五輪で一日数千食の弁当廃棄 組織委員会の答えは?5月には「キャンセルか転用して無駄を出さない」と回答
2021年7月24日に放送されたTBS「報道特集」 (1)では、国立競技場の中にいる関係者から、「一日数千食分の弁当が廃棄されている」と、映像と共に証言が報じられた。
理由は「無観客になり、ボランティアの人数が減ったため」だという。
ただ、無観客で行う件が発表されたのは2021年7月8日だ(2)。開会の7月23日まで2週間以上あったはず。
報道によれば、深夜3時前に、東京の国立競技場にトラックで運ばれて納品されているそうだ。
2021年5月、組織委員会に取材した際、人数が変わって食材の余りが出るなどしたらどうするのかと聞いた際、「キャンセルできるものはキャンセルし、他に転用できるものは転用する」と答えていた(3)。「無駄は出さない」とも回答していた。そのときの回答と現状とに齟齬がある。できれば現地へ行って確認したいが、国立競技場の中まで入ることはできない。
大会組織委員会の答えは?
そこで7月25日の8:39a.m.、次の3点について、大会組織委員会に対し、メールで質問した。
1、無観客が決まったのは何週間も前ですが、なぜその時点でキャンセルしなかったのでしょうか。
2、キャンセルできない場合は「他の用途へ転用して無駄を出さない」とのことでしたが、なぜ転用しなかったのでしょう。
3、今後の余剰弁当については他に転用しますか?転用するのであれば、具体的にどの組織やどの個人へそれを依頼し実行するのか、教えていただけますようお願いいたします。
5時間待って返答がなかったので、下記質問を追加した上で、再度、メールを送信した。
4、ボランティア向け弁当の製造を受注した企業はどの会社でしょうか。また、その会社とは、無観客やボランティア削減などに関する受注数削減の取り決めは締結していなかったのでしょうか。
25日14:04、回答を受け取った。「質問のすべてを網羅できていない」とのことで、「現時点で明示できるものとして下記が最大」とのことだった。
現在、廃棄の状況については確認中です。発注数が適切なものになっているかどうかの確認は必要と考えています。
大会開催の状況の変化に合わせた対応が必要となった事項につきましては、継続的見直しに努め、引き続き持続可能な大会の実現に向けて進めてまいります。
「確認中」とのことなので、確認がとれたら改めて回答をいただけるようにお願いした。
飲食を担当する会社と人数減の際の取り決めは?
では、弁当を提供しているのはどこの会社なのだろう?無観客が決まった段階で、組織委員会から数を減らすよう連絡はなかったのだろうか。また、減らした際の契約はどうなっていたのだろう。
選手村の飲食を担当するのはエームサービス株式会社(4)だが、5月に取材を申し込んだ際には回答を得られなかった(3)。
弁当を運ぶ運送会社には連絡はなかったのか?
有観客から無観客になるとなれば、本来は、食事の数が数千食減り、食事を運ぶ運送会社にも連絡があるはず。連絡はなかったのだろうか。
TBS「報道特集」では、冒頭に登場するトラックの背面に「三友通商株式会社」の文字がある。そこで、三友(みとも)通商株式会社の福岡県の本社に電話し、東京の事務所である株式会社東京三友(6)に26日9:49a.m.に連絡した。
担当者にあたる人が会議中で13:00に戻るとのこと。13:00に電話すると「その人ではなく(九州の)広報に電話してください」との返答。広報の方に電話したところ、別の方が出て「会議中で16:00に出てくる予定だけど必ずつながるかはわからない」。13:53に広報ご担当者からお電話いただき、「弊社の方からお答えすることはできない」とのことだった。
当日ボランティアとして働く予定だったスタッフに聞いてみると
7月からボランティアとして働く予定だったスタッフに聞いてみると、「無観客を想定していなかったように、上からの連絡で感じられる」とのこと。
無観客でのスタッフ数や配置を開催ギリギリまで調整していたので、今になってパラリンピックでの対応をしているのではないか、ということだった。
五輪大会の調達の入札結果(5)を見てわかるのは、すさまじい金額が動いているということだ。五輪が中止になれば、納品できない。納品しなければ金が得られない。決まっている数さえ納品すれば、大金は得られる。でも数が減ってしまえば、当然、入ってくる金も減る。大会組織委員会だって、いったん決めたことを動かすのは面倒くさいのだろう。あとは無駄になろうがなんだろうが知ったことではない、ということかもしれない。見切りして売り切るより廃棄した方が本部の取り分が大きい、大手コンビニ独自のコンビニ会計と類似する。食べ物を捨てた方が儲かる、という仕組み。
東京2020「資源管理目標」の一番目に「食品ロス削減」が挙げられ、2016年から議論しているはずなのに
今から一年半前の2020年1月27日、東京都内で農林水産省主催「大規模スポーツイベントに向けた食品ロス削減セミナー」が開催され、どのようにオリパラでの食品ロスを減らすかについて発表された。2020年2月13日付で筆者が書いた記事(7)の一部を引用する。
会期期間が32日間におよぶ東京大会では、資源管理目標の一番目に「食品ロス削減」が挙げられている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「資源管理WG(ワーキンググループ)」座長の崎田裕子氏曰く作った料理は短時間で厨房へ戻されるため、「食品ロスが出ざるを得ない状況」だそうだ。確かに、何も対策をとらなければ、そうなってしまうだろう。
