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アメリカからやって来た飛び道具?=メリケントビハムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
メリケン(アメリカン)の名が付くだけで何となく格好いい印象のメリケントビハムシ。

 「メリケン」と言えば、中高年がすぐに連想するのは、悪役レスラーやマフィアが使うメリケンサックと、小麦粉の通称のメリケン粉。しかし、虫好きの間では近いうちに、メリケントビハムシが日常の話題になりそうだ。

 メリケンとはもちろんアメリカンのこと。つまりメリケントビハムシは米国からやって来たハムシだ。「トビ」は、飛び出しナイフや飛び道具などの物騒な「飛び」ではなく、ジャンプの「跳び」のこと。トビハムシの仲間は太い後脚でジャンプして逃げる。

 つまりメリケントビハムシは、逃げ足の速いハムシであり、メリケンサックのような強力な攻撃力を持ってはいない(ただし害虫になるかもしれず、その際の破壊力は未知数)。

 メリケントビハムシは、小さな虫だが、青や緑のメタリックな輝きを放つ翅が美しい。日本への侵入が確認されたのは2020年頃なので、かなりの新参者なのだが、昆虫記者が東京や横浜で何度も出会っていることから分かるように、既に関東を中心に広範囲で定着しつつあるようだ。

交尾中のメリケントビハムシ。逃げ足の速いハムシだが、交尾中は行為に夢中なので写真を撮りやすい。
交尾中のメリケントビハムシ。逃げ足の速いハムシだが、交尾中は行為に夢中なので写真を撮りやすい。

ヒユ科の雑草に群れるメリケントビハムシ。
ヒユ科の雑草に群れるメリケントビハムシ。

 メリケントビハムシは幼虫も成虫も、荒地にすぐに生えてくるイヌビユの仲間(アオビユ、アオゲイトウを含む)の雑草を餌にしている。

 このハムシは外来種なので、駆除した方がいいという意見もあると思う。しかし、雑草を食べてくれて、今のところ人の生活に害をなしていないようなので、駆除は喫緊の課題ではないようだ。

 余談だが、ヒユ科の雑草は、おひたし、油いためなどで食べられる美味しい草として知られる。一番有名なスベリヒユは、ぬめりのある独特の食感があり、先日見たテレビ番組では、美味しい雑草のトップに挙げられていた(昆虫記者も食べてみたが、結構美味しかった)。イヌビユの仲間はホウレンソウに似た味で、雑草界のホウレンソウと呼ぶ人もいるらしい。それもそのはず。ホウレンソウもヒユ科とされている。

田畑の畔や空き地に多いヒユ科のこんな雑草がメリケントビハムシの好物。下は穂が出た状態。
田畑の畔や空き地に多いヒユ科のこんな雑草がメリケントビハムシの好物。下は穂が出た状態。

雑草の中で一番おいしいと評判のスベリヒユ。誰の家の近くにもきっと生えている。ただしメリケントビハムシをスベリヒユで見つけたことはまだない。
雑草の中で一番おいしいと評判のスベリヒユ。誰の家の近くにもきっと生えている。ただしメリケントビハムシをスベリヒユで見つけたことはまだない。

大写しにすると綺麗なハムシだが、実際はかなり小さい。
大写しにすると綺麗なハムシだが、実際はかなり小さい。

幼虫はこんな姿。あまり見栄えは良くない。
幼虫はこんな姿。あまり見栄えは良くない。

 ただイヌビユの仲間は他の雑草との見分けが難しい。そこで活躍するのがメリケントビハムシだ。このハムシがたくさん付いている植物があれば、それはほぼ確実にイヌビユの仲間であり、食べて美味しいはずだ(保証はできないので、本当に食べる場合は植物の専門家に確認するのが望ましい)。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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