北朝鮮核問題を作った根源は米国と旧ソ連にある
フーテン老人世直し録(347)
睦月某日
1月8日は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の誕生日である。34歳になったとみられるがしかしそれを伝える報道も誕生日を祝う公式行事もない。ただ翌9日に事務レベルを飛び越し南北朝鮮の高官級会談が急きょ決まったことが、金正恩委員長にとって誕生日を意識した動きなのかとの憶測を生む。
南北会談はあくまでも平昌オリンピックへの参加問題がテーマだが、オリンピックにとどまらず緊迫の度合いを高める米朝武力衝突の可能性を抑え、対話路線へと舵を切るきっかけにしたいとの思惑が韓国の文在寅政権にはある。
とりあえず平昌オリンピック期間中の米韓合同軍事演習について、米国のマティス国防長官はオリンピック終了後に延期する方針を表明したが、一方で南北対話には米韓同盟に楔を打ち込む狙いがあると懸念を示し「オリンピックだけを議題にすべき」と発言、韓国の宋永武国防相にも電話でくぎを刺した。また米国務省も同様の考えを表明した。
ところが新年早々「私の机の上には核のボタンがある」と米国を威嚇した金正恩委員長に対し、「私のボタンはもっと大きくて強力」と子供じみた反応を示したトランプ大統領は「韓国の文在寅政権を100%支持する」と南北会談を歓迎した。そして「オリンピック以外の問題も議論すべき」とマティス国防長官らの考えを一蹴した。
さらに「適切な時期が来れば米国も関与する」と自らが直接金正恩委員長と電話会談を行う考えのあることを表明した。勿論その前提にあるのは朝鮮半島の非核化だが、トランプ大統領は「強硬姿勢があったから話し合いが生まれた」としたうえで「私がふざけているわけではないことを(正恩氏は)分かっているはずだ」と述べた。
このところマイケル・ウォルフ著『炎と怒り』というトランプ政権の暴露本が出版され、「大統領はまともな判断ができるのか?」が米国で論議の的になっている。しかしこの南北会談に関する反応はまともだとフーテンは思う。
米軍が中国と協力して北朝鮮の核施設を制圧し、しかるのち米中が38度線で朝鮮半島を分け合う米中密約があるとの荒唐無稽な話より、また北朝鮮を経済的に締め上げて政権崩壊を狙う「ソ連崩壊」第二弾をやろうとする愚かな計画より、少なくも前例踏襲の官僚的発想ではない前向きな政治家の思考である。
最近の米国メディアによる北朝鮮報道には、単に北朝鮮の脅威を煽るのではなく問題の根源を探る傾向を見ることが出来る。CNNの特番「秘密の国家」は憎悪の対象であるはずの米国人に北朝鮮民衆がどう接してくるかを放送したし、「ニューズウィーク日本版」は「金正恩がアメリカを憎悪するもっともな理由」と題する記事を掲載した。
後者は100人以上の脱北者を取材し『密閉国家に生きる』(中央公論新社)を書いたロサンゼルス・タイムズのバーバラ・デミック記者が語った内容である。なぜ朝鮮半島が38度線で分断されたかを教えてくれる。
第二次大戦後、敗戦国ドイツは「侵略の罪」で米ソによって東西に分断された。一方の朝鮮は侵略をしたわけでもなく敗戦国日本に支配された状態から独立できるはずだったのに米ソによって南北に分断された。
北緯38度で線を引いたのは米国である。2人の陸軍将校がソウルを米国の支配下に入るように考え地図を見たら38度線を見つけた。ソ連も同意し38度線以北はソ連が支配することにした。
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