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オンライン開催された「東京eスポーツフェスタ」 観戦して良かった点・気になった点

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
14日に開催された「モンスターストライク」決勝大会の様子(※筆者撮影。以下同)

2月12~14日にかけて開催された、東京都、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)などが主催したeスポーツイベント「東京eスポーツフェスタ2021」。昨年に開催された、第1回の本イベントの会場は東京ビッグサイトだったが、今年はコロナ禍のためオンライン開催となった。

以下、本稿では筆者が本イベントの配信を見たうえで良かった点や、改善すべきと思われる点をまとめてお伝えする。

競技の対象が6タイトルに増え、規模が拡大

「東京都知事杯」をかけて行われたeスポーツ競技は、昨年も使用された「太鼓の達人 Nintendo Switchば~じょん!」「モンスターストライク」「パズル&ドラゴンズ」の3タイトルに加え、「eBASEBALL パワフルプロ野球2020」「グランツーリスモSPORT」「ぷよぷよeスポーツ」も新たに登場。タイトル数が倍増したことで、プレイヤーおよび視聴者の裾野を広げることに成功した。

参加した(オンライン予選を勝ち抜き、決勝大会に進出した)選手たちはプロ、アマを問わず、どのタイトルも非常にレベルが高かった。例えば「太鼓の達人」の一般の部決勝戦では、優勝したはる~~ん選手が高難易度曲を2曲連続でパーフェクトを達成したり、「パワプロ」ではサヨナラホームランが2試合続けて飛び出すなど、見ていてとても楽しかった。

また「太鼓の達人」では、昨年に引き続きキッズ部門を設け、小学生以下のプレイヤーでも気軽に参加できる機会を用意していたのも好印象だった。

「太鼓の達人」の決勝戦(一般部門)より。各選手は自宅からの参加となった
「太鼓の達人」の決勝戦(一般部門)より。各選手は自宅からの参加となった

出場選手のインタビューも配信

オンライン開催のため、選手たちは自宅からの参加となったが、競技開始前に司会者の質問に応じて意気込みを話したり、優勝者インタビューの時間を設けるなど、ただプレイ中の映像を「流すだけ」ではない構成になっていたのも良かった。

また、メディア向けに優勝者インタビューの時間を別途用意していたのも、報道する側の立場としては(筆者は参加しなかったが)ありがたい配慮だった。

なお「太鼓の達人」は、1月31日に決勝大会を実施したため録画配信となったが、各選手が本イベントに向けての抱負を語った動画を事前に用意し、優勝者インタビューのみライブ配信を実施していた。参加した選手たちにとっても思い出に残る、とても良い演出になったのではないかと思われる。

司会者のインタビューに応じる「ぷよぷよeスポーツ」優勝者のともくん選手
司会者のインタビューに応じる「ぷよぷよeスポーツ」優勝者のともくん選手

eスポーツ、セミナーの2チャンネルを用意

今大会では、競技をメインにした「eスポーツch」と、ビジネス・学習関連の発表を配信する「セミナーch」の2チャンネルを用意し、3日間を通じて多くの番組が配信された。

平日開催となった、初日の12日(金)は「ビジネスDAY」と題し、出展者のPRやセミナー、「企業交流戦」の配信など社会人向けの内容に特化していた。また「セミナーch」では、企画によっては出演者や運営スタッフが、YouTubeのコメント欄に書き込まれた質問に返答する形で、視聴者との質疑応答も可能となっていた。

2日目以降も、競技とビジネスの配信チャンネルを分けることで、「セミナーch」がバーチャル出展者コーナーとしてうまく機能していたように思う。さらに、公式サイトには「関連産業展示会コーナー」が設置され、各出展者が手掛ける製品・サービスを見たり、オンライン商談の予約フォームを準備するなど、東京都の産業振興という本イベントの目的に沿った場がきちんと用意されていた。

公式サイトより。出展者の紹介ページ
公式サイトより。出展者の紹介ページ

各出展者のロゴをクリックすると、企業情報とともにオンライン商談の予約フォームが表示される仕組みだ
各出展者のロゴをクリックすると、企業情報とともにオンライン商談の予約フォームが表示される仕組みだ

「セミナーch」の様子(※写真は13日に配信された「北米eスポーツ教育連盟 日本本部」の発表より)
「セミナーch」の様子(※写真は13日に配信された「北米eスポーツ教育連盟 日本本部」の発表より)

タレントが出演した番組の配信意図が不明瞭

「eスポーツch」では競技のほかにも、お笑いタレントを招いた「芸人 vs レジェンドゲーマー eスポーツバトル!」という企画も繰り返し配信されていた。

この企画には、競技に使用されていないタイトルもいろいろと登場したが、これらのタイトルを次回以降の「東京都知事杯」に使うためのプロモーションが目的なのか、それとも対戦相手として出演したプロゲーマーの腕を世に知らしめるためなのか、その意図が伝わってこなかった。

