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東京都事業:「お台場噴水」と「都庁プロジェクションマッピング」は全く別モノ

木曽崇国際カジノ研究所・所長

東京都が突如発表したお台場海浜公園における「世界最大級の噴水」整備事業。週刊FLASHが以下のような批判記事を展開しているのを見かけて、ナイトタイムエコノミーの専門家として一言解説が必要かな、と思い記事を書きます。以下FLASHからの転載。

「壮大な無駄遣い」東京都「世界最大級の噴水」“費用26億円”に批判殺到「プロジェクションマッピングで懲りたと思ってた」

https://news.yahoo.co.jp/articles/3db5fbf06f128556659224c5e4fb1f165bb01879?source=sns&dv=sp&mid=other&date=20241109&ctg=dom&bt=tw_up

FLASHの論調は、今年冒頭から始まった東京都庁の別プロジェクト「プロジェクションマッピング」事業と十把一絡げにして「懲りない都庁」として批判しています。ただ、この分野の専門家として申し上げるのならば、都庁プロジェクションマッピングとお台場噴水整備は施策の「性質」として全く別物。そして私は前者は猛烈に批判した立場ですが、今回のお台場噴水整備に関しては「あり」という立場。以下、その理由を解説;

これは「夜の観光資源」にだけに言えることではないですが、行政が主体になって行う「観覧無料」系の観光開発事業は①新たに発生する人流とそのボリューム、②想定される新規観光消費、③そこから発生する観光設備投資、ここまでセットにして考えなければいけません。

例えば、かつて私が批判した、そして今も批判的な都庁におけるプロジェクションマッピング事業ですが、上記3つの観点で整理すると;

①そもそも、東京都庁は上層階の展望台が夜の観光スポットとして定着しており、そこに新たにプロジェクションマッピングを加えたことによって発生する「新たな」観光の人流やそのボリュームは限定的である。

②先述の通り既に東京都庁は観光資源として一定のポジショニングを獲得しているが、その都庁を訪れる観光客がその道すがら何か観光消費をしているか?というと実は現状で殆ど観光消費は行われていない。そこにプロジェクションマッピング新設による新たな人流が加わったとしても、発生する消費はとても限定的。

③上記の様にそもそも発生する観光消費が限定的な上に、実は都庁周辺はオフィスビル群で既に開発し尽くされている状況であり、民間事業者が新たに何か観光投資を行うような余地そのものがない。

観光客による直接の消費が(ほぼ)見込めない上に、周辺に新規開発余地がない。その様な事業の為に、当初2年予算が16億5千万円、その後もリース料やコンテンツ更新の為に毎年7-8億円程度はかかるのではないかと言われている。私が当該事業を「クソofクソ」と呼んでいるのはそれが理由であります。

一方、お台場噴水整備事業はどうでしょうか。

①現在、お台場は観光地として完全に低迷期にあり、特にお台場の夜の観光資源として知られた大観覧車が2022年に撤去されて以降、夜は完全にゴーストタウン化している。現在、お台場を訪れる観光客は昼に現地入りし、ショッピングや域内の観光を行った後、夕刻には都心側に移動するという行動パターンになってしまっているが、そこに新たにライトアップされた噴水ショーが加わることでお台場での滞在パターンが完全に変化。おそらく午後にお台場に入って、ショッピングと域内観光を行い、日が落ちてから噴水ショーを見て都心側に帰るという新しい人流が生まれることになる。

②そのことによって観光客のお台場での滞在時間が増え、特に地域にとって重要なのは「夕食を現地で食べる」という新たな消費が地域に落ちる。また、お台場の食事処は多くがショッピングセンターの中なので、各ショッピングセンターへの観光客の流入と滞在時間が増え、それに伴う消費増加も見込まれる。

③何よりもお台場の長所は、観光開発余地がまだたくさん残されている点。お台場では2025年開業予定でトヨタがアリーナを含む複合商業開発を予定している他、周辺エリアに未だ民間の開発余地を沢山残しており、この地域に新たな人流と観光消費が見込めるのであれば、大型開発を複数呼び込むことが出来る。

勿論上記は全て「可能性」でありますが、公共による観光施設開発というのはこのような周辺で起きる波及効果を「明確に狙った上で」行うべきもの。そして、最終的に目指すべきは周辺不動産の価値向上と取引の活性化。不動産取引税や固定資産税は地方税として自治体の収入の「柱」でありますから、そうやって26億円の公共投資分を取り戻してゆくわけです。その点において今回のお台場噴水整備事業は都庁プロジェクションマッピング事業とは同じナイトタイムエコノミーの活性化事業でありながら、性質的には「大きく違う」ものであると私は評価しております。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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