「なぜ、古いゲームを保存するの?」 素朴な疑問をみんなで考える展示イベントが開催中
京都市の京都国際マンガミュージアムで、11月23日から(土)から企画展「のこす!いかす!!マンガ・アニメ・ゲーム展」が開催されている。
本展は文化庁、京都国際マンガミュージアム、京都精華大学国際マンガ研究センター、立命館大学ゲーム研究センターが主催し、一般社団法人日本アニメーター・演出協会、一般社団法人日本ゲーム展示協会が共催するマンガ、アニメ、ゲーム3分野のアーカイブ活動実績を示す「成果発表展」である。
京都国際マンガミュージアムのサイトには、本展の開催目的が以下のように記されている。
以下、本展の会場で取材したゲーム分野の展示内容、およびスタッフのコメントなどをお伝えしよう。なお、マンガとアニメ分野の展示は、たいへん申し訳ないが筆者は専門外のため写真での紹介にとどめることを、あらかじめご了承いただきたい。
ゲーム分野のテーマは「大きさ」「メンテナンス」「いかす」
ゲーム分野の会場に展示されているのは、1978年にタイトーが発売し、大ブームとなった「スペースインベーダー」、1974年に海外で製造されたピンボール「Skylab(スカイラブ)」、1982年にセガが発売した「ペンゴ」のアーケードゲーム3タイトルだ。
3タイトルのうち、来場者が自由に遊べるのは「スペースインベーダー」のみ。せっかく大きな施設を使用した展示イベントなのに、出展タイトルはたったの3つ、しかも1台しか遊べないのはいったいナゼか?
その答えは、本展は単に古いゲームを見て懐かしむのではなく、「大きさ」「メンテナンス」「いかす」の3つのテーマを元に、ゲームアーカイブの意義や今後の課題を来場者に問う展示になっているからだ。
最初のテーマ「大きさ」には、アーケードゲームは古くから家庭用と違って、大型の筐体(きょうたい)を使用していることを、来場者に改めて認識してもらう狙いが込められている。
高さ170cm、横幅65cm、奥行140cmの「Skylab」の実機を見れば、その「大きさ」は一目瞭然だ。本機には、さまざまな部品が組み込まれていることもあり、重量も当然ながら非常に重く、軽く100kgを超える(会場で筐体に触れることはできないが)。
つまり、ゲームのアーカイブを継続して実施するためには、広大な保管スペースの確保が必要不可欠であることを、ここで示しているのだ。
「メンテナンス」は、古いゲーム機をどうやって動態保存し、そのノウハウをいかにして次世代に「のこす」のかを問うテーマだ。
前掲の「Skylab」は、筐体の一部をバラしたり鏡を置いたりすることで、内部の構造が見えるように工夫されたうえで展示されている。本機の部品の数や種類の多さ、あるいは複雑に入り組んだ配線を見れば、「メンテナンス」には少なからず手間が掛かることが想像できることだろう。
本展に筐体を提供した日本ゲーム博物館が、独自に代替品を制作したうえで修理したパーツ類の展示も大きな見どころ。さらに、同博物館で日々使用している、メンテナンス情報をメンバーで共有するための記入用紙や、インターネットで集めた情報を元に自作した筐体の配線図なども展示されている。
筐体の動態保存がいかにたいへんなのか、これらの展示を見れば自ずと伝わるハズだ。
そして、アーカイブしたゲームはどうやって「いかす」のか? その問い掛けに使用されているのが「ペンゴ」の展示コーナーだ。
ここでは、懐かしのテーブル筐体に使用されたブラウン管のモニターと、現代の液晶モニターで「ペンゴ」の画面を同時に見ながら、色味あるいは色のにじみ具合など、それぞれの違いを比較することができる。
やがて、ブラウン管のモニターが壊れて入手不可能となった場合に、ブラウン管独特の色のにじみが再現できない、液晶モニターで代用したゲームは、はたして「アーカイブ」と言えるのだろうか? その答えを真面目に考えてみたくなる展示だ。
上記のほかにも、アーケードゲームのオペレーター(店舗スタッフや販売業者向け)用の説明書やインストラクションカード(※)に加え、「スペースインベーダー」の企画書と仕様書も「のこす」べき中間生成物として展示されていたのも、特筆に値するだろう。
※筆者注:インストラクションカードとは、ゲームの遊び方やプレイ料金などが書かれた。筐体に貼り付ける紙のこと。
本展実現の立役者「日本ゲーム展示協会」の活動とは
筆者が本展の開催を最初に知ったときに、展示内容と共に気になったのが、今年7月に設立されたばかりの日本ゲーム展示協会の存在だ。いったいどんな法人なのだろうか?
代表理事を務める、大阪樟蔭女子大学講師の小出治都子氏は、協会を立ち上げた目的を以下のように話す。
「法人の目標はたくさんあるのですが、例えばゲームを『のこす』『いかす』ためには、普段メディア芸術とは関わりのない博物館にも、もっとゲーム関連の展示を行ってもらえたらと思っています。
その際に、どうすればいいのか、どこに連絡をすればいいのか、どんな作品があるのかがわからないことも多いのではないでしょうか。その時に我々がお手伝いをしたり、ゲームアーカイブを行う団体やメーカーをつなぐ役割を担えればいいと考えて設立しました」
現在、同協会は小出氏のほか、同じく過去にゲーム展を実施した経験を持つ、立命館大学ゲーム研究センター客員協力研究員の尾鼻崇氏、サイバーズ株式会社代表取締役の中林寿文の両理事と、監事で日本ゲーム博物館の半澤雄一氏の4人で運営しているそうだ。
「ゲームの展示をするのであれば、博物館から直接メーカーに連絡すればいいじゃないか」と多くの人は思うかもしれない。だが、過去に「『三国志』水魚之交」など、ゲーム関連の展示を何度も手掛けた経験を持つ小出氏によると、その難易度は高いという。
ゲームを展示するにあたり、特に問題となるのが実機の調達、および搬入搬出と「メンテナンス」の手間だ。もし展示中に故障が発生した場合は、普通の博物館にはゲームの「メンテナンス」を担当するスタッフがいないため、展示が台無しになる恐れがある。そんなときこそ、日本ゲーム展示協会の出番というわけだ。
同協会には、以前に拙稿「貴重な300種類以上のゲームを残したい! 地方で奮闘する『日本ゲーム博物館』」で紹介した半澤氏もいる。展示やイベントにゲームを何度も貸し出した実績があり、メンテナンスにも秀でた日本ゲーム博物館のメンバーが名を連ねているのも、同協会のとりわけ大きな強みだろう。
「ゲーム文化を『のこす』『いかす』などを目的とした展示を、もっと実施してほしい思いが我々にはあります。次回以降の活動は未定ですが、今後も我々が主催するものに限らず、どんどん展示に協力していきたいと思います」(小出氏)
本展は、2025年3月31日(月)まで開催されている。どう「のこす」「いかす」のか? 会場に足を運んで、ぜひ考えてみてはいかがだろうか。
(参考リンク)