クラマトルスクで発見された極超音速ミサイルというデマ
ウクライナ当局は同国東部クラマトルスクで発見した「不発の短距離極超音速ミサイル」だという写真を公開して、西側メディアはCNNやReutersなどの大手メディアもそのまま報じました。
しかしその写真を見た瞬間に、これは絶対に極超音速ミサイルではないと断言できます。
「これはトーチカU弾道ミサイルという見慣れた兵器です」
「不発弾ではない」
・・・どこからどう見てもトーチカU短距離弾道ミサイルです。安定翼と操舵翼が折り畳まれている状態です。つまりこれは飛んで来て着弾したミサイルではありません。損傷も無く綺麗な状態なので不発弾ではありません。発射前の予備弾を地面に転がしているだけです。
もしかしてこれはウクライナ軍の保有しているトーチカではありませんか? 現時点でクラマトルスクはウクライナの支配領域です。クラマトルスク周辺に攻め込んで来たロシア軍がトーチカの発射前の予備弾を地面に転がして撤退していったと考えるのは、状況的に不自然です。
なお「発射しようとして不具合で点火できなかったのでその辺に捨てた」と仮定すると、わざわざ翼を綺麗に畳んでから捨てたことになります。それも不自然なので、発射機に装填前の予備弾を何らかの理由で地面に転がしてあるのでしょう。
「ウクライナ軍が見間違える筈がない」
トーチカはロシア軍とウクライナ軍の双方が装備しているミサイルです。少し古い装備でロシア軍からは引退しつつあります(本来なら既に退役済みだったのにまだ残っている)。そしてウクライナ軍も装備している以上、これが何かよく知っている筈で、謎のミサイルだと見間違える筈がないのです。
ただし今回「極超音速ミサイル」と説明しながら問題の写真を紹介したのはウクライナの準軍隊である国家親衛軍(国家親衛隊)なので、広報担当者が写真のミサイルが何なのか本気で気付いていなかった可能性はあります。
「極超音速(マッハ5以上)は出せない」
トーチカは短距離弾道ミサイルとしても小振りで、後期型でも射程120~185kmほどです。最大速度はマッハ3.2程度で、極超音速(マッハ5以上)には到達しません。
兵器の分類上、マッハ5以上なら何でも極超音速兵器というわけではありませんが、マッハ5に到達すらしていない兵器は極超音速兵器と呼ぶには無理があります。(なおマッハ5以上の弾道ミサイルも珍しくないが極超音速兵器とイコールではない。)
そもそもトーチカは初期型が登場してから50年近く、後期型が登場してから30年も経った少し古い兵器です。旧式と呼んでもよいでしょう。そんな古い時代にはまだ実用化された極超音速兵器はありませんでした。
「トーチカUの識別ポイント」
トーチカの大きな特徴である簀の子(スノコ)状の操舵翼が最後部に見えます。その前方の中央やや後部寄りに安定翼が見えます。両方とも折り畳まれている状態で、発射前の格納状態を意味します。ミサイル弾体に損傷は見当たりません。
簀の子(スノコ)状の操舵翼を装備したミサイルは種類が少ないので重要な識別ポイントになります。短距離弾道ミサイルで簀の子(スノコ)状の操舵翼を採用して現役なのはトーチカくらいしかありません。
- トーチカ-U (日本語)
- Tochka-U (英語)
- Точка-У (露語)※宇語でも同じ表記