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国民民主党躍進と石丸現象の共通項「切り抜き動画」の選挙における役割とは

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

10月に行われた衆議院議員総選挙では、国民民主党の躍進が目立ちました。大きく議席を増やした国民民主党は「手取りを増やす」を掲げて選挙戦を戦いましたが、若い世代を中心に得票を増やしたとの報道が相次ぎ、無党派層の掘り起こしにも成功したとされています。

国民民主党は今回の選挙で、動画やネットでの発信を強化しました。候補者や陣営がSNSを発信する「一方向型」から、切り抜き動画やライブ配信などを通じて「多方向型」や「双方向型」に転換した手法は、今後の選挙でも主流になるとみられます。この手法は東京都知事選挙における石丸伸二候補にもみられましたが、タイパ(タイム・パフォーマンス)を重視する若者にわかりやすく政策や主張を伝える効果があるとされています。さらに、ショート動画特有のマネタイズ手法などから、利益を得ようとするチャンネル運営者と得票を稼ぎたい候補者陣営との思惑の一致が重なったことも、重要です。今回の衆院選における国民民主党の躍進と、都知事選挙における石丸現象の共通項ともいえる、「切り抜き動画」の選挙における役割を深掘りします。

「ネット選挙」のあり方が変わりつつある

2013年にいわゆるインターネット選挙が解禁され、国政選挙でもネット選挙の重要性が説かれるようになってきました。この10年余りのネット選挙時代でも、その主流はホームページの設置有無が問われる黎明期からブロガー議員の登場、X(Twitter)などのSNS議員の登場を経て、YouTuberなど動画配信、そしてショート動画コンテンツの発信など大きく変遷しています。

ホームページやブログなどは、「有権者が検索し、立候補者が答えを用意している」という観点からストック型メディアと位置付けられ、有権者が選挙の際に投票先を選定するためには検索をするという能動説に沿って考えられています。現在も、古くからホームページを更新し続けている著名な議員は複数おり、マメな更新をしている議員ほど、ナレッジが溜まっていくという観点や、コアなファンがつきやすいという特徴があります。

SNSは、双方向の交流ができることと、ひとつひとつの情報量は少なく、波のなかで情報が流れていくフロー型メディアであることが特徴です。インプレッションやフォロワーなどが数字に出ることで影響力が可視化され、政治家そのものの影響力と重ね合わせて見られることも多くなりました。

さらにYouTuberの登場などにより、コンテンツそのものを動画で配信する政治家も増えてきました。ライブ動画や長編動画、プロモーション動画をつくるよりも、手軽な編集でつくることができるショート動画は、制作者のみならず視聴者も気軽に見ることができるという観点から、最近流行を見せています。

タイパを意識する若い世代向けの「ショート動画」

写真:イメージマート

選挙における空中戦は、必ずしもインターネットだけではありません。新聞折込やポスティングといった旧来型の手法で政策を届けることもできます。そのため、候補者がインターネット選挙を行うときには、主に若い世代に重きを置くことが多いといえます。

若い世代向けに最も効果的とされるのが「ショート動画」です。X(Twitter)のみならず、YouTubeやInstagram、TikTokなどあらゆる媒体でショート動画は日常的に見られており、忙しい若年者層のいわゆるタイパ(タイム・パフォーマンス)の観点からも、これまでの長い文章や長い動画よりも、ショート動画という流れが強まっています。

ショート動画は約1分という技術的制約があるため、この1分にどうやって動画のコンテンツを詰め込むかが重要となってきます。政治家の演説や議会での討論が1分でまとまることは稀なため、いわゆる「切り抜き」という行為によって、わかりやすく動画で伝える技術が必要になってきます。演説や討論の必要な要素を意図的に省く切り抜きを行えば、政治家の伝えようとする言葉の意味が変わってきてしまいますが、適切な切り抜きはリズム感なども出て、視聴者にもわかりやすく伝わります。さらに効果音やイラスト、テロップ、BGMなどを使うことも効果的でしょう。

「切り抜き動画」が陣営と制作者にもたらす便益

これらの切り抜き動画は政治の世界だけではなく、ショート動画全般で使われる手法です。編集もそこまで難しくないため、様々なジャンルで切り抜き動画の編集を専門としてチャンネルを開設している人が多くいます。彼らはショート動画でチャンネル登録者数を増やし、動画の閲覧者を増やすことで、動画の収益化を行い、利益を得ていますが、政治を「コンテンツ」化することで、これらの切り抜き動画を自らのチャンネルで配信し、同様にそれらの動画から収益を得る構図ができあがりつつあります。

国民民主党は今回の衆院選でも切り抜き動画を推奨し、実際にX(Twitter)の公式アカウントでも切り抜き動画の制作や編集、投稿を推奨していました。党公式アカウントや公認候補者のアカウントだけではなく、影響力のある(チャンネル登録者の多い)アカウントで投稿してもらうことにより、党や公認候補者は多くの人に見てもらえるメリットがあり、動画制作者や配信者はコンテンツを無料で提供してもらって動画の収益が生まれるというメリットがあるというWin-Winな関係が成立しています。

今後の「切り抜き動画」が選挙に与える影響は

写真:つのだよしお/アフロ

このWin-Winな関係は、都知事選挙における石丸伸二候補でも起きた仕組みであり、今後のネット選挙でも同様の現象が起きるといえます。双方に大きなメリットがあるショート動画のスキームを利用しようとするならば、素材となるコンテンツがエッジの効いたものである必要があるため、政治家が自らコンテンツ化していく必要もあるでしょう。そうすると、街頭演説や議会討論も、よく言えばエッジの効いた内容に、悪く言えば過激になる傾向が出てくるとみられます。また、その場で聞いている聴衆よりも、ショート動画で見る若い世代を意識した内容に変化したり、切り取られる前提での演説になっていくことも考えられます。

選挙はどの世代にも等しく選挙権が与えられていますが、世代により投票先を判断する材料は大きく異なります。切り抜き動画が今後選挙に与える影響についても考えていく必要があります。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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