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UNICEFはトルコ軍による水道水供給停止でシリアの子どもが新型コロナ感染の脅威に晒されていると非難

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2020年3月23日

トルコ軍がシリア北東部への水道水供給を停止

ハサカ県では、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団や国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、ラアス・アイン市から約6キロ西に位置するアルーク村(東アルーク村)の揚水所に駐留するトルコ軍部隊が22日、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるハサカ市およびその周辺地域への水道水の供給を停止した。

北・東シリア自治局とはクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体。

水道水の供給停止は23日にも続いた。

LiveuaMap、2020年3月23日
LiveuaMap、2020年3月23日

トルコは2019年10月に「平和の泉」作戦と銘打ってシリア北東部に侵攻し、ラアス・アイン市一帯とラッカ県タッル・アブヤド市一帯と占領下に置いている。

トルコ軍と国民軍がハサカ県、ラッカ県、アレッポ県を砲撃

PYDに近いANHAによると、トルコ軍とその支援を受ける国民軍(トルコの支援を受けるいわゆる自由シリア軍)はまた、ハサカ県タッル・タムル町近郊のウンム・カイフ村、ラッカ県アイン・イーサー市近郊のフーシャーン村とクール・ハサン村、アレッポ県タッル・リフアト市近郊のウンム・フーシュ村を砲撃、ウンム・フーシュ村で住民1人が負傷した。

ANHA、2020年3月23日
ANHA、2020年3月23日

UNICEFシリア事務所長がトルコの水道水供給停止でハサカ県の子どもが新型コロナウィルス感染の脅威に晒されていると非難

国際連合児童基金(UNICEF)シリア事務所のフラン・エクイザ所長は声明を出し、トルコ軍がアルーク揚水所からの水道水供給を停止していることに関して、「新型コロナウィルス感染拡大を食い止めようとする努力がなされているなか、子どもや家族を危機に晒しており、受け入れられない。石鹸で手を洗うことはCOVID-19に立ち向かううえできわめて重要だ」と非難した。

エクイザ所長はまた「アルーク揚水所は、ハサカ市、タッル・タムル町、フール・キャンプ、アリーシャ町で暮らす約46万人にとって主要な水源で、安全な水を得られることは、この地域の子どもや家族が病気にかからないようにするうえで必要なことだ…。UNICEFとその協力機関はハサカ市の世帯、避難民キャンプへの水の搬入を支援しているが、再び水道水供給が途絶えれば、必要最低限さえカバーできなくなる」と付言した。

そのうえで「どんな子どもでも、安全な水がない状態で1日を過ごしてはならない。きれいな水と手洗いが命を救う。軍事的・政治的目的を実現するために水利施設や水を利用することは受け入れられない。子どもたちはこうしたことでまっさきに被害を受けるからだ」と強調した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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