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「なぜ、古いゲームを保存するの?」 素朴な疑問をみんなで考える展示イベントが開催中

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」会場にある「スペースインベーダー」

京都市の京都国際マンガミュージアムで、11月23日から(土)から企画展「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」が開催されている。

本展は文化庁、京都国際マンガミュージアム、京都精華大学国際マンガ研究センター、立命館大学ゲーム研究センターが主催し、一般社団法人日本アニメーター・演出協会、一般社団法人日本ゲーム展示協会が共催するマンガ、アニメ、ゲーム3分野のアーカイブ活動実績を示す「成果発表展」である。

京都国際マンガミュージアムのサイトには、本展の開催目的が以下のように記されている。

文化庁では、マンガ・アニメ・ゲームを「メディア芸術」の一部と位置付け、10年以上にわたって、様々な形で、関連する資料のアーカイブ事業を行ってきました。

これらマンガ・アニメ・ゲームへ高い社会的関心が集まるとともに、近年、それらに関する〈アーカイブ〉(収集・保存・活用)も注目を集めつつあります。

しかし、そうした事業がどのように実施され、現在のマンガ・アニメ・ゲームの文化を支えているのかは、あまり知られていません。

そこで、本展では、文化庁によるメディア芸術振興のひとつ、「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」の成果を活用する形で、マンガ・アニメ・ゲームのアーカイブにおいて、どのようなモノが、どのような形でアーカイブされているのかといった現状を知ってもらうと同時に、今後、何をどのように集めるのか、つまり〈のこす〉のか、そして、それらをどのように〈いかす〉のか、そのあり方や意義について、来場者と一緒に考えます。

入口にたどり着くと、本展のシンボルキャラクターに選ばれた、ゲームを題材にした懐かしのマンガ「ゲームセンターあらし」の主人公、石野あらしが迎えてくれる
入口にたどり着くと、本展のシンボルキャラクターに選ばれた、ゲームを題材にした懐かしのマンガ「ゲームセンターあらし」の主人公、石野あらしが迎えてくれる

以下、本展の会場で取材したゲーム分野の展示内容、およびスタッフのコメントなどをお伝えしよう。なお、マンガとアニメ分野の展示は、たいへん申し訳ないが筆者は専門外のため写真での紹介にとどめることを、あらかじめご了承いただきたい。

震災で損傷した原稿の修復方法などが展示されたマンガ分野のコーナー
震災で損傷した原稿の修復方法などが展示されたマンガ分野のコーナー

アニメ分野は、セル画の制作過程などが学べる展示になっていた
アニメ分野は、セル画の制作過程などが学べる展示になっていた

同じく、アニメ分野の展示コーナーでは、セル画で描かれた「あらし」に触れることができる
同じく、アニメ分野の展示コーナーでは、セル画で描かれた「あらし」に触れることができる

ゲーム分野のテーマは「大きさ」「メンテナンス」「いかす」

ゲーム分野の会場に展示されているのは、1978年にタイトーが発売し、大ブームとなった「スペースインベーダー」、1974年に海外で製造されたピンボール「Skylab(スカイラブ)」、1982年にセガが発売した「ペンゴ」のアーケードゲーム3タイトルだ。

3タイトルのうち、来場者が自由に遊べるのは「スペースインベーダー」のみ。せっかく大きな施設を使用した展示イベントなのに、出展タイトルはたったの3つ、しかも1台しか遊べないのはいったいナゼか?

その答えは、本展は単に古いゲームを見て懐かしむのではなく、「大きさ」「メンテナンス」「いかす」の3つのテーマを元に、ゲームアーカイブの意義や今後の課題を来場者に問う展示になっているからだ。

大型のスクリーンを見ながら遊べる「スペースインベーダー」の展示コーナー
大型のスクリーンを見ながら遊べる「スペースインベーダー」の展示コーナー

最初のテーマ「大きさ」には、アーケードゲームは古くから家庭用と違って、大型の筐体(きょうたい)を使用していることを、来場者に改めて認識してもらう狙いが込められている。

高さ170cm、横幅65cm、奥行140cmの「Skylab」の実機を見れば、その「大きさ」は一目瞭然だ。本機には、さまざまな部品が組み込まれていることもあり、重量も当然ながら非常に重く、軽く100kgを超える(会場で筐体に触れることはできないが)。

つまり、ゲームのアーカイブを継続して実施するためには、広大な保管スペースの確保が必要不可欠であることを、ここで示しているのだ。

「Skylab」の展示コーナー。筐体内部から取り出した基板なども見ることができる
「Skylab」の展示コーナー。筐体内部から取り出した基板なども見ることができる

「メンテナンス」は、古いゲーム機をどうやって動態保存し、そのノウハウをいかにして次世代に「のこす」のかを問うテーマだ。

前掲の「Skylab」は、筐体の一部をバラしたり鏡を置いたりすることで、内部の構造が見えるように工夫されたうえで展示されている。本機の部品の数や種類の多さ、あるいは複雑に入り組んだ配線を見れば、「メンテナンス」には少なからず手間が掛かることが想像できることだろう。

本展に筐体を提供した日本ゲーム博物館が、独自に代替品を制作したうえで修理したパーツ類の展示も大きな見どころ。さらに、同博物館で日々使用している、メンテナンス情報をメンバーで共有するための記入用紙や、インターネットで集めた情報を元に自作した筐体の配線図なども展示されている。

