世界的IPウルトラマンの海外戦略 欧米とは異なるビジネスメカニズム構築を模索【後編】
世界的IPウルトラマンを有する円谷プロダクションは、日本企業との協業による「作品」「商品」「イベント」のシナジー効果でブランド価値を高める、ビジネスメカニズムの構築による世界進出を提唱する。ハリウッドをはじめ欧米スタンダードとの差別化を図る同社代表取締役会長 兼 CEOの塚越隆行氏は、これまでのシリーズとは異なるウルトラマンの新しい時代の到来を告げる(前編から続く)。
■従来とは異なるタイプのウルトラマンを開発中
従来のテレビシリーズだけではなく、劇場映画やネット配信などメディアも内容も異なるさまざまな試みの新作が続々と生み出されているウルトラマン。この先、新たな形態を模索する新作はさらに続く。これまでとは異なる新しいウルトラマンの時代に突入していくのだろうか。
「いままでとは異なるタイプのウルトラマンを開発中です。変わるのは、ウルトラマンの姿や形状ではなく、その内容や作品性。子どもたちにとってわかりやすいメッセージ性がある作品と、大人が感動して満足できる普遍的な作品は両立できる。そういうものをウルトラマンで作りたいと考えています。ただ、詳細の発表はもう少し先になります(笑)。一方、弊社はウルトラマン以外の作品も制作していきます。新しい技術を使って新たなオリジナル作品を作っていくのが、円谷プロダクションの未来です」
■グローバルプラットフォームとの競争に参入すべきではない
映像メディアが時代の過渡期を迎えるなか、コンテンツホルダーである円谷プロは独自の動画配信プラットフォーム「TSUBURAYA IMAGINATION」をローンチした。しかし、塚越氏はSVOD(定額制動画配信)でマネタイズするためのツールではないという。
確かに円谷プロの作品カタログは1800タイトルほど。そこには、保有コンテンツ数の桁が違うNetflixやアマゾンプライムといったグローバルプラットフォームとの競争に参入すべきではないとの判断がある。ではなぜ立ち上げたのか。
「お客さまと直接つながる機会を作るためです。『作品』『商品』『イベント』を三位一体としてシナジー効果を起こし、作品を観てもらうだけではなく、人と商品と場所をつなぐことでその世界観を楽しんでもらう。それを実現できるつながりを持つのがこのプラットフォーム。その背景にあるのはCRM(Customer Relationship Management)。そこがポイントです」
「無料領域と有料領域がありますが、コアファンの一歩手前にいる無料領域のお客さまや潜在的なお客さまに、どうしたら円谷作品のいいところを伝えられるか。ファンになってもらえるか。お客さまとのつながり方を考えていくチャレンジのためのツールになります」
塚越氏は「ポイントはお客さまにいろいろな角度から作品を楽しんでもらう環境づくり」と語る。そのためには他業種との協業も必要になる。
「既存ファンにはもっと好きになってもらい、新しいファンに魅力をしっかりとお伝えする。そういうきっかけを作るのが三位一体です。すでにコンビニチェーンなどのリテールやメーカーと、エンタテインメントとして成立させる商品やイベント開発のディスカッションをはじめています。エンタメに興味がない層にも『これいいね』と思ってもらえる価値をお届けできたらいい。それをいろいろな業種の方々と考えていきたいです」
■ハリウッドを中心にした欧米スタンダードとは一線を画するべき
作品の海外展開としては、すでにNetflixでの世界配信をスタート。これまでにウルトラマンの海外権利訴訟も抱えていた円谷プロだが、現在は解決しており、より積極的に世界進出を仕掛けていくフェーズに入っている。そうしたなか、塚越氏にはある信念がある。
「作品の中身について考えていることがあります。ハリウッドが作る映画はすばらしい作品ばかりですが、そこにはひとつの傾向があります。ヒーローもののアクション大作でも一般のドラマでも、ベースに描かれるのは個人の葛藤と成長です。一方、日本やアジアの作品には、それとは異なるさまざまな考え方やコンセプトがあります」
「そのひとつは自然やコミュニティ、社会との関わり方。つまり、共存するという考え方です。我々日本人は、海と山に囲まれた自然に恵まれた国で、その環境のなかで協力しながら育ってきました。そこからのメッセージが我々の作品の特徴です。大きなスタンダードがハリウッドを中心とした欧米にはあります。しかし、いま社会が多様化するなかで、ハリウッドとの協業という形でも、我々ならではの作品が世界で受け入れられていくチャンスがあります」
欧米から見ると、世界的人気の日本キャラクターのほとんどが、すでにハリウッドメジャースタジオやグローバルメディアグループによって映像化されることが決まっている。しかし、ウルトラマンはそこに属さない。
「日本に残された最後の大きなIPがウルトラマンかもしれません。海外企業からのオファーもたくさん来ていますが、世界に出るときにハリウッドで同じことをしていては、ウルトラマンが幾多あるヒーローキャラクターのなかで埋没してしまう。世界で勝負するためには、日本のアイデンティティと日本らしさを強味としてストーリーに活かす。そういう切り口の出し方をウルトラマンブランドでやっていきたい。それが別次元の強力な作品づくりにつながります」
■日本企業が海外に出てビジネスのメカニズムを作ることが重要
塚越氏がこの先の海外展開のカギとするのが日本企業との協力関係だ。作品だけであれば、海外プラットフォームで世界配信するのも手法のひとつ。しかし「ビジネスとして日本の企業が海外に出ていって、世界のお客さまに楽しんでもらうメカニズムを作ることが重要」とし、さまざまな業種や企業とのこの先の協業を視野に入れる。
「我々は作品を通して、目に見えない何かを届けています。商品を作るメーカーは、昔はその機能を世界に売っていました。それが、使いやすさやクオリティが選ばれるポイントになり、いまは作る会社や商品の社会的な意義といった背景に移っています」
「あらゆるビジネスが、形のないものを届ける点で同じだと思うんです。我々はIPを持つコンテンツホルダーとして作品を作っていきますが、そこでいろいろな業種の会社と一緒にできることがあります。作品だけではなく、そこの付加価値や考え方を、業種を超えてともに世界へ発信していく時代ではないでしょうか」
塚越氏が心のうちに秘めるのは「ハリウッドのスタンダードにない、我々ならではの遺伝子を持つ、新しい価値のある作品を日本からアジア、そして世界へ発信していきたい。作品をベースに、商品やイベントにメッセージを込めて届けていきたいです」という強い思いだ。そして「その具体的なアイデアを異業種の方々と一緒に考えていきたい」と語る。
「あらゆる業界に『円谷はいま元気いっぱいに世界に飛び立とうとしています。一緒にやりませんか?』と呼びかけてみたいんです。話をしたいという人や会社が出てきてくれたらうれしいですね(笑)」
前職ではウォルト・ディズニー・ジャパンで辣腕を振るった塚越氏だが、“日本”への熱い思いとこだわりを持つ。その経営ポリシーを聞くと笑顔でこう答えてくれた。「出会った人との縁を大切にすることです。いくらビジョンや夢を語っても、ひとりではなにもできませんから。社内外を問わず、目指すものや考え方を共有して、志や意識をともにできるひととみんなで一緒にそこに向かっていきたいと思う。基本は“ひと”ですね」。
(経済界22年1月号より再編集)