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男性育休「義務化」への誤解と、「人手不足」だからこそ男性育休が必要な理由

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:西村尚己/アフロ)

政府内でも男性の育休「義務化」が検討される中、中小企業の約7割が、男性育休の義務化に「反対」との調査結果が大きな話題となった。

日本商工会議所が公表した調査結果によると、「男性社員の育児休業取得の義務化」について、「反対」(22.3%)、「どちらかというと反対」(48.6%)が合計70.9%に上り、業種別だと運輸業81.5%、建設業74.6%、介護・看護74.5%といった、人手不足感の強い業種において「反対」と回答した企業の割合が比較的多かったという。

日本商工会議所
日本商工会議所

育休を望む労働者側からしてみれば、「だからこそ」義務化が必要なんだと思わざるを得ないが、決して企業側に負担がかかるばかりではなく、むしろ「人手不足」だからこそ働き方改革を実現し、育休を取りやすい企業に生まれ変わる必要があることを説明していきたい。

関連記事:なぜ今「男性の育休義務化」が必要なのか?フランスでも「男性の産休」義務化の動き

男性育休「義務化」にまつわる誤解

「育休を取ったら大きく収入が減るんじゃないか」、「休むと会社に金銭的負担があるんじゃないか」、「一年間も休んだら、職場の仕事が回らなくなるんじゃないか」、男性育休に関して、こうした疑問がよく聞こえる。

しかし実際はいずれも「誤解」であり、先日の記事でも紹介した『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』 (PHP新書)の中で、「男性育休にまつわる7つの誤解」としてまとめられている。

それぞれ要約すると、こうなる。

誤解1「育休で収入がなくなったら生活が立ち行かない」

→平均的な会社員なら、9割程度の手取り収入が保障される。

産後180日間、月給の67%分が雇用保険から育児休業給付金として支払われ、加えて育児休業期間中は雇用保険などの社会保険料が免除されるため、実際の手取り額で比較すると8〜9割となる。

こうした所得補償などの制度は世界的にも充実しており、2019年6月に発表されたユニセフの子育て支援策に関する報告書では、OECDとEUに加盟している41カ国中、日本の育児休業制度(育休の週数×給付金額で算出)は、男性で1位の評価を得ている

誤解5「休むのに給付金をもらうと、会社に金銭的負担をかける」

→給付金は社会保険料から支払われるので会社の金銭的負担はない。

支給されるお金は、自分の給料から天引きされている雇用保険から捻出される。それどころか、企業は助成金(両立支援等助成金)を受け取ることもできる。中小企業の場合は最大72万円助成され、例えば月給30万円の男性が1カ月取得すると、助成金72万円と支払いがなくなる給与の合計で会社は102万円の収入増となる。102万円あれば、仮に育休中の社員の代替要員を雇った場合でも、人件費や教育費に充てることや、仕事を割り振ったために業務量が増えた社員たちへのボーナスや残業代として使用することも可能な額となっている。

誤解6「1年間も休んだら、職場の仕事が回らなくなる」

→男性の育休期間は柔軟性が高く、大きな支障が出ない形で取得可能。

そもそも男性社員で1年間取得するケースは極めて稀だが、「パパ休暇」と「パパ・ママ育休プラス」という制度があり、該当期間中であれば、男性は育休を二回に分けて取れる、通常よりも2カ月長く育休が取れることになっている(産後1年2カ月までの期間に育休取得が可能)。また、「一時的・臨時的な」業務であれば、月10日間以下もしくは月80時間まで働くことができ、「半育休」などの柔軟な働き方が可能になっている。

また、現在政府で検討されている男性育休「義務化」は、企業側から男性社員に育休取得を促す「プッシュ型」の義務化であって、男性に育休を義務化させるものではない。

(P156ー157)

義務化は、誰への義務なのか

「男性育休義務化」議論は、当初SNSで大炎上しました。「義務って、どういうこと?」「取りたくない男性も絶対に取得しないといけないの?」と。これは、多少狙った効果ではありましたが、誤解です。あくまでも「義務化」の対象は企業であり、「企業には、育休取得対象者に対して、取得する権利があることを必ず説明する義務がある」ということです。

