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シリア北東部への水道水供給阻止を狙うトルコ軍は、揚水所からの送水停止に続いて、管水路を破壊

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

トルコ軍がハサカ県北部を通る管水路を砲撃

シリア北東部ハサカ県では、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団やクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、トルコ軍とその支援を受ける国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army、TFSA)は2日、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるタッル・タムル町近郊のアッブーシュ村、ウンム・カイフ村を砲撃した。この攻撃で、アッブーシュ村にあるシリア軍検問所が被弾、士官(大尉)1人を含む将兵2人が死亡、5人が負傷(シリア人権監視団によると、負傷した兵士は7人)、ウンム・カイフ村でも住民1人が負傷した。

北・東シリア自治局はPYDが主導する自治政体。

ANHA、2020年4月2日
ANHA、2020年4月2日

砲撃は、トルコの占領下にあるラアス・アイン市西のアルーク村にある揚水場からタッル・タムル町に至る管水路を狙ったもので、管水路は利用不能となった。

なお、国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、砲撃に関して、軍人ではなく住民2人が死亡、4人が負傷したと伝えた。

トルコ軍は3月22日、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるハサカ市およびその周辺地域への水道水の供給を阻止するため、アルーク揚水場からの送水を停止した(「UNICEFはトルコ軍による水道水供給停止でシリアの子どもが新型コロナ感染の脅威に晒されていると非難」を参照)。

だが、国際連合児童基金(UNICEF)の非難やシリア政府の抗議を受けて、26日に送水を再開していた(29~31日に再び送水を停止)。

Liveua Map、2020年4月3日
Liveua Map、2020年4月3日

トルコ軍はラッカ県、アレッポ県でも砲撃を行う

トルコ軍と国民軍はまた、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるラッカ県アイン・イーサー市近郊のヒルバト・バカル村、サーファーン村、アレッポ県タッル・リフアト市近郊のバイナ村、アキーバ村、ズィヤーラ村、マンビジュ市近郊のアラブ・ハサン村を砲撃した。

シリア人権監視団によると、アラブ・ハサン村に対する砲撃では、シリア軍士官(少尉)2人が負傷した。

これに関して、トルコ国防省は声明を出し、トルコ軍特殊部隊がアレッポ県で「テロリスト」に対する軍事作戦を成功裏に実施し、「ユーフラテスの盾」地域に潜入しようとしたPKK(クルディスタン労働者党)/YPG(人民防衛隊)のメンバー14人を無力化したと発表した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

(追記)シリア政府は4月4日に破壊された管水路を修復した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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