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年中無休で24時間営業中 「オンラインクレーンゲーム」の舞台裏に潜入してみた

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
景品を補充する「タイトーオンラインクレーン」のスタッフ(※筆者撮影。以下同)

コロナ禍による「巣ごもり需要」の恩恵を受け、「オンラインクレーンゲーム」はプレイヤー人口も参入メーカー数も急増し、現在も人気を博している。

オンラインクレーンゲームは、その名のとおりクレーンゲーム機をPCやスマホで遠隔操作して遊ぶゲームのこと。プレイヤーが獲得した景品は、自宅やプレゼントしたい家族の住所などに宅配便で届けてくれる、まさに「リモートゲームセンター」とも言うべき存在である。

だが、筆者が聞くところによると、本物のクレーンゲームを操作して遊べることを知らず、CGで描かれた仮想のゲーム機で遊ぶものだと思っている人が、今なお少なからずいるようだ。

そこで筆者は、実際にオンラインクレーンゲームがどのように運営されているのか、そしてどんなスタッフが運営しているのかを調べるべく、神奈川県某所にある「タイトーオンラインクレーン」(以下「タイクレ」)の現場に足を運んでみた。

以下、本邦初公開となる現場写真も掲載しているので、ぜひ最後までご一読いただきたい。

「タイトーオンラインクレーン」プレイ中の画面(※Androidアプリ版を使用)
「タイトーオンラインクレーン」プレイ中の画面(※Androidアプリ版を使用)

1000ブースのクレーンゲームが、24時間動き続ける衝撃の光景

「タイクレ」は、2017年からYahoo!ゲームでサービスを開始し、現在までに登録者数は400万人を超え、タイトーの大きな収益の柱となっている。

その施設内に入ると、約1000ブースものクレーンゲームがズラリと並び、そのスケールに圧倒された。取り扱う景品は実に4000種類にも及び、長らくゲームセンターを見てきた筆者でも、これほどの数のクレーンゲームが稼働している所を見たのは生まれて初めてだ。

通常の店舗では絶対にあり得ないことだが、カメラ映りを良くするために、すべてのクレーンゲームをガラスやアクリル板を外したまま稼働させている。お客さんが1人もいないフロアで、スタッフが景品の置き直しや補充の仕事に奔走し、あちこちからクレーンの駆動音が鳴り響く光景は、壮観でもあり新鮮でもあり不思議でもあり、実に衝撃的な光景だった。

ズラリと並んだクレーンゲーム。ゲーム機の正面に置かれた柱にはカメラが搭載されている
ズラリと並んだクレーンゲーム。ゲーム機の正面に置かれた柱にはカメラが搭載されている

タイトーのEB事業本部 オンラインビジネス部 オンラインビジネス課の眞壁友樹課長によると、「タイクレ」の現場では社員、アルバイトスタッフを合わせて約80人が24時間体制で運営しているそうだ。

ちなみにピークの時間帯は、驚くことに深夜、ちょうど日付が変わるタイミングだという。深夜営業が風営法で禁止されているゲームセンターとは、まさに真逆の現象が起きているのだ。

「日付が変わり、新しい景品の解禁日になったタイミングで多くのお客様がいらっしゃいます。特に、月末の深夜はとても忙しくなりますね」(眞壁氏)

ちなみに「タイクレ」で現在人気の景品は「ちいかわ」のぬいぐるみのほか、30~50代の男性客が多いことから、マンガ・アニメキャラのフィギュアも非常に好評なのだそうだ。

「タイクレ」の人気アイテム「ちいかわ」のぬいぐるみが投入されたクレーンゲーム
「タイクレ」の人気アイテム「ちいかわ」のぬいぐるみが投入されたクレーンゲーム

ゲームセンターでは実施できない、独自の運営・サービスも展開中

オンラインクレーンゲームは、ゲームセンターとは異なり風営法が適用されないため、景品のバリエーションがより豊富なことも大きな楽しみとなっている。

例えば、紙箱などの獲得した景品その物ではなく、代わりにコンビニやファストフード店で商品と引き換えができる、バーコードを付与したデジタルチケットがもらえるクレーンゲームが、オンラインクレーンゲームではごく当たり前に存在する。

ほかにもタイトーでは、冷凍・冷蔵食品の景品については同社ではなく、景品のメーカーから直送することもあるという。個々のゲームセンターでは在庫管理が難しい(そもそも設備がない)生鮮食品類が景品の対象となるのも、オンラインクレーンゲームならではの面白さと言えるだろう。