タレントを呼ぶのは別に構わない。だが、「ただ面白ければいい」という配信をするのであれば、各ゲームメーカーやタレントが自身のチャンネルで配信すればいいだけの話であり、わざわざ東京都の税金を使う意味はないように思われる。

また「パワプロ」の決勝大会では、2人のVtuberが応援団長として参加していたが、なぜ応援団を呼び寄せたのかも疑問に思った。

しかも、Vtuberは口や体がほんの少ししか動かず、応援団の割にはアクションに乏しく、試合中は実況アナと解説者の声が重なるケースも多かったので、いったいどっちのVtuberがしゃべっているのか、それすら筆者はよくわからなかった。

試合自体はすごく面白かったので、「パワプロ」もほかの競技タイトルと同様に、アナウンサーと解説者だけに進行を任せれば十分だったように思う。

14日配信の「eBASEBALL パワフルプロ野球2020」より。「応援団」を呼ぶ必要性ははたしてあったのか?
14日配信の「eBASEBALL パワフルプロ野球2020」より。「応援団」を呼ぶ必要性ははたしてあったのか?

見せ方にもっと工夫がほしかった「企業交流戦」

12日に配信された「企業交流戦」では、現在大人気を博している「桃鉄」こと「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」を使用した、参加企業同士によるチーム戦が行われた。

対戦ルールは、3年間の(本タイトルとしては)短期決戦に設定され、ゲームを知らない人でも楽しめるようにと、実況アナと解説者が適宜コメントを挟んではいたが、3時間にも及ぶ長丁場の配信だったので、さすがに途中で飽きてしまった。

しかも、チームによってはゲーム開始直後から同じ地域にずっといたまま離れようとせず、代わり映えしないマップを延々見せられたり、買い物をするのかしないのか、なかなか決断できずにウインドウの開閉を繰り返すなど、見ていて退屈してしまう場面が(たとえそれが作戦だったとしても)しばしばあった。

この企画に限っては、アナウンサーと解説者による「マジメな」実況よりも、プレイ中の選手同士で作戦を話し合っているときの声を流したり、あるいは普段の活動状況を自由にしゃべってもらうことで、本企画をサポートした社会人対象のアマチュアeスポーツリーグ、「AFTER 6 LEAGUE」の魅力を伝える配信に徹したほうがよかったように思われる。

企画自体はとても良かったので、次回以降はアマチュア社会人リーグならではの楽しさを少しでも多くの人に広められるよう、配信方法をぜひ工夫していただきたい。

12日の「企業交流戦 powered by AFTER 6 LEAGUE」より。3時間の配信はさすがに長過ぎたかもしれない
12日の「企業交流戦 powered by AFTER 6 LEAGUE」より。3時間の配信はさすがに長過ぎたかもしれない

参加選手の情報があまりにも少ない

各タイトルの決勝大会に出場した選手・チーム名は公式サイトに掲載されているが、そのプロフィールやゲームプレイ歴、得意戦法などの情報が非常に少なく、タイトルによっては選手名のリンクをクリックしても「意気込み」しか読めないものもあり、あまりにも寂しかった。

例えば、地元東京の選手は出身地や母校を紹介したり、過去に実績のある選手であればタイトル獲得や入賞歴を紹介するなど、サイトを見た人が誰かを応援するきっかけにつながるような情報もきちんと書いてほしかった。また、プロ選手であれば所属チームや、普段参戦しているリーグ戦のランキングなどのデータも明記すべきだろう。

本イベントにはプロ選手も多数参加しており、とりわけ「パズドラ」の決勝大会は昨年に引き続き、優勝者はJeSU公認のプロライセンスを獲得できることが大きな目玉となっていた。だが、参加した選手たちが「なんだ、プロになってもアマチュアの頃と扱いがちっとも変わらないのか」と思われては元も子もないだろう。

「将来の夢はプロになること」と「意気込み」に書いた選手も参加したイベントなのに、わざわざ自分たちで商品価値を落とし、子供の夢を壊すようなことは絶対にあってはいけないと思う。

それから、メディアの視点で言わせていただくと、昨年開催された鹿児島国体の代替イベント「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020 KAGOSHIMA」と同様に、本イベントのレポート記事を掲載したメディアが、eスポーツに特化した媒体も含め非常に少なかった印象を受ける。

競技自体は面白かったのに報道が少ないのは、単にオンライン開催になったからではなく、誰が出ているのか、出ているのはプロなのかアマなのか、あるいは何の目的で参加しいるのか、基本情報の不足も一因になっているかもしれない。

公式サイトで、選手・チーム名をクリックしても「意気込み」しか表示されないのはあまりにも寂しい
公式サイトで、選手・チーム名をクリックしても「意気込み」しか表示されないのはあまりにも寂しい

なお、本イベントの映像はYouTubeでアーカイブ視聴ができるので、興味を持った方はぜひご覧になっていただきたい。また、出展者とのオンライン商談会は19日(金)まで受け付けているそうなので、詳しくは公式サイトでご確認を。

(参考リンク)

・「東京eスポーツフェスタ2021」公式サイト

・「東京eスポーツフェスタ」YouTube公式チャンネル

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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