与党と国民民主党の関係性に注目。連立入りに替わる「是々非々連携」の見通し
国民民主党が目指すのは「是々非々連携」
今回の衆議院議員総選挙の結果、自民公明の与党議席は過半数割れしました。この結果、石破政権は不安定なもとでスタートを切ることとなりますが、とにかくまずは首班(総理)指名で石破茂総理を誕生させるために、野党の協力を模索することとなります。
自民党と公明党の議席を足しても過半数には達しないため、野党との協力が必要というなかで、自公が国民民主党との連携を模索するとの見方が大勢です。自民公明の議席に国民民主の議席を足せば過半数となるため、内閣不信任案を否決することができ、一旦政権としては成立します(衆議院の運営を考えた場合には、安定多数や絶対安定多数なども意識しなければなりませんが、単に政権の成立を考える場合には、「首班指名」と「内閣不信任案の否決」の2つだけを意識すれば良いのです)。従って、筆者は自民・公明・国民による、いわゆる従来型の連立とは違う、やや緩やかな連立が成立するのではないか、とみています。連立入りに替わる「是々非々連携」について考えてみたいと思います。
従来の連立とは異なる「緩やかな連立」とそのキーマン
一般的に連立政権というと、内閣に閣僚を送り込む形が一般的です。現在の自公政権も閣僚ポストの一部を公明党に譲る形で、最近では国土交通大臣が公明党の指定席になっていました。しかし、国民民主党との連携について、玉木代表は「連立入り」を否定しています。政治とカネの問題を追及してきた流れから考えても、現在の自公政権に連立入りすることは党内外の理解を得られないでしょう。小里農水大臣と牧原法務大臣が衆院選落選を理由に辞意を表明していますが、この枠に国民民主党が閣僚を出す可能性も低いとみられます。
一方、石破内閣には国民民主党の元参議院議員として、矢田稚子内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当)がいます。岸田内閣で首相補佐官に任命された矢田稚子氏の人事は、当時驚きをもって迎えられましたが、賃上げを推進していた政府政策にとって打って付けの人事ともいえ、政府・与党と連合・国民民主党との距離が近づくことにも貢献したといえます。
石破内閣発足後、矢田稚子首相補佐官は退任するのとの見立てでしたが、大方の予想に反して留任が決まっていました。今回、衆議院議員総選挙がこのような結果になったところ、選挙前から決まっていた矢田稚子首相補佐官を広い意味での「入閣」と見做せば、緩やかな自公国連立の人事面における「要」となるという見方もできるでしょう。
矢田稚子首相補佐官は衆院選期間中、東京1区や東京15区の自民党候補者の応援や激励にまわったこともあり、単なる首相補佐官という役割を超えて、今後与党と国民民主党のハブになるキーマンとなるとみられます。
「手取りを増やす」の実現を第一に考える国民民主党
また、国民民主党は今回の衆院選で「手取りを増やす」をテーマに戦ってきました。賃金・雇用担当の首相補佐官が内閣にいることで、「手取りを増やす」という公約を達成できる可能性が高い国民民主党からすれば、自公政権とこの政策実現に協力することで、党としての公約を達成し、党勢拡大に繋げるという路線が浮かぶのは当然のことでしょう。国民民主党を支持する連合も「手取りを増やす」政策には前向きですし、その政策が実現するための連携であれば、自公国の政策連携自体を否定することはないとみられます。あるいは、来年夏の参院選は全国比例で産別組織内候補を当選させるという大きな目標もあるため、来年の春闘を意識するならば、なおのこと国民民主党がキャスティングボートを握る形で臨時国会・通常国会を過ごす方が良いとみることもできるでしょう。
ところで余談ですが、今回、国民民主党が躍進した一つに、この「手取りを増やす」というキーワードがハマったことが挙げられます。岸田政権でも力を入れてきた「賃上げ」という言葉と「手取りを増やす」という言葉は(税金や保険料の控除などの違いはあり、この控除を踏まえた意味で「手取り」という言葉を選んだという趣旨が国民民主党にはあったにしろ)事実上同じ方向性のはずです。しかしながら、使用者目線からの「賃上げ」ではなく、労働者目線からの「手取りを増やす」という言葉にしたことで、有権者ひとりひとりが政策イシューを自分事に捉えることができたことが、同党の躍進の一つの要素になったことは否定できません。
国民民主党の是々非々路線が続く
まとめると、筆者は自公国が「手取りを増やす」を共通キーワードに、矢田稚子首相補佐官をハブにした緩やかな協力関係をベースとして連携をしていく国会になるとみています。
一方、国民民主党はガソリン税を一部軽減するトリガー条項の凍結解除や、二重課税の解消を訴えています。来年の通常国会では、当初予算においてこのことがテーマになる可能性もあり、国民民主党は予算案や重要法案において、これらの党の訴える政策と引き換えに合意をするような、政策協定ベースの連携が続くでしょう。実際に玉木代表も「協力は政策ごと判断」と述べています。
とはいえ、党としてはあくまで「是々非々」という表現に留まるとも見られます。「手取りを増やす」の前は、「対決より解決」「政策本位」といったキャッチフレーズを多用してきた国民民主党ですが、「是々非々」という表現もこれまで多用してきましたし、今年2月には立憲民主党の岡田克也幹事長(当時)が、国民民主党の「是々非々」路線に対して「改めるべきは、与党とも是々非々でやる考え方だ」と批判したところ、榛葉賀津也幹事長が「非々非々でやれって言うの?是々非々でやるに決まってるじゃない。」と述べるなど、党の姿勢の違いが浮き彫りになるようなこともありました。
いずれにせよ、衆議院過半数のキャスティングボートを握った国民民主党が政策ごとの協定で是々非々路線を歩むことになりますが、狙い通りに上手くいくかは未知数です。これまでも自民と国民は、政策毎の提携を検討してきたことがありました。例えば昨年11月の補正予算では、岸田首相(当時)がトリガー条項解除を検討すると表明したことで予算案に賛成しましたが、その後党内が分裂し前原誠司代表代行ら4人が離党する事態を招いたほか、最終的には「検討」で留まった岸田首相との協議を打ち切った経緯があります。
また、日本維新の会も38議席と国民民主党と同様にキャスティングボートを握る存在になったことから、自公と国民の協議が不調となる展開が続ければ、与党が「自公国」に代わる「自公維」路線への転換を打ち出す可能性も否定できず、キャスティングボートを利用した強硬な姿勢は打ち出しにくい事情もあります。
一方で予定調和的な是々非々は、「与党への擦り寄り」との批判を惹起する可能性もあり、国民民主党がキャスティングボートを握ったなりの「是々非々」の連携をバランス良く行うことができるかどうか、まさに玉木代表の手腕が問われることとなるでしょう。