円谷プロが抱く、ウルトラマンのイメージ脱却と未来への成長戦略【前編】
1963年に創業し、特撮技術で名を馳せた映像プロダクションの老舗・円谷プロダクション。かつての社会現象的ヒットから、子ども向けの“ウルトラマンの会社”というイメージが根強いが、そこからの脱却への新たな取り組みも続いている。庵野秀明氏が企画・脚本を手がける『シン・ウルトラマン』(2022年5月13日公開)への期待も高まるなか、同社代表取締役会長 兼 CEOの塚越隆行氏に次の時代への成長戦略を聞いた。
■創業時からいまも変わらず引き継がれる円谷英二氏の魂
映像プロダクションの老舗であり、ウルトラマンなど世界的知名度を誇るコンテンツホルダーとしても国内外から注目される円谷プロ。会社設立当時からいまも変わらずその礎になっているのは、創業者・円谷英二氏の「観ている人に驚きを与え、その驚きを糧に平和や愛を願う優しさを、そして未来に向かう希望を育んでもらいたい」という言葉だ。塚越氏はここにすべての想いが込められていると語る。
「ひとつは観ている人に驚きを与えるような作品を作ろうという思いです。それはまさしく特撮技術でありストーリー。さらに、脚本、デザイン、演出、操演など、才能あるアーティスト、クリエイターたちが情熱を持って総力で作ることで実現しました。また、その驚きのある作品から、観た人たちに平和や愛を願う優しさ、未来へ向かう希望を持ってもらいたい。未来を考えてもらいたい。その気持ちを育んでもらいたい。作品にそういうメッセージを込めようという思いです。これらが会社設立の原点にあります」
東宝で特撮の神様と呼ばれた円谷英二氏は、この信念のもと黎明期のテレビメディアで映画クオリティの作品を作った。これが大ヒットにつながる。塚越氏は「弊社はウルトラマンという強いIPを軸にしますが、そのうえで創業ビジョンである遺伝子を伝えていきたい。4年前に社長に就任してから、ことあるごとにこの言葉の意味を噛みしめています」と力を込める。
■子ども向けだけではないウルトラマンブランドを確立
そんな同社の代表的なコンテンツは、昭和から令和まで時代を超えて新作が生み出され、今年55周年を迎えたウルトラマンだ。加えて、ウルトラマンの敵役である怪獣たちもまたビジネスシーンで活躍している。同社は、トヨタ自動車と『ウルトラマンZ』で協業する一方、みんな電力とは怪獣とコラボ。ウルトラマンだけでなく、怪獣たちも積極的に売り出している。
「ウルトラマンもそうですし、怪獣たちも弊社のスターですから(笑)。ウルトラマンシリーズ作品の『ULTRAMAN』ブランドを中心に、怪獣作品などは『TSUBURAYA・ULTRAMAN』ブランド、オリジナルドラマ作品などの『TSUBURAYA』ブランドと、3つのブランドを通じてあらゆる世代に楽しんでもらえる作品群を展開しています」
「55年前に放送された『ウルトラマン』の最高視聴率は42.8%でした。当時はお茶の間で家族全員でウルトラマンを観ていたんです。それがいまはテレビメディアが個人視聴に変わり、ウルトラマンシリーズは子ども向けに限られている傾向があります。しかし、ウルトラマンをはじめ円谷作品は、作品群としてオールターゲットに観てもらえるポテンシャルがあります」
■55年の歴史のターニングポイントになる『シン・ウルトラマン』
その最初の入り口になり、幼少期から円谷作品を楽しんでもらうきっかけを作っていこうとしているのが、人気怪獣をモチーフに、絵本やミニアニメで展開している『かいじゅうステップ』だ。また、22年5月公開の映画『シン・ウルトラマン』は、子ども向けではない一般映画として製作している。
「庵野秀明さんが企画・脚本を手がけ、かつてウルトラマンを観ていた大人から年配層だけでなく、女性や若い世代など、誰もが感動できる作品として現在鋭意制作中です。ウルトラマン55年の歴史のなかで、ひとつのターニングポイントになる作品だと確信しています」
「ほかにも、Netflixと共同製作中のCGアニメ長編映画『Ultraman(原題)』の制作スタジオは、アメリカのインダストリアル・ライト&マジック(ILM)。ピクサーやディズニー同様のファミリー向けアニメーションとなり、こちらも新たなファン層を獲得していくことでしょう」