それでもICT技術を駆使しての需要(飲食提供数)予測や、一人あたりのポーションコントロール(提供量の調整)、関係者の意識啓発、食品廃棄物の計量など、食品ロス削減を目指すため、飲食を担当する企業が考えている真っ最中とのこと。崎田氏は、ロンドン大会では食料廃棄中の食品ロス(可食部)量が明確でなかったことに触れ、「食品ロス量の計測をしっかりするだけでも東京(オリパラ)のレガシー(遺産)になる」と語った。
では、「食品ロスの計量」は、実施されているのだろうか。
一日数千食を捨てるとなれば、現場は捨てる作業だけで手一杯だろう。TBS「報道特集」の映像には、食品業界が食品を運ぶ際に使う、薄型の運搬容器「ばんじゅう」にいっぱいに詰まって積み重なったおにぎりが見えている。
五輪大会の資源管理ワーキンググループの6名が、大会の食品ロスを最小限にするために議論を始めたのは今から5年以上前の2016年2月10日だ(10)。
2019年に都議会議員が「余ったら食べてもらえば」と提案、却下
2019年に開催された「原宿食サミット」「食とオリンピック」トークセッションで、前参議院議員の松田公太さんは「かなりのフードロスが出ますよね。どう処理するか、どうやってリサイクルにもっていくか。それもすごく重要なことです。そこから、まさに日本の食を世界に示していけるんじゃないでしょうか。」と問いかけた。東京都議会議員の白戸太朗さんは「余った料理が賞味期限を迎える前に、一般の人に食べてもらったらどうかと提案したのですが、それは却下になりました。」と語っている(9)。白戸さんの公式Twitter(10)を拝見したが、今回の弁当廃棄については触れられていないようだった(2021年7月26日11:24a.m.現在)。
大会開会式翌日の2021年7月24日夜、東京都豊島区の公園では、困窮者支援のNPOが行う食料配布に400人近くが並んだ(11)。同じ東京都内では数千食が捨てられているという矛盾。
2015年ミラノ万博や2016リオ五輪では余剰食品を困窮者に提供
筆者はフードバンクに勤めていた2012年、ロンドン五輪で出た食品ロスをケータリング会社が内部告発し、BBCの公式サイトに食品廃棄の映像が長期間掲載されていたのを印象深く覚えている。ロンドン五輪では食品ロス削減を目指したものの、2,443トンの食品が廃棄された。
その反省も踏まえ、2015年のミラノ万博では、イタリアの世界的シェフ、マッシモ・ボットゥーラ氏が中心となって、余剰食品を調理し、困窮者に無償で提供する取り組みが行われた。この「レフェットリオ」は今でも続いている。2016年のリオ五輪でも同様だ(12)(13)。
志ある大学生も五輪大会で食品ロスを困窮者支援にと尽力していた
筆者は拙著『賞味期限のウソ』(2016, 幻冬舎新書)で、「2020東京で食品ロス削減はできるのか」と題し、「開催期間は夏場なので安全には過剰なほど留意し、頻繁に作ってはこまめに大量に廃棄されるだろう」と書いた。また「選手向けに作った食事の余剰分を福祉施設や困窮者へ活用するにも、余分な労力やコストがかかるので、まず無理」と述べ、「食品ロス削減は重要課題といいながら、組織委員がこの問題をどれほど現実的に考えているかわからない」と指摘した。
実際、今回も、現場には「消費期限前に廃棄するように」との指示がおりている。
こんな状況にならないよう、関西の大学を休学して、東京2020で発生する食品ロスを困窮者につなげようとしていた大学生がいた。筆者のところでも定期的にインターンをしており、大会関係者やいろんな人に連絡をとり、努力していたが、結果的には難しいということが判明し、大学に戻ってしまった。
筆者が食品企業を辞めた経緯は、2011年の東日本大震災の食料支援で「同じ食品だけどメーカーが違うので平等じゃないから配らない」(で、だめになって捨てる)といった、納得できない食料廃棄を目の当たりにしたことも一因だ。
まだ会期日数は残っている。せめて今からでも、弁当の数を減らすなり、必要な組織に取りにきてもらうなり、できないだろうか。今も食料が必要な人は大勢いるのだ。
なお、2021年7月24日に放送されたTBSの「報道特集」は、Tver(ティーバー)で無料配信されている(14分間の番組のうち、9分過ぎから14分までが弁当廃棄に関する部分)。
参考情報
2)東京五輪、1都3県は無観客で開催、緊急事態宣言受け-組織委(ブルームバーグ、2021/7/9)
3)五輪の食材、食品ロスはないのか?大会組織委員会に聞いた(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/6/4)
7)ロンドン五輪は2443t廃棄、食品ロスと闘う東京五輪 日本は「責任、安全、真夏」どう対策(井出留美、2020/2/13)
8)東京2020 資源管理ワーキンググループ 委員名簿と過去の開催状況
9)東京2020オリンピックで日本の食をどうアピールすべき?第3回「原宿食サミット」(クックビズ総研、2019/7/1)
11)生活困窮者「東京五輪は遠い世界」 食料支援に長い列 東京・豊島<ルポ コロナ禍のオリンピック>(東京新聞、2021/7/25)
12)リオ選手村のフードロスに45人のシェフ立ち上がる(サステナブルブランズ、2016/8/9)
13)世界の食品ロス削減をリードする親善大使として選ばれたのはあのシェフだった SDGs世界レポ(41)(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/10/3)