東京都心にクマソ襲来=熱帯の蝶が決死の北上
熱帯のソテツに発生するはずの蝶「クロマダラソテツシジミ」が近年、東京都心の公園にも頻繁に姿を見せている。数年に1度は関東各地でも大量発生するので、今では「クマソ」の愛称(外来の害虫なので敵意がこもっている場合もあるかも)で呼ばれることさえある。
「クマソ(熊襲)」は、日本の神話に登場する九州の勇猛な種族の名でもある。熱帯地方から沖縄に進出し、関東にまで姿を見せるようになったクロマダラソテツシジミは、大和王朝に激しく抵抗した熊襲の脅威を思い起こさせる。
東京でクロマダラソテツシジミがよく見られる季節は9月以降。台湾から南西諸島、九州へと夏場に徐々に北上して勢力圏を拡大。9月ごろに関東にたどり着くようだ。
以前は台湾とされていた越冬の北限は、最近では沖縄本島を含む南西諸島となり、九州でもまれに越冬が報告されている。しかし関東では、真冬から5月ぐらいまで、幼虫の餌となるソテツの新葉がないので、今のところどうやら越冬は不可能らしい。
つまり、勢力圏拡大を目指した決死の北上は、毎年敗北で終わる。関東でそんなクマソの死に際の雄姿を見たければ、ソテツのある公園を検索してみるのがいい。
ただしクマソは、小さい上に、わりと地味な蝶なので、交通費と入園料を払って探し当てても「なーんだ、こんなつまらない蝶なのか」とガッカリして、昆虫記者を恨む人がいるかもしれない。遠方の入園料の高い公園なら、クマソ探しを主目的にしないことをお勧めする。
今年はソテツが1株しかない横浜市の公園(入園無料)でもクマソを見かけたので、近所の小さな公園や個人宅の庭先でも、ソテツさえあればクマソがいるかも。金欠の昆虫記者としては、クマソごときのために懐を痛めたくない気持ちは良く分かるのである。
(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)