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シリーズ:ギャンブル依存問題を考える(1)

木曽崇国際カジノ研究所・所長

年末の2週間の国会であっという間に成立まで漕ぎ着けたIR推進法。とても短い国会審議ではありましたが、その中で最もクローズアップされたのはやはりギャンブル依存の問題でした。審議の最中、カジノ推進派と政府は我が国でカジノが導入される前に包括的な依存問題対策を進めることを約束、おそらくこれからギャンブル依存の問題は度々大きな社会的な論議となることでしょう。

そこで今回、「ギャンブル依存問題を考える」と題した対談シリーズを通じ、この問題の実態について深堀して行きたいと思います。シリーズ最初の対談相手となるのは、ご自身もギャンブル依存者として多重債務・離職・失踪などを体験した回復者で、その体験を元に2000年に日本で最初の入居型ギャンブル依存者支援施設を開設した、認定NPO法人ワンデーポートの施設長・中村努さんです。日本で最も古くから数多くのギャンブル依存者支援の最前線を見て来た数少ない専門家である中村さんが、今巻き起こっているギャンブル依存対策論議に対して何を思うのか。シリーズ対談を通じて紐解いて行きたいと思います。

【プロフィール】

中村努(認定NPO法人ワンデーポート・施設長):

1967年生まれ。國學院大學文学部文学科卒。10代のの頃からギャンブルにハマり、29歳のときにギャンブルをやめ、32歳のときにワンデーポートを立ち上げる。一つのことにハマりやすく、こだわりが強い。

「一番重要なのは多様な問題背景がある中で、最初の段階で依存症として決めつけないこと」

木曽:

こんにちは、よろしくお願いいたします。さて、対談の口火を切るにあたってまずはすごく概論からなのですが、ここの所、IR推進法の論議もあって世間に沢山のギャンブル依存に関する情報が発進されていましたが、依存者支援の最前線にいる中村さんとしてはそれらをどのように見ていましたか?

中村:

カジノの話だけじゃないのですが、やっぱり日本の施策って下から上がってくるんではなくて、上から決まって来るんだな、と。そもそもNPO的な発想というのがないんですよね。今、日本のNPOというのは行政の下請けみたいになっていて、NPOが情報を発信して社会を変えてゆくというシステムがないので、これはもう日本の宿命だと思っていますね。正直、今回のような論議の流れと言うのは予想されていたし、これからも変わらないだろうな、と。これは障害の分野でも、福祉の分野でも同じなんですよね。我々ワンデーポートのような少数派は、少数派で有り続けるのだろうなとは思っています。

木曽:

今回、色んな情報が流れている中で、中村さんとして例えば具体的に気になる情報、ちょっと違うなと思うような論議はありましたか?

中村:

色々ありますけれど、やっぱりギャンブル依存に対して、何だか最初から「あれは病気だから」とか「こういうものなんだ」という決めつけが固まってしまっていて、国会での論議についてもそこが堀り下がっていないように感じました。現場で本当は何が起きているのかということが、全く議論されていない。逆に、私達が掘り下げてゆこうとして積極的に発信しようとすると、マスコミなんかはそこはカットしちゃいますしね。表面的なことしか載らないんですよ。

木曽:

まぁ、新聞にもテレビにも紙幅とか尺に制限がありますからね。。逆に今回の対談はオンライン企画で紙幅は関係ないので、中村さんの言いたいことを全部言って貰えるようにしたいと思っています。

中村:

おねがいします(笑

木曽:

で、例えばの話ですが、これまでの表層的な話からギャンブル依存の問題を更に掘り下げてゆくとしたら、中村さんとしてはどういう掘り下げ方をすべきだと思っていますか?

中村:

まず重要なのは依存者の一人一人を見てゆくという事なんですよね。例えば、パチンコ依存者の電話相談を受けているリカバリーサポートネットワークの相談データなんかを見ると、電話相談をしてくる半分くらいの人は非常勤か無職なんですよね。逆にいうと、常勤で安定している人が半分くらいしかいない。実は、依存問題に関しては元々経済的に脆弱な人が「困った」として相談をしてくるケースも多いんです。

出所:RSN Data Report 2015
出所:RSN Data Report 2015

更にもっと見てゆくと、実はパチンコ以外の関連問題として、狭義の意味での精神障害の人が2015年の相談件数1,753件のうち278件と、突出して沢山います。また精神障害以外のその他の問題を抱えている人までもを総合すると、実はかなり自分自身でパチンコ以外の別の問題を抱えていると自覚している人が電話相談をしてきている。少なくとも何かしらのパチンコ以外の問題背景のある人が、全体のかなりの比率で居たりするんですね。こういうデータが今の時点でもあるにも関わらず、すべて「ギャンブル依存症」というくくりでやってしまうのは、無理があるんですよね。

もっというと、実はこのデータの中には知的障害が入ってないんですよ。軽度の知的障害の人って世の中には沢山いて、自覚がある人・ない人、手帳(知的障害のある人が持つ療育手帳)を持っている人・持ってない人が居る。そういう人までこのデータに加味するとしたら、さらにパチンコ以外の問題背景がある人の比率が上るはずです。だから、実は一番重要なのはこういう多様な問題背景がある中で、最初の段階で依存症として決めつけないことなんです。

「その2」に続く

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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