進むオンラインギャンブル対策、次なるターゲットは…?!
9月25日、日本ポーカー連盟は「警視庁の指導のもと、オンラインポーカーに関連するスポンサーシップの受け入れを控える」との決定を発表した。日本ポーカー連盟は、賭けをしない「娯楽としてのポーカー」を提供する事業者が集まる業界団体で、そこには国内のアミューズメントポーカー店やポーカーイベント業者が集まる。日本ポーカー連盟は、同団体が協賛を予定している10月15日開催の日本最大のポーカーイベント「ジャパンオープン・ポーカーツアー(JOPT)」を最後として、オンラインポーカーに関連する紹介やプロモーション活動を行わないとしている。
オンラインポーカーを含め、海外を拠点としてオンラインで提供されるギャンブル(以後「オンラインギャンブル」)を巡っては、2022年に警察庁と消費者庁が共同で「オンラインカジノを利用した賭博は犯罪です!」とする認知普及キャンペーンを開始した。日本国内からインターネットを介して行うギャンブル行為に関して、2013年に民主党(当時)の階猛議員が政府に送付した質問主意書への回答で、「一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがある」との政府の公式見解が示された。しかし、その後、遅々としてその対策は進まず、その利用の拡大を止められなかった。
特に2019年末に発生したコロナ禍以降は、「巣ごもり消費」の拡大に合わせて、インターネットを介した海外ギャンブルサービスの利用が拡大。2021年に弊社、国際カジノ研究所が全国15歳以上男女1,000人を対象としたネット調査では、間近1年のインターネットカジノ参加経験率は1.6%、国内203万人相当のユーザーが存在すると推計された。また、同じく弊社が2024年に実施した同様の調査では、それが2.8%、国内346万人相当にまで拡大しているとの推計結果が出ている。
このように、インターネットを介した海外ギャンブルサービスの利用が拡大し続けている背景の一つが、海外事業者による日本国内ユーザーをターゲットとした大量のプロモーションだ。先述の通り、2013年にその違法性に関する政府の公式見解が出されたものの、その対策が遅々として進んで来なかった我が国では、海外のインターネットギャンブル事業者から長らく新規ユーザーの「狩り場」として認知されてきた。特にその利用が急拡大したコロナ禍の発生以降は、テレビやラジオなどマスメディアに大量の広告投入が行われるようになった。本稿の読者の皆さんも、地上波バラエティ番組やスポーツ中継の合間に「〇〇カジノ無料版」なるオンラインゲームの広告が流れているのを一度は見かけたことはあるまいか。
これらは、実際は賭けが行われているインターネットカジノの「体験版」にあたる無料サービスをわざわざ単独のゲームとして切り出し、大量のマス広告でユーザーを集め、そこからサービス本体へと誘導する目的で行われるインターネットカジノの広告行為であった。この様な広告は、表面上はあくまで「無料ゲーム」を対象とするものであり、それそのものが直ちに違法とは言えないという判断から、一時、広くマスコミで扱われていた。
このように拡大するインターネットを介した海外ギャンブルサービスの利用を抑制する為、政府が対策に動き出したのが2022年のことである。警察庁と消費者庁は共同で、「海外で合法的に運営されているオンラインカジノであっても、日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪」とする認知普及キャンペーンを開始した。「インターネットギャンブルの利用は違法」というメッセージが明確に打ち出される様になったことで、マスコミ各社もインターネットカジノに関する広告を扱うことを控え始め、現在では少なくとも大手マスメディアでの広告は殆ど見かけなくなった(未だに一部のインターネット媒体やスポーツ媒体などでは見かけるが)。
大手マスメディアの広告取り扱いがなくなった後、その代替としてオンラインギャンブル業者が増やし始めたがの、国内様々なイベント等に対するスポンサーシップの提供である。冒頭でご紹介した国内アミューズメントポーカーやポーカーイベントへのスポンサーシップもその一環であり、オンラインギャンブルに親和性がある利用者が集まりやすい場所やイベントに各事業者が積極的に協賛金を支払い、ロゴやサービス名の露出を図るようになった。例えば、北海道を拠点とするJリーグのサッカーチーム「コンサドーレ札幌」は、前出の海外インターネットカジノの無料版にあたる「レオファン」からスポンサーシップを受けており、アプリの新規ダウンロードキャンペーンなどをファンに向かって積極的に行っている。その他にも、国内の格闘技系のイベントは、ネットを介して提供されるオンラインギャンブルのイチ形態であるスポーツベッティング業者からスポンサーシップを受けているものも多い。これらのイベントやその興行業者は、必ずしも資金的に潤沢なわけではなく、直接違法だと指摘されるものは別として、「直ちに違法とは言えない」スポンサーシップを自ら放棄するのは難しいのが実情だ。
実は、この様なオンラインギャンブル業者によるスポンサーシップの事例は、日本国内に見られるだけのものではない。例えば、毎年米国ラスベガスで開催される世界最大のポーカーイベントである「ワールドシリーズ・オブ・ポーカー(WSOP)」は、長らくオンラインポーカー事業者のGGPokerによるスポンサーシップを受け入れてきた。GGPokerは、イギリス領の自治区であるアイルランド海の孤島、マン島に本拠を置くオンラインギャンブル事業者であり、実はアメリカ国内のいずれの州においても合法的にギャンブル事業を営む営業権(ライセンス)を保有していない。要は、アメリカ人がアメリカ国内からアクセスを行い当該事業者の営むサービスを利用し賭博を行えば違法であり、このような事業者からスポンサーシップを獲得することの是非には日本と同様に一定程度の論議はあった。しかし、そのスポンサーシップ受け入れは長らく続けられ、本年8月、GGPokerはWSOPの運営権を約750億円(5億USドル)で買収すると発表し、スポンサーがイベント興行そのものを逆買収する大型事例として業界内では大きな話題となった。
その様な現状の中で、冒頭でご紹介したとおり「警視庁の指導のもと」とはいえ、国内アミューズメントポーカー店やポーカーイベントを取りまとめる業界団体が「オンラインポーカーに関連するスポンサーシップの受け入れを控える」とする自主規制を定めることは、とても勇気を要する決断であったであろう。そもそも日本国内のポーカー事業はあくまで「娯楽としてのポーカー」を提供するものであり、上記でご紹介したラスベガスで開催されるイベントの様に賭博行為として提供されているものと比べ、収益性が格段に低い。その様な業態においてスポンサーシップ獲得の重要度はとても高く、その是非を巡る社会的な論争があるとは言え、これを自ら積極的に放棄してゆくことは、産業にとってはあえて「難局を選ぶ」行為に他ならない。
そして、この日本ポーカー業界の決断は、今後、その他の業界への論争へと確実に広がるだろう。我が国で海外オンラインギャンブル業者のスポンサーシップを獲得している主体はポーカー業界だけではない。先述の通り、Jリーグのコンサドーレ札幌や各格闘技系イベントなど、特にスポーツ業界にはこれらスポンサーシップを獲得している業者が沢山存在しており、寧ろその出稿量でいえばスポーツ業界こそがこの論争の「本丸」であると言ってよい。日本のポーカー業界を起点としたこの論議が、どこまで、どれ程のスピードで広がってゆくか、今後の動向に注視してゆきたい。