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出口戦略なき緊急事態宣言再延長 東京都の飲食店営業規制は連続200日超に

楊井人文弁護士
東京都内の居酒屋の告知板。休業期間を書き換えた跡が残る(5月28日筆者撮影)

 政府が東京や大阪など9都道府県の緊急事態宣言を6月20日まで再延長することを決定した。

 これで東京都における飲食店の営業時間制限は、昨年11月下旬から始まった都独自の時短要請を含めると、連続して200日を超えることが確実となった。

 だが、都内の重症患者の病床が逼迫していたのは、この間、ごく一時期だけだ。医療提供体制の支障とは関係なく、漠然とした「不安」や「おそれ」を理由とした権利制限が長期化している。

 実は、東京都内の重症患者(人工呼吸器またはECMO使用)が確保病床数の5割を超えたのは、1月中旬〜下旬だけだ。

 5月26日現在、重症病床使用率は20%を下回っている

 日本集中治療医学会などが共同運営するECMOnetのデータをみても、傾向・推移は同様だ。

2020年11月1日〜2021年5月27日の重症患者数と受入可能数の推移(ECMOnetより)
2020年11月1日〜2021年5月27日の重症患者数と受入可能数の推移(ECMOnetより)

 東京都モニタリング会議の専門家らは、緊急事態宣言の発出直前、病床使用率が「ステージ4」に達していないことを認める一方で、変異株の影響で早晩、入院患者数が医療の逼迫が現実化する2600人のラインを大きく超えるとの見解を提示2週間後(5月上旬)には、入院患者が3000人、最悪の場合で6000人に達すると推計していた。

 西村康稔経済再生相も4月28日、東京はまだ総合的にみてステージ4ではないものの、「予防的」目的で緊急事態宣言を出したと答弁していた

東京都モニタリング会議資料(4月28日配布)より一部抜粋
東京都モニタリング会議資料(4月28日配布)より一部抜粋

 しかし結果的に、緊急事態宣言の効果が現れるとされる2週間後までに、入院患者は2300人台にとどまり、重症患者に至ってはほとんど増えなかった。

 その後も、専門家が明らかにした医療逼迫ラインの2600人を超えることなく、現在は2100人台となり、減少傾向になっている東京都の入院患者の推移)。

 大型連休の人流を抑えたことで感染拡大を抑えられた面もあるかもしれないが、いずれにせよ、東京都でも感染力が強いとされる「N501Y変異株」にほとんど置き換わったが、関西圏など他の地域とは異なり、感染急拡大はみられず、医療提供体制に比較的余裕がある状況だ。

出口戦略なき迷走 対策の合理性、司法で問う動きも

 ”予防的”緊急事態宣言の大義名分であった「大型連休での感染爆発危機」は、すでに回避されたと言える。

 ところが、今度は、リバウンド(再拡大)や「インド株」のリスクなどを理由に、自粛政策を続ける方針のようだ。

 東京都は、百貨店など一部の規制は緩和したが、飲食店(特に居酒屋)への規制は緩和しなかった。東京五輪を前に、背に腹は変えられないということだろう。

 最近、日本医師会会長や感染症専門家らが「1日あたり陽性者数100人以下」になるまで解除すべきでないとの見解を次々に示す中、尾身茂会長も、緊急事態宣言の解除の目安を「ステージ2」とする考えを示すようになった。

 加藤勝信官房長官も、6月20日に宣言を解除したとしてもまん延防止等重点措置に移行する可能性について「十分あり得る」と言及した。

 小池百合子都知事は、要請に応じない店には躊躇なく、特措法に基づく命令を出して要請に従わせる構えを見せている。自粛要請は、実質的に命令、強制に近い性格を帯びつつある。

 こうした中、政府や東京都のコロナ対策は「医療体制の逼迫を前提に、必要最小限の規制を許容する」という特措法の趣旨から逸脱し、違憲性・違法性の疑いも指摘され始めている(以下のツイートのほか、noteの拙稿も参照)。

 都の飲食店業者に対する規制の合憲性を司法の場で問うためクラウドファンディングも立ち上がり、3000人以上が支援するなど、注目を集めている。

 特措法上の要請、命令といえども従わない事業者も増えつつあり、東京新聞などの都民世論調査では半数が、都による措置内容を「評価しない」と回答した

政府・東京都の「出口戦略」なき迷走と、合理性に乏しい自粛措置が、日本社会に大きな歪みをもたらしつつあることは間違いない。

(まとめ)東京都における飲食店規制の経緯

 東京都は、感染者の増加を受け、昨年11月28日から都独自の時短要請(22時まで)を開始、緊急事態宣言発出前の1月7日まで継続した。

 1月8日から始まった第2次緊急事態宣言では、都の緊急事態措置として、20時まで(酒類提供は19時まで)の時短要請を実施。当初、罰則なしだったが、2月13日からは改正特措法の施行により罰則を伴う措置となった。期間は2回延長された。

 3月21日で宣言は解除されたが、都独自の21時まで(酒類は20時まで)の時短要請を継続。4月12日からは、まん延防止等重点措置が実施され、緊急事態宣言のときと同様、再び20時までの時短要請が行われた。

 そして、4月25日からは第三次緊急事態宣言となり、これまでで最も強い措置である酒類提供店の休業(酒類なしなら20時までの時短営業)を要請。期間は2回延期され、6月20日までとなった。

 この間、都は、要請に応じた事業者に協力金を支給することにしたが、支給が滞っているという指摘も多い(筆者の拙稿=4月23日=も参照)。

 支給額は、昨年11月28日〜今年1月7日分が1事業者あたり最大で合計140万円。1月8日〜4月11日分は1店舗あたり最大で計522万円。4月12日〜5月11日分は同68〜600万円、5月12日〜31日の分は同80〜400万円となっている(いずれも中小企業)。

 一方で、都は第二次緊急事態宣言中に要請に応じなかった約2000店舗のうち32店舗(7事業者)に時短命令を出した。

 都は、第三次緊急事態宣言中にも要請に応じなかった店舗(数は不明)のうち42店舗(事業者数は不明)に休業命令を出した

 そのうち、飲食チェーンのグローバルダイニング社に対する時短命令は現在、東京地裁で係争中だ(詳しくは拙稿も参照)。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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