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台風14号は自転車並みのゆっくり台風、雨がやんでも油断しないで

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
豪雨によって崩れた山(著者撮影)

昨年の台風19号の速度は平均より39%遅かった

 台風14号は時速15kmというゆっくりとした速度で東北東に進んでいる(気象庁/令和2年10月10日6時45分発表)。自転車並みのスピードだ。台風の勢力を見る場合、中心気圧、中心付近の最大風速、最大瞬間風速などに注目するが、速度は非常に重要だ。速度が遅ければ、大雨や強風などに見舞われる時間が長くなり、被害が深刻化する。

 今年1月、気象庁気象研究所(気象研)の研究グループは、地球温暖化が進めば今世紀末には日本周辺の台風の移動スピードは、現在より約10%遅くなると発表した。この研究成果は、科学誌『Nature Communications』に掲載された(2020年1月8日付)。

 速度が遅くなるのは、地球温暖化の影響で日本上空の偏西風が北上し、台風を移動させる風が弱まるため。このまま地球温暖化が進むと、2100年ごろには日本の位置する北緯30~40度の中緯度帯では移動速度が約10%遅くなる。

「ゆっくり台風」は被害が大きくなりやすい

 台風の速度が遅くなるということは、その場に止まる時間が長くなるということで、降水量は増えるし、強風、高潮などの影響を受ける時間も長くなる。同じ勢力であれば、速度の遅い台風のほうがより危険ということになる。

 長く雨が降れば、堤防の決壊などもおきやすくなる。台風19号では、関東、甲信、東北地方などで記録的な大雨となり、堤防決壊は140か所で発生した。

 気象研では、過去30年間の東京に接近した台風の速度も計測しているが、10月に、関東、甲信、東北地方などで甚大な被害をもたらした台風19号の速度は39%遅かった(10月の台風の平均時速61.6km/台風19号は時速37.5km)。

 災害に「もしも」はないが、仮に台風19号の速度が平均程度であれば、被害は減少していただろう。

 降った雨は、止まっているわけではない。地形の傾斜にしたがって、高いところから低いところへと流れる。上流域から下流域に水が集まってくる。だから自分の住む場所の雨が止んでいても、上流域の降水量が多ければ川の水が増える。台風19号の際、水戸の10月12日の降雨量は126ミリ(気象庁発表)。地元の人は「たしかに風雨は強かったが、騒ぐほどのことではなかった」「たいしたことなくてよかった」と口をそろえた。しかし、13日の午後3時過ぎ、水戸市に水があふれた。この水は上流域からやってきたものだ。

 長雨の後は土砂災害も起きやすくなる。長く降り続いた雨は地層にゆっくりしみ込んでいく。雨がやんで地表の水分が流れきっても、地層は湿潤状態になり、崩れやすくなっている。雨が上がっても注意が必要だ。

 平成30年7月豪雨(西日本豪雨)の際は、雨が上がってからまる1日以上経ってから、広島県府中町の榎川で土石流が発生し、周辺の民家などに土砂が流入した。

 ハザードマップで土砂災害警戒区域に指定されている人は、以下の前兆現象に注意し、警戒すべきだ。

●崖崩れの前兆=湧き水の増加や濁り、小石の落下、崖に発生する亀裂

●地滑りの前兆=井戸水の濁り、地鳴りや山鳴り、地面に発生する亀裂

●土石流の前兆=河川の濁りや水位の低下、山鳴り、流木や転石の音の発生

 豪雨に関しては「垂直避難」でよいが、土砂災害は「垂直避難」では避けられない。命を守るためには「安全な場所への避難」が必要だ。

 今後は台風の勢力を見る場合、速度に注目する必要がある。そして、降水量が多い場合、雨が止んでも油断は禁物だ。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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