前提を揃えないと専門学校並みに信頼性が落ちる/美作大学が微妙な件~教育広報担当者が知ると得する話・5
◆専門学校が大学より信頼されない理由
本シリーズは教育広報担当者向けということで専門学校の広報担当者も読んでいると思う。そうした読者にきつい話をすると、高校教員は一般論として専門学校は大学よりも信頼されていない。
その理由の一つが、情報の不透明さである。
卒業後、就職者がどれくらいいるのか、中退者はどれくらいか、など、高校教員が知っておきたい情報を不透明にする専門学校が多いからだ。
もちろん、真面目に公開している専門学校は別だが、そうした専門学校は少数派である。大半の専門学校はきちんと出しておらず、これでは信頼されるわけがない。
そして、情報を出すにしても、微妙なごまかし方をする、これも専門学校でよくある話だ。
私も、つまらないところで信頼性を落とさなくても、と思うのだが、これは専門学校業界の慣習なのか、長く続いている。
◆「専門学校は大学よりも就職できる」のカラクリ
その具体例の一つが就職率の出し方だ。
「今年度の本校の就職率は99%、大学平均値は60.8%。本校以外の専門学校は平均で87.4%だった。結論として、専門学校は大学よりも学費が安く、就職できる。本校を含めて専門学校を選んで欲しい」
2010年夏に、ある専門学校のオープンキャンパスで大学との比較をテーマにした講演があった。興味深かったので、参加したところ、上記のような内容を話していた。
参加者(大半が保護者か高校教員と思しき社会人)は、うなづく人もいたが、何人かは微妙な表情だった。
おそらくは私と同様の思いだったからに違いない。
大学の就職率平均が60.8%。これは文部科学省が出した学校基本調査の就職率データにあるもので間違っていない。なお、専門学校については就職率を出していない。
ただし、だ。
本シリーズ読者である大学職員の方々は周知のことと思うが、就職率の出し方は色々ある。
文部科学省・学校基本調査の就職率は「卒業者に占める就職者の割合」だ。
一方、文部科学省と厚生労働省の合同調査による「大学等卒業予定者の就職内定状況」、こちらも就職率を出している。
年4回(10月、12月、2月、4月)調査しており、4月が卒業者調査となる。
メディアでは、こちらが就職率として出されることが多い。
こちらは、専門学校(専修学校)の就職率を出しており、2010年4月時点では87.4%で間違っていない。
ただし、こちらの就職率では大学の平均値は91.8%。
同じ、合同調査の就職率だと、専門学校より大学の方が高い。
そのため、「結論として、専門学校は大学よりも学費が安く、就職できる。本校を含めて専門学校を選んで欲しい」という論が破綻することになる。
大学より学費が安いのは教育期間が短い以上、当然としても、「専門学校は大学よりも就職できる」はウソになるからだ。
そこで、専門学校の就職率は合同調査の就職率を使い、大学の就職率は文部科学省・学校基本調査の就職率を使う。
こうすれば、20ポイントも違い、専門学校の有利さを宣伝できる、という寸法だ。
◆違う数字を出して「就職できる」は逆効果
文部科学省・学校基本調査の就職率は全数調査である。つまり、大学については、大学全てに細かいデータを集計・提出させたうえで、まとめている。就職率については「卒業者に占める就職の割合」という正式名称通り、卒業者が分母であり、就職者が分子となる。
一方、厚生労働省・文部科学省合同調査の「大学等卒業予定者の就職内定状況」は、年4回も実施。こちらは、全数調査ではなく、サンプル調査であり、大学は62校、専門学校(専修学校専門課程)は20校しか調査対象ではない。
2021年時点で大学は803校、専門学校(専修学校専門課程)は2754校もある。大学は7.7%、専門学校は0.7%しか対象としていないサンプル調査である。
しかも、この合同調査は、分母が就職希望者であり、分子が就職者(内定者)である。
当然ながら、全数調査よりも信頼度が落ちるのは無理からぬところだろう。
学校基本調査と合同調査を並べたところで、違う前提の就職率を並べても、根拠としては乏しい。
このカラクリを、専門学校のオープンキャンパスでも分かっている人は分かっていた。だから、微妙な表情をしていたのだろう。
その後、私を含めメディアがあちこちでこの就職率のカラクリを暴露したこともあり、今では高校教員の多くが知るところとなった。
ところが、この「違う就職率比較」を専門学校の一部はいまだに宣伝で使っているようだ。こうした宣伝が、自らの教育価値を貶め、事情を知っている高校教員からすれば、ジンバブエ国債よりも低い信頼しか置けないことになる。
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◆日経ビジネス記事の美作大学にモヤモヤ感
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◆下手なごまかしが許されない時代
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