ジョディー・フォスター主演のサイコ・ホラー映画「羊たちの沈黙」は本当に怖い映画だった。そして、この映画には、陰の主役と言ってもいい昆虫が登場する。それはメンガタスズメという蛾だ。この蛾の成虫は、背中にドクロのような模様があるため、英語ではDEATH’S HEAD MOTH（ドクロ蛾）などと呼ばれる。

　この蛾は、毒を持っているわけではないのに、この模様のせいで、不幸や死の象徴と恐れられることもあり、ひどい災難があった夜に現れるという都市伝説さえ生まれている。

　「羊たちの沈黙」の中では、猟奇的なシリアルキラー（連続殺人犯）がドクロ蛾を飼育している。被害者の喉にこの蛾の蛹が突っ込まれているというのも怖い。

　なので、メンガタスズメを飼育している者は、人前で堂々とその事実を公表することをためらう。殺人犯とは思われないまでも、変質者ぐらいには思われて、警戒されるからだ。

　しかし、メンガタスズメの仲間（日本にはメンガタスズメとクロメンガタスズメがいる）の幼虫は、巨大で非常に美しいイモムシだ（個人の感想です）。このため、虫好き、特にイモムシ好きの人々は、この幼虫を見つけると大喜びする。昆虫記者も例外ではなく、今年もこの妖艶なイモムシを飼育している。

　素敵なイモムシ女子の中にも、メンガタスズメの幼虫のファンは多い。つまり強調したい点は、「メンガタスズメの飼育者＝殺人者、変質者」ではないということであり、虫探しで時々怪しい行動を取る昆虫記者も、シリアルキラーではないということだ。

　しかし、この美しい幼虫も一般には嫌われている。トマトやナスの害虫だからだ。そして成虫は、ミツバチの巣を襲って蜜を盗み飲むことがある上、キーキーと不気味な鳴き声を出す。虫好きがいくら擁護しても、やはりメンガタスズメの「嫌われ者」の印象をぬぐい去ることはできない。

（写真は特記しない限りすべて筆者撮影）