上下水道とも耐震化されている拠点病院、避難所はわずか15%。災害時に断水、トイレ使用できない可能性
能登半島地震で水道システム急所施設が機能不全、復旧の遅れが課題に
国土交通省が「上下水道施設の耐震化状況に関する緊急点検結果」を公表した。
緊急点検の背景には、今年1月1日に発災した能登半島地震がある。この地震の際、上下水道施設に甚大な被害が発生したが、特に上下水道システムの「急所施設」(浄水場、配水池、下水処理場に直結する管路等)の耐震化が不十分だったため復旧に時間がかかった。「急所施設」が機能しないとシステム全体が機能不全に陥る。
緊急点検の対象になったのは、上下水道システムの「急所施設」(下図の赤字で記された施設)と災害拠点病院、避難所などの「重要施設」とつながる上下水道管やポンプ場。これらの耐震化率の調査が行われた。
上下水道どちらも耐震化されている「重要施設」は15%
調査の結果、上下水道システムの「急所施設」の耐震化率(全国)は以下の図のとおりだった(2024年3月末時点)。
これらを給水人口規模別にみると、上水道施設については、給水人口規模が小さい事業者ほど耐震化率が低い傾向にあり、下水道施設(下水処理場)については、給水人口規模が大きい事業者ほど、耐震化率が低い傾向にあった。前者について事業者の財政難、後者については施設の敷設時期が関係していると考えられる。
また、「重要施設」に接続する水道・下水道の管路等の耐震化率(全国)は以下のとおりだった(2024年3月末時点)。
避難所や災害拠点病院などの「重要施設」とつながる水道管の耐震化率は39%、下水道管の耐震化率は51%、さらに、上下水道どちらも耐震化されている「重要施設」の割合は15%と、低い水準に留まっていることがわかった。これは病院や避難所が、災害時に断水する、トイレが流せなくなる可能性があることを示している。
耐震化推進に向けた課題
この結果を受け、国土交通省は全国の上下水道事業者に対し、耐震化計画の策定や耐震化状況の公表を通じて、耐震化を計画的・集中的に推進するとしている。たとえば、耐震性を持つ水道管(耐震管)への交換が進められる。
耐震化の重要性は以前から認識されているものの、その進展は遅れている。
1995年の阪神淡路大震災を受け、厚生省(当時)は「地震に強い水道づくり」を検討し、老朽化した水道管を5年以内に耐震性のあるものに更新する方針を提言した。その後、2004年の「水道ビジョン」では、浄水場や配水池といった基幹施設や主要管路の耐震化率を100%にする目標が示された。2011年の東日本大震災では、再び水道耐震化の重要性が確認された。しかしながら、2023年3月に公表された「水道事業における耐震化の状況」によると、全国の主要水道管の耐震化率は依然として42.3%にとどまっている。
それはなぜか。
耐震化が進まない理由「財源不足」
水道事業は厳しい経営環境に直面している。人口減少に伴う利用者減少が収入減に直結し、国が設けた耐震化補助金も各自治体への割り当てが十分でないため、耐震化を進めるには水道料金の値上げが避けられない。市民負担が増加するなかで、国の補助金増額が求められる。
耐震化が進まない理由「人材不足」
また、水道事業者内の技術職や技能職の減少に加え、民間の技術者不足も課題である。官民連携が推奨されているが、そもそも連携する相手が足りない。最近では工事業者不足も深刻で、入札が不調に終わる例も増えている。
耐震化の優先順位付けと代替手段の検討が必要
少ない予算と人材の中で耐震化を進めるためには、施設ごとの優先順位付けが必要である。
すべての水道施設の耐震化が必要かと言えば、必ずしもそうではない。人口減少を背景に水道事業の縮小や施設の統廃合が進んでおり、これらを考慮したうえで「急所施設」(浄水場、配水池、下水処理場に直結する管路など)の耐震化が優先されるべきだろう。
さらに、災害時に「重要施設」が機能不全に陥らないためには、上下水道の耐震化のみならず、独立した水・衛生管理ができる仕組みの導入も検討すべきである。拠点病院のなかには自前の井戸を確保するケースもあるし、今後は雨水活用も検討されていくだろう。
参考記事「知ってました? じつはとっても多様な「小規模分散型」の水道の選択肢」(Yahoo!ニュース 橋本淳司)
下の図は、水道における小規模分散型の選択肢をまとめたものだ。こうしたしくみの導入は、「重要施設」だけでなく、人口減少地域でも行っていくべきだろう。今後、災害リスクを踏まえた柔軟な水道インフラの再整備が必要である。