち上げ失敗に自ら言及し、「1段目エンジンの異常により自爆システムによって失敗した」と明らかにした。さらに「通信衛星や気象観測衛星、資源探査衛星ではなく、偵察衛星の保有を最優先目標として推進しているのは、これを獲得することが国家の安全と直結する最重要課題だからだ」との考えを示したうえ、次のように前向きな姿勢を強調してみせた。

「我々は、失敗を恐れて萎縮するのではない。さらに大きく奮起することになるのだ。失敗を通じて多くを学び、さらに大きく発展するものだ」

「国防科学者や技術者にとって失敗はあくまで成功の前提であり、決して挫折や放棄の動機にはなり得ない」

 北朝鮮が昨年5月と8月、偵察衛星の打ち上げに失敗した際、報道したのは対外向けメディアである朝鮮中央通信だけだった。ところが、今回は北朝鮮住民が閲覧できる党機関紙・労働新聞に掲載されただけでなく、最高指導者自らが失敗に言及し、それを前向きにとらえるという異例のものだった。

 その背後にはおそらく、宇宙開発先進国ロシアからの支援を受けていることへの自信があるのだろう。北朝鮮が自力で打ち上げ、それに失敗したのであれば、その打開策を見いだすのは容易ではない。失敗を国内外に知らせるのも、はばかられるだろう。

 金総書記は昨年末の党中央委員会総会で、2024年に軍事偵察衛星を追加で3基打ち上げる方針を示している。北朝鮮がそれを目標に据えるならば、打ち上げのペースを上げ、四半期に1回程度に早める必要がある。

 昨年、打ち上げに失敗した際、北朝鮮当局は「再発射」を公言していたが、今回はそれがない。「萎縮すべきでない」とはいえ、度重なる失敗を受け入れられるだけの余裕が北朝鮮にあるのか。金総書記はともかく実務陣が非常に厳しい環境に置かれているのは間違いない。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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