自民党総裁選・議員票の動向判明が半数以上に 各陣営のネット支持層も可視化解析
自民党総裁選は17日告示され、届出順に河野太郎行政改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行が立候補しました。既に総裁選については小稿「総裁選で注目の議員票の動向、80名の議員がすでに態度を明らかに」で触れていますが、告示日前日に立候補表明をした野田聖子氏について確認しつつ、明らかになってきた議員票の動向などを解説していきたいと思います。
既に半数以上の議員が態度を明らかに
筆者は、先週に引き続き、自民党国会議員の総裁選における支持候補(予定)者を、議員本人のホームページやSNS、YouTubeなどのコメント、さらには全国紙やテレビ、地方テレビ局や地方紙への意向表明をもとに、情報源のリンク付きでGoogleスプレッドシート「自民党総裁選2021 議員票動向」にまとめています。
18日(土)7時現在、国会議員214名の態度が既に明らかになっており、これは今回の総裁選の投票権を持つ自民党国会議員383名のうち半数を超えます(55.87%)。なお、この214名の支持候補者別を見ると、岸田文雄氏が77名でリードし、河野太郎氏65名、高市早苗氏51名、野田聖子氏21名となっています。
国会議員票383票の半数は192票で、現時点では議員票の過半数を獲得できる候補者が現れる可能性は低くなりました。当面は、岸田氏と河野氏との間での議員票の戦いによりどちらが議員票の4割(153票)程度を獲得できるかに注目するとともに、高市候補は出陣式に参加した議員(オンライン参加・代理を含む)93名から上積みができるかが鍵となります。野田氏についても、立候補表明が遅れたことで推薦人20名からどの程度支持を広げられるかが序盤の鍵となるでしょう。ただ、議員票の4割(153票)を獲得しても、決選投票に持ち越さず1回戦目で決めるには党員党友票の6割(230票)が必要なため、決選投票を意識した戦略も各陣営は考えている状況です。
「中堅・若手」は河野氏の専売特許ではなかった
さて、この議員票の動向からは興味深い知見が得られます。
各総裁候補を支援する国会議員のうち、衆議院議員のみに限って当選期数の平均を出すと、河野氏4.31回、岸田氏5.42回、高市氏4.05回、野田氏5.18回となります。河野氏は中堅若手議員から支持を得ているという報道が多くなされていますが、高市氏も細田派のうち安倍チルドレンと呼ばれる若手議員からの支持があるなどして、衆議院議員に限れば河野氏よりも平均当選回数は低いことがわかりました。一方、河野氏と岸田氏との間には当選回数に1回分の差があり、世代間対決と呼ばれる構図がよくわかります。
ただこれは一方で、中堅若手議員が「選挙の顔」として誰を選ぶか、という点で「河野氏を推している」という説明を排除することもできそうです。確かに選挙の顔として菅総理の人気が低迷している中、新しい顔で選挙を戦わなければ厳しいという認識は党内でも多くありました。一方、総裁選が始まったことにより菅内閣自体がレームダック化したことにくわえ、総裁選報道が長く行われていることで、菅内閣支持率こそ持ち直さないものの、政党支持率としての自民党支持率は急激に改善していることからも、「党の顔が誰でなければ勝てない」というよりは「菅総理だったら勝てないのであって新しい顔ならそこそこ誰でも勝てる」という安心感が広がりつつあるのも事実でしょう。
各候補のネット支持層を形態素解析
私が代表を務める選挙コンサルティング会社のジャッグジャパン株式会社では、総裁選各候補のTwitterアカウントのツイートに「いいね!」をしているアカウントのプロフィール文を形態素解析することで、どのような層に支持されているかを可視化してみました。各候補の形態素解析からは、ネットでの支持層の一端を垣間見ることができます。
河野太郎氏
河野氏の解析結果は、以下の3候補と比べると特徴が出にくく、あえていうならば一般的とも言えるでしょう。趣味やアニメ・ゲームといった言葉や、それに関連する言葉も多くみられることから、比較的若い世代からの支持があることが想像されます。また、政策に関連する言葉が極めて少ないことも特徴的で、地理的な言葉もほとんど見られないことから、政治的無関心層からの支持が多く、特定の地域による偏りがないことも示唆されます。
岸田文雄氏
岸田氏は地元である広島に関連する言葉が多く確認できます。また、各種団体や組織を想起させる言葉が多いことからも、組織戦の一面を垣間見ることもできるでしょう。看護師などといった言葉も目立ちますが、日本看護協会に支援要請に行くなど、各種団体へのアプローチを強めていた岸田氏の動きと連動している部分もあるかもしれません。候補者(岸田文雄)本人の名前が大きく出ていることから、プロフィール文に支持者であることを表明しているケースが多いことが示唆されます。
高市早苗氏
高市氏の解析結果は、政治的スタンスが非常に強く出る結果となりました。「日本」「日本人」という言葉に加えて、愛国、保守などといった言葉が連なることからも、支持層の像が浮かんできます。細かく見ていくと「君が代」「憲法改正」「神道」「弥栄」「拉致」といった言葉も目立ちます。地元(奈良)に関連する言葉はほとんどみられないのも特徴でしょう。
野田聖子氏
野田氏の解析結果も興味深く、政策に関連する言葉が目立つ結果となりました。選択的夫婦別姓に関しては同じ女性候補の高市早苗氏と野田聖子氏は大きくスタンスが異なるとされ、導入に否定的な高市氏に対し、導入に肯定的な野田氏の形態素解析で「夫婦別姓」が大きく出てくることは政策訴求の強さを伺わせます。また、野田氏が取り組む医療的ケア児の問題などを垣間見られる言葉も散見される一方、地元(岐阜)に関連する言葉が少ないのも特徴でしょう。
今回の総裁選はコロナ禍により街頭演説は行わず、ほぼインターネットやテレビなどによる討論が中心となります。党員党友票は28日で締め切られ、議員票の投票ならびに開票日は29日となります。今後、選挙戦中盤に入ってどのような政策論議が行われるのかにも注目をしていきたいと思います。