出典:『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』 (PHP新書)

「働き方改革」放置では、学生に選ばれない時代

このように、企業側の財政負担にならないよう、制度が充実しているだけではなく、むしろ人材採用において、男性育休がメリットになる可能性も高い。

というのも、企業選びにおいて、「働き方」が極めて重要になってきているからだ。

多忙が指摘されながらも一向に改善しない、教員の志望者数低下、国家公務員の志望者数低下はまさにその象徴であるが、HR総研が2020年6月に「楽天みん就」と共同で、2021年卒学生に対して行ったアンケート調査結果でも、9割近くが働き方改革の取り組み状況が「気になる」としており、働き方改革を放置していては学生に選ばれない時代が到来しつつある。

HR総研×楽天みん就「2021年卒学生の就職活動動向調査 結果報告【就職意識編】」
HR総研×楽天みん就「2021年卒学生の就職活動動向調査 結果報告【就職意識編】」

実際、今回男性育休「義務化」に反対の多かった運輸、建設、介護・看護の業界は、労働基準法の36協定の上限が適用されていない分野であり(2024年から適用)、だからこそ「人手不足」に陥っていると言える。

学生が企業に期待するものとしても、子育てのしやすさや残業時間の少なさ、有休取得日数が挙げられており、これらの観点からも企業の良否を判断しているのが現状だ。

企業に期待するもの

「くるみんマーク。女性でも長く働けるから」(文系・上位私立大)

「くるみんマーク、えるぼしマークの取得」(理系・中堅私立大)

「育休後の復帰率が高い」(理系・上位国公立大)

「育休制度の充実」(文系・中堅私立大)

「会社の近くに託児所がある」(文系・中堅私立大)

「残業時間を減らす取り組み」(文系・早慶大クラス)

「有休の平均取得日数が高い会社や有休日数、月の残業時間をしっかりと説明してくれる企業は印象がよかった」(理系・その他私立大)

出典:HR総研×楽天みん就「2021年卒学生の就職活動動向調査 結果報告【就職意識編】」

※くるみんマークとは国から「子育てをサポートする働きやすい企業」と認定された証。えるぼしマークも同じく女性活躍推進に関する状況などが優良な企業に発行される認定マーク。

「人手不足」だからこそ男性育休が必要

そして、現状多くの男性社員が育休取得を望んでおり、日本生産性本部の調査によると、2017年度の男性新入社員の79.5%が「子供が生まれたときには育児休業を取得したい」と回答。

東京都が2019年に実施した「男性の家事・育児参画状況実態調査」で男性の育休取得状況を調べると、「育休等を希望通りに取得できなかった」が79.1%に上り、「育休等を希望通り(又は希望以上)取得できた」は16.2%にとどまった。

こうした現状を踏まえれば、『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』 (PHP新書)の中でも、男性社員の育休取得率100%、残業ゼロで採用がうまくいった中小企業の事例が紹介されているが、男性育休を取りやすい環境に変えていくことはむしろ人材不足の切り札であり、これを放置するようでは、今後さらに人が集まらず、淘汰されていく可能性が高いことを認識する必要があるだろう。

積水ハウスが実施している全国の男性の育児休業の実態調査で、取得した男性の約8割が家事と育児に「幸せを感じる」と答えており(1カ月以上取得した人は9割にまで達する)、これまでこうした幸せな時間を放棄してきた日本社会が「異常」だったのではないか。

イクメン白書2020(積水ハウス)
イクメン白書2020(積水ハウス)
イクメン白書2020(積水ハウス)
イクメン白書2020(積水ハウス)
イクメン白書2020(積水ハウス)
イクメン白書2020(積水ハウス)

「働き方改革」が叫ばれている今こそ、より暮らしやすい形に、企業も制度も変わっていくことを期待したい。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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