五輪食品ロス「13万食1億1600万円分」だけじゃない!他にもある理由とは?食品の一部は23区で販売
2021年8月27日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、2021年7月3日から1ヶ月間に、20会場で、およそ13万食の弁当を廃棄していたことを認めた。20会場で準備していた食料のうち、およそ25%を廃棄したことになる(廃棄率25%)。その後、発注量を改善し、7月30日から8月6日にかけての廃棄率は15%に抑えた。閉会式では約6,000食の発注に対し、廃棄が約200食。パラリンピックの開会式では約6,000食の発注に対し、廃棄約100食だった。高谷正哲スポークスパーソンは「会場によってはほぼ廃棄がない場合もあり、改善傾向にある。完全にゼロにするのは難しいが、引き続き発注量の管理に取り組む」と話した(27日付、共同通信より)。
だが、この「13万食」という数字は、今大会で生じた食品ロスの全てではない。その理由とは?
8月27日、筆者が記事にコメント(1)したように、8月7日のTBS「報道特集」で大会関係者が20会場分の「13万食、1億1600万円相当」を内部告発してバレてしまったため、致し方なく認めただけだろう。しかも会場は20会場だけでなく、全部で42会場ある。これが「13万食」が全てではない1つめの理由だ。
選手村のビュフェの食品ロスは明らかになっていない
2つめの理由は、選手村のビュフェで発生した食品ロスが一切明らかにされていないことである。
今回、スタッフやボランティア向けの弁当の食品ロスばかりに注目が集まっているが、もともと税金を使って食品ロス削減の実証実験をし、減らそうとしていたのは、選手村のビュフェの食品ロスだ。
2012年の英ロンドン五輪では、2443トンの廃棄が出たとされている(2)。当時、1日5回の食事を作っていたケータリング会社が廃棄の様子を動画に撮って内部告発し、その映像が長らくBBC通信社の公式サイトに掲載されていた。
4年後のリオ五輪では、イタリアの世界的シェフ、マッシモ・ボットゥーラ氏を中心に、余剰食品を困窮者向けに調理して提供し、食品ロスを減らす取り組みが行われた。
日本では、2018年の女子バレーボール世界選手権と2019年のラグビーワールドカップで、食品ロス削減に効果的な啓発手法の実証実験がなされた。これは、農林水産省の委託を受け、みずほ情報総研株式会社が行ったものだ(2)。
2020年1月27日、東京都内で農林水産省主催「大規模スポーツイベントに向けた食品ロス削減セミナー」が開催され、実証実験の結果が発表された。概要は、ナッジという行動変容の手法を使ってビュフェの食品ロスを最小限に抑えるというものだ。一般的に、ビュフェでは、欲張って一度に食事を取ろうとし、食べきれないで余ってしまいがちだから、「何度でも取りに来てください」と掲示をすることで、食事の取り過ぎを防ぎ、食品ロスを減らすというものだ。
今大会では、選手村のビュフェの食品ロスは、はたしてどうだったのか?
実証実験を行った農林水産省に伺ったところ、
とのこと。つまり、2022年3月に公表するそうだ。
2021年7月に起こったことを、8ヶ月後の2022年3月に公表とは、あまりに遅過ぎやしないか。
このあと、農林水産省から補足で教えていただいたには、
だそうだ。
教えていただいたのが8月24日だったので、「別途報告」は、8月27日に組織委員会が認めた「13万食」だったのだろう。だが、これは42会場分全てではないし、選手村のビュフェの食品ロスも含まれていない。
東京都23区内で加工食品の一部は販売
3つめの理由。8月19日に、東京都大田区にあるマルヤス大森町店を訪問したところ、五輪で海外から来日する取材陣のためのケータリングの食料品が、値引きして大量に販売されていた。
マルヤス大森町店は、賞味期限が迫った食品や賞味期限切れ、箱がつぶれたものなど、いわゆる訳あり品を格安販売している。マルヤス大森町店の松井順子さんによれば、ある企業の方からお申し出があり、海外メディアが帰国して大量に余ってしまい、受け入れて販売してほしいとのことで、販売しているという。お店に許可をいただいて写真撮影させていただいた。
ケータリングで使う予定だったドレッシング小袋が大量に入ったものや、バルサミコ酢、七味唐辛子、タバスコ、ジャムなど。
フィンガーフード(片手で食べられる)としてカナッペを提供する予定だったのか、クラッカーもある。
スープのクルトンの大袋も。
サンドウィッチに使う予定だったのか、ツナフレークの大袋もある。
おおむね5日以内のものに表示される消費期限の弁当と違って、これらはおいしさのめやすである賞味期限が表示される加工食品なので、こうして販売することができている。また、関わった企業の方が、廃棄ではなく、販売を選んだということで、廃棄を免れたわけだ。でも、すべてが救われたわけではなく、この背後には、廃棄されたケータリング食品の存在がある。
松井さんは、「これから間違いなく入荷してくるのは商品にオリンピック・パラリンピックのマークが入った飲料やお菓子など」だと語る。2019年、ラグビーW杯の後、「がんばれ日本!」と印刷されているお菓子や飲料が大量に入荷してきたそうだ。
筆者もフードバンク(3)で働いていた時に感じたことだが、フードバンクでは季節が遅れてやってくる。バレンタインの後に大量のチョコレートが届き、ハロウィンの後には大量のハロウィン菓子が届き、クリスマス後にはクリスマスブーツの菓子が届く。マルヤスのような訳あり食品の販売店舗やフードバンクでは、並んでいる商品に世相が反映される。
注:上記の写真にある食品は、メーカーが直接マルヤス大森町店へ売ったのではなく、メーカーが販売した相手、つまり商品の所有権を持つ企業が売ったものなので、写真にある食品メーカーへの連絡はお控えいただきたい。
余剰弁当の活用を求め、59,072名の署名を集めた弁護士と経営学者が8月26日、組織委員会に署名を渡した