クレーンでボールを持ち上げて、フィールドの右側にある常時回転しているバット付近にボールを落とし、打ったボールが穴に入ると景品が獲得できる、凝った仕掛けのクレーンゲームも遊べる
クレーンでボールを持ち上げて、フィールドの右側にある常時回転しているバット付近にボールを落とし、打ったボールが穴に入ると景品が獲得できる、凝った仕掛けのクレーンゲームも遊べる

「オンライン接客」にもこだわって運営中

眞壁氏によると、プレイヤーから景品の「置き直し」の依頼があった際は、スタッフが手元のPCで場所を確認したうえで、すぐに実機の元へ向かい対応しているとのこと。筆者が取材したのは平日の日中だったが、各スタッフはノートPCと景品を載せた台車を押しながら、広いフロア内を黙々と動き回り業務をこなしていた。

眞壁氏によると、景品の位置を直す際にも「タイクレ流」のこだわりがあるという。

「元々弊社の店舗では、接客を大事にするオペレーションを続けています。『タイクレ』でもお客様に対し、景品を置き直すときは必ず最初に手を差し出してから、丁寧に対応するよう心掛けています。お客様と直接お話することはできませんが『この辺りをつかむと取りやすいですよ』と、手の動作でお伝えするようにしています」(眞壁氏)

プレイヤーから景品の置き直しの依頼を受けるたびに、スタッフが該当するクレーンゲームの元に駆け付ける
プレイヤーから景品の置き直しの依頼を受けるたびに、スタッフが該当するクレーンゲームの元に駆け付ける

ハンドサインによる「オンライン接客」を実践したところ
ハンドサインによる「オンライン接客」を実践したところ

メディア初公開! 「オンラインメダルゲーム」の実機

タイトーでは「タイクレ」に続き、今年の7月からWebブラウザで遊べる「タイトーオンラインメダル」の配信も開始している。

「タイトーオンラインメダル」では、サーキットコース上を転がる全8色のボールのうち、どのボールが早くゴールするかを予想する「マーブルレース」と、デジタルスロット「BUBBLUN SLOT」の2種類が遊べる(※今月中に、新たに1タイトルが追加される予定)。

「BUBBLUN SLOT」はデジタルゲームだが、実は「マーブルレース」は本物のサーキットコース上にボールを走らせており、こちらの実機も「タイクレ」と同じ施設内にあることが判明した。以下の写真が、その「本物」である。

本邦初公開の「マーブルレース」実機。センサーを利用して、各ボールの順位やスピードを計測している
本邦初公開の「マーブルレース」実機。センサーを利用して、各ボールの順位やスピードを計測している

「タイトーオンラインメダル」は、ログインボーナスなどで獲得できるメダル、または「タイクレ」と共通のデジタル通貨「TC」を利用して購入したメダルを使用してプレイする仕組みで、レースの順位を当てる、あるいはスロットで役をそろえるとメダルが増やせる。

「タイトーオンラインメダル」は、単にゲームが遊べるだけでなく、実はメダルゲームをプレイすると獲得できるポイントで、「タイクレ」で景品の置き場所の変更をお願いできる「アシストチケット」などと引き換えられるのがミソ。こちらも法律の関係でゲームセンターでは実現できない、オンラインならではのサービスである。

現在、オンラインクレーンゲーム市場にはタイトーのほかにも多くのメーカーやオペレーター(※ゲームセンターの経営会社)、および専業の業者が参入しており、今後は各社間で生き残り競争が激化するのは必至の情勢と思われる。

「毎月23日と月末に開催する『お客様感謝デー』や、季節の景品を入荷したフェアなど、日々オンラインならではの楽しいことを実施しています。なかなかお店に出掛ける機会がないときには、ぜひ『タイクレ』を遊んで下さい」(眞壁氏)

今後、どんな新しい景品や遊びが体験できるオンラインクレーンゲームが登場するのか? あるいはオンラインメダルゲームとの融合など、さらなる新サービスが展開されるのか? 「タイクレ」の動向には引き続き注目したい。

(参考リンク)

・「タイトーオンラインクレーン

・「タイトーオンラインメダル」

「タイクレ」運営スタッフの皆さん。左端が眞壁友樹氏
「タイクレ」運営スタッフの皆さん。左端が眞壁友樹氏

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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