警護態勢4つの失敗「米国の元大統領が同じ銃撃にあったなら生きのびていただろう」米分析 安倍元首相暗殺
アメリカでも速報が流れるビッグニュースとなった安倍晋三元首相の暗殺事件。筆者が疑問に感じたのは、なぜ、警護要員たちは安倍元首相を守ることができなかったのか、ということだ。同じ状況がアメリカで起きていたとしたなら、守ることができたのではないか?
そんな疑問を抱きながら、数々の米国の報道に目を通す中、「安倍晋三暗殺の背後にある警護の失敗を解読」と題する記事が目に止まった。保守系ニュースサイト「ワシントン・エグザミナー」の意見記事で、国家安全保障専門ライターのトム・ローガン氏が、安倍元首相が暗殺される状況を映し出している動画を見て分析している内容だ。興味深いので紹介したい。
警護の4つの失敗
「日本の元首相安倍晋三氏の暗殺は警護の大失敗を示している」と述べているローガン氏は、警護には4つの失敗があったと指摘している。
1. 市民と安倍氏を分け隔てる遮断線が明らかに欠如していた
要人が大勢の人々の中にいる時、遮断線を設けるのは不可能なこともあるが、事前に計画されていた演説では、警護上の脅威を遮る遮断線が必要だ。
2. 警護要員が、安倍氏から遠く離れたところにいた
警官が安倍氏の近くにいたら、銃撃が始まった時、すぐに安倍氏に覆いかぶさり、実践できるなら安倍氏を避難させる責任を負っただろう。他の警官らも、安倍氏の周囲を固めるために近くにいるべきだった。彼らがそうしていたなら、安倍氏を死に至らしめた2番目の銃弾から安倍氏を保護できたかもしれない。
(ローガン氏は、2016年の大統領選の際に、トランプ氏やサンダース氏が巻き込まれた事件を、襲撃への対応例として紹介している。プロテスター(抗議者)がトランプ氏やサンダース氏が立つステージに推し寄せた時、シークレットサービスのエージェントがトランプ氏やサンダース氏を取り囲み、他のエージェントはプロテスターを取り押さえたという。そのタクティクスにより、政府要人に向けられた襲撃者の視線を遮り、また、襲撃者が迂回して襲撃するリスクを軽減することができるという)
3. 警護要員の中には、明らかに行動するのに躊躇している者がいた
警護要員の中には、襲撃者に向かって突進する前に、立ち止まっていた者がいた。シークレットサービスのエージェントは躊躇しないよう厳しく訓練されている。
4. 最初の発砲後、警官が安倍氏にリーチするまでにかかった時間が長すぎた
2人の警官が、最初の発砲と2番目の発砲の間に、安倍氏と襲撃者の間に入ったが、そうしたのは彼らだけだった。彼らは、ブリーフケースに見せかけた防弾シールドを掲げ、銃撃に突進することによって素晴らしい勇気を見せた。しかし、これら2人の警官は、2番目の発砲を防ごうとしただけではなく、安倍氏が倒れたことに気づくと安倍氏を助けに行った。最初の発砲後、警官が安倍氏にリーチするまで、少なくとも7秒かかった。それは長すぎる。
(ローガン氏は、1992年、レーガン元大統領が、ラスベガスで行われたイベントでプロテスターに向かってこられた時、シークレットサービスのエージェントがレーガン元大統領にリーチするまで4秒かかったことが警護の大失敗とみなされたことから、その後、ステージに立つ要人に人々が接近することが制限され、シークレットサービスのエージェントが常に要人のそばにいるような警護手続きに変更されたと説明している。
要人の近くにいるため、シークレットサービスのエージェントが、9.11後、当時大統領だったジョージ・W・ブッシュ氏がニューヨークで行われたワールドシリーズで投球した際にアンパイアに変装した例や、2017年にヒラリー・クリントン氏がイギリスのウエールズで名誉学位を授与された際、シークレットサービスのエージェントが職員に変装した例も紹介している)
米国の元大統領なら生きのびていた
ローガン氏は最後に「安倍氏暗殺で見られた明らかな(警護の)失敗は、首尾一貫した警護手続きが重要であることを示している。アメリカの元大統領が安倍氏が見舞われた同じ銃撃に直面したとしたなら、たぶん生きのびていただろう。日本のケースでは、悲劇的な一瞬の失敗が歴史を作った」と結んでいる。
日本の危機管理能力の欠如は、これまでも事件が起きると世界が指摘するところだったが、安倍氏暗殺においても、改めて、その問題が浮き彫りにされたといえる。日本はこの事件を契機に、要人の警護態勢を見直すべきではないか?