コロナ禍で仕事を失い、食事の回数や量を減らす大人や子どもが増える中、弁当を廃棄するなんて!活用すべきだ、と署名運動し、59,072名の署名を集めたのが、みなとこども食堂理事長で弁護士の福崎聖子さんと、経営学者の中川有紀子さんだ。8月26日17:30、東京・晴海トリトンにある組織委員会事務所で受け渡しが行われた。
福崎さんらは、7月24日に、TBS「報道特集」が4,000食の弁当の無駄をスクープしてから署名運動を開始した。スポンサー企業にも弁当廃棄についての質問を送ったところ、味の素・アサヒビール・明治・キッコーマンからは「遺憾です」という趣旨の回答書が届いたが、コカ・コーラは、電話したところ、折り返しの電話で「うちが回答すべき事項ではない」と答えたそうだ。
福崎さんらは、8月23日付で以下の質問状を送り、8月27日17:50にメールで回答を得た。以下、質問に対する組織委員会の回答を四角で囲む。
公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 総務局持続可能性部長 A様
貴職からの、8月13日付メールのご回答、拝受致しております。
それを受けまして、再度、明日のパラリンピック開会に先立ちまして下記事項についてお尋ね致しますと共に再度の要望及び署名のお渡しを希望致します。
1. 橋本委員長が、記者会見においてオリンピック期間中の食品ロスにつき、検証し何らかの形で公表すると発言されていたが、今後、どのような調査、検証を行い、どのような形での公表を予定されているのか。
大会期間中の弁当の廃棄数については精査中です。詳細の数字については全体を網羅的にとりまとめる必要があり、改めて公表いたします。
オリンピックとパラリンピックでは競技日程等により発注量が異なるため単純な比較はできませんが、オリンピック期間中の食品ロス削減の取り組みや経験を活かし、パラリンピックが始まってからは会場によっては昼食又は夕食の余剰がほぼ無い日もあるなど、改善傾向にあります。
一方で、必要な方が喫食できなくなることは避けなければならず、余剰をゼロにすることは極めて困難です。
引き続き、可能な限り発注量の精査をしてまいります。
2. 貴職からのご回答によれば、削減に今後も取り組むとのことですが、明日8月24日開会予定のパラリンピックにおいては、各会場における発注量と残数を把握した上で具体的にどのような削減のための行動をとられたのか、その公表予定の有無。
各会場における食事は、喫食者からの注文等に基づいて発注することが基本ではあるものの、オリンピック期間における実績も分析の上、引き続き発注量の適正化に取り組んでおります。また、注文のあった弁当については、確実に喫食してもらえるよう、各発注元に喫食を促すメールの送付や、喫食時間の延長等により、喫食数の改善を図っています。
上記の対策をしてもなお残るもののうち、消費期限の比較的長いパンについてはフードバンクに提供し、ご活用いただくこととしました。
3. 貴職からのご回答によれば、弁当提供を行わないとの判断の理由は「衛生面」とのことであったが、民間企業の協力により、冷蔵輸送、賞味期限内の配布が可能である以上、衛生面の問題は存在せず余剰の弁当を廃棄する理由はないはずであるが、それでも尚、引き渡しを拒否されるのか。また、そうであれば、その理由は何か。
2.のとおり発注数の精査及び注文のあった弁当の喫食数の改善を図っています。
しかし、それでもなお残るもののうち、消費期限の比較的長いパンについてはフードバンクに提供し、ご活用いただくこととしました。
パン以外の調理済みの弁当については、チルド商品でかつ消費期限も短いため、配布後喫食までの時間を考慮すれば、外部への持ち出しは衛生上問題があり、提供は想定しておりません。
4.大切な賞味期限内の食べ物を「飼料」や「バイオガス」化することはリサイクルと言えず食品ロス、無駄に他ならない上「勿体ない」という日本の食文化にも反するが、その点は、どのようにお考えか。
食品ロス対策は、必要な量を精査したうえで提供することや、提供した食料が喫食されるよう推進することなどを通じて、食べられる食品が 無駄にならないように取り組むことと認識しています。組織委員会も、発注数の精査及び喫食数の改善に継続して取り組んでおります。そのうえで、なお余剰が発生するものについて、飼料化及びバイオガス化により有効活用を図っております。
8月3日には、福崎さんと中川さんがTBSラジオ「アシタノカレッジ」に出演し、当時の実情を語った。
3日間で90個のパンをフードバンクに配った
社会からの批判を受けて、組織委員会は、消費期限が長いパンを、生活困窮者や福祉施設に食材を無償で配布するフードバンクへ提供を始めたことを公表した。8月24日のパラリンピック開会式から26日までに約90個を配布した(27日付共同通信)。
ただ、7月24日に放送されたTBS「報道特集」で捨てられていたパンは、1日30個でおさまる量ではなかった。
マスメディアの追及を求む
組織委員会の言い分をただ右から左へ流すだけではマスメディアの役割を果たしているとはいえない。税金の使い道、そして命の結集の廃棄。マスメディアの追及を求める。
追記(2021.8.28 9:57a.m.)
福崎さんから、組織委員会の回答を送っていただいたので追記した。
参考情報
1)2021年8月27日、組織委員会が13万食弁当廃棄を認めた記事に対する筆者コメント
2)ロンドン五輪は2443t廃棄、食品ロスと闘う東京五輪 日本は「責任、安全、真夏」どう対策(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/2/13)
3)食品ロスと貧困を救う「フードバンク」は資金不足 持続可能なあり方とは(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/2/28)
五輪弁当大量廃棄関連
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