筐体の動態保存がいかにたいへんなのか、これらの展示を見れば自ずと伝わるハズだ。

「Skylab」筐体の下部に鏡を置くことで、内部の構造も見ることができる
「Skylab」筐体の下部に鏡を置くことで、内部の構造も見ることができる

メーカー純正品の入手が難しい壊れた古い部品と、日本ゲーム博物館のスタッフが独自に修理、修復した部品を並べて展示したコーナー
メーカー純正品の入手が難しい壊れた古い部品と、日本ゲーム博物館のスタッフが独自に修理、修復した部品を並べて展示したコーナー

そして、アーカイブしたゲームはどうやって「いかす」のか? その問い掛けに使用されているのが「ペンゴ」の展示コーナーだ。

ここでは、懐かしのテーブル筐体に使用されたブラウン管のモニターと、現代の液晶モニターで「ペンゴ」の画面を同時に見ながら、色味あるいは色のにじみ具合など、それぞれの違いを比較することができる。

やがて、ブラウン管のモニターが壊れて入手不可能となった場合に、ブラウン管独特の色のにじみが再現できない、液晶モニターで代用したゲームは、はたして「アーカイブ」と言えるのだろうか? その答えを真面目に考えてみたくなる展示だ。

「ペンゴ」の展示コーナー。テーブル筐体のブラウン管モニターと液晶モニターとの見た目の違いを、デモ画面を見ながら比較できる
「ペンゴ」の展示コーナー。テーブル筐体のブラウン管モニターと液晶モニターとの見た目の違いを、デモ画面を見ながら比較できる

上記のほかにも、アーケードゲームのオペレーター(店舗スタッフや販売業者向け)用の説明書やインストラクションカード(※)に加え、「スペースインベーダー」の企画書と仕様書も「のこす」べき中間生成物として展示されていたのも、特筆に値するだろう。

※筆者注:インストラクションカードとは、ゲームの遊び方やプレイ料金などが書かれた。筐体に貼り付ける紙のこと。

90年代に盛んに使用された、セガのビデオゲーム筐体「アストロシティ」などのオペレーター用説明書
90年代に盛んに使用された、セガのビデオゲーム筐体「アストロシティ」などのオペレーター用説明書

本展実現の立役者「日本ゲーム展示協会」の活動とは

筆者が本展の開催を最初に知ったときに、展示内容と共に気になったのが、今年7月に設立されたばかりの日本ゲーム展示協会の存在だ。いったいどんな法人なのだろうか?

代表理事を務める、大阪樟蔭女子大学講師の小出治都子氏は、協会を立ち上げた目的を以下のように話す。

「法人の目標はたくさんあるのですが、例えばゲームを『のこす』『いかす』ためには、普段メディア芸術とは関わりのない博物館にも、もっとゲーム関連の展示を行ってもらえたらと思っています。

 その際に、どうすればいいのか、どこに連絡をすればいいのか、どんな作品があるのかがわからないことも多いのではないでしょうか。その時に我々がお手伝いをしたり、ゲームアーカイブを行う団体やメーカーをつなぐ役割を担えればいいと考えて設立しました」

現在、同協会は小出氏のほか、同じく過去にゲーム展を実施した経験を持つ、立命館大学ゲーム研究センター客員協力研究員の尾鼻崇氏、サイバーズ株式会社代表取締役の中林寿文の両理事と、監事で日本ゲーム博物館の半澤雄一氏の4人で運営しているそうだ。

左から順に、理事の中林寿文氏、代表理事の小出治都子氏、理事の尾鼻崇氏
左から順に、理事の中林寿文氏、代表理事の小出治都子氏、理事の尾鼻崇氏

「ゲームの展示をするのであれば、博物館から直接メーカーに連絡すればいいじゃないか」と多くの人は思うかもしれない。だが、過去に「『三国志』水魚之交」など、ゲーム関連の展示を何度も手掛けた経験を持つ小出氏によると、その難易度は高いという。

ゲームを展示するにあたり、特に問題となるのが実機の調達、および搬入搬出と「メンテナンス」の手間だ。もし展示中に故障が発生した場合は、普通の博物館にはゲームの「メンテナンス」を担当するスタッフがいないため、展示が台無しになる恐れがある。そんなときこそ、日本ゲーム展示協会の出番というわけだ。

同協会には、以前に拙稿「貴重な300種類以上のゲームを残したい! 地方で奮闘する『日本ゲーム博物館』」で紹介した半澤氏もいる。展示やイベントにゲームを何度も貸し出した実績があり、メンテナンスにも秀でた日本ゲーム博物館のメンバーが名を連ねているのも、同協会のとりわけ大きな強みだろう。

「ゲーム文化を『のこす』『いかす』などを目的とした展示を、もっと実施してほしい思いが我々にはあります。次回以降の活動は未定ですが、今後も我々が主催するものに限らず、どんどん展示に協力していきたいと思います」(小出氏)

本展は、2025年3月31日(月)まで開催されている。どう「のこす」「いかす」のか? 会場に足を運んで、ぜひ考えてみてはいかがだろうか。

(参考リンク)

・「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」(京都国際マンガミュージアムのホームページ)

・一般社団法人日本ゲーム展示協会

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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