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国に「見捨てられた」のか? 「不公平」な休業支援に怒りの声

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

「第一波」の休業補償問題はまだ終わっていない

 新型コロナウイルスの感染者数が再び増加し、「第二波」が拡大しているとの指摘が強まっている。一方で、「第一波」の緊急事態宣言の際の休業補償の問題は、いまだに解決していない。

 そんな中、7月10日に、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の申請受付が始まってすでに2週間以上が経過した。新型コロナウイルスの影響によって休業になったにもかかわらず、企業から休業手当が支払われない労働者に対して、国が直接、給与の8割を補償する制度だ。

 これまで国は、企業が労働者に休業補償を払えるよう、企業に助成金を出す雇用調助成金の特例措置を設け、支給条件の緩和もしてきた。それでも、助成金が支給されるまでに前もって休業補償を払うための現金がないことや、申請手続きの手間などを背景として、休業手当を支払わない企業が相次いでいた。そこで今回の支援金が設立されたという経緯がある。

 しかし、この支援金を制度上受け取ることのできない、対象外となってしまった労働者も多い。その代表格が大企業の労働者、特に非正規労働者である。

 大企業なら休業補償を支払うのではないか? と思う方は多いかもしれない。ところが、そのような認識は残念ながら誤りである。筆者が代表を務めるNPO法人POSSEや連携する労働組合でも、企業から休業補償が払われず、国の休業支援金からも対象外であることを知って困っているという相談が後を絶たない。

 そこで本記事では、休業補償を払わない大企業の実例と、支援金の課題について説明していきたい。

大企業で多発する「休業手当ゼロ」

 大企業は中小企業に比べて財政的余裕もあると考えられ、労働者に休業手当を払っていると思われがちだ。ところが、実際は休業手当を全く支払わない大企業も少なくない。その実例の一部を紹介していこう。

 まず、全国で「大阪王将」「太陽のトマト麺」などの飲食店を展開するイートアンド株式会社(「資本金20億1637万円、従業員1,351名(社員とパートアルバイト(8h換算))」(同社公式ホームページより))の例だ。同社が経営するカフェ「&Swell(アンドスウェル)」で勤務していたアルバイトの20代男性は、1日10時間シフトで週5日勤務していたが、4月から、店舗の入っている商業施設が休館となったことを理由に、店舗が完全休業に入ってしまった。

 しかし、休業補償は一切出なかった。この男性は個人加盟の労働組合・飲食店ユニオンに加盟し、休業補償を求めて団体交渉を行っているが、会社側は休業補償の支払いには全く応じていない。

(2020年8月9日追記:その後、団体交渉を経て株式会社イートアントは休業補償の支払いに応じる姿勢に転じている)

 あくまで商業施設の閉鎖が休業の理由であるため、会社の責任ではないというのが会社側の説明だ。また、売り上げが減っていないため、雇用調整助成金の対象ではないという。

 次に、「まいどおおきに食堂」「串家物語」などの飲食店チェーンを展開する株式会社フジオフードシステム(「資本金21億9400万円、正社員426名、アルバイト7012名」(同社公式ホームページより))の例を紹介したい。

 同社が経営する「タルト&カフェデリス」で働く4人の非正規雇用労働者たちが、飲食ユニオンに加入して同社に団体交渉を通じて休業補償を要求している。

 4人は、パート・アルバイトとして同店に勤務していたが、緊急事態宣言によって4月8日から休業が始まった。4月分については平均賃金の6割の休業手当が出ることになった。

 しかし同社は、5月分については休業手当を出していない。さらに、5月27日以降は営業が再開されたものの、シフトの人員がギリギリまで減らされ、組合員らはシフトには入れたものの、シフト日数や1日の労働時間が大幅に減らされている労働者もいるという。

 同社も店舗がテナントを構える施設の営業停止が休業の理由であるとして、ユニオンに対して、「休業手当(労働基準法26条)の支払い義務が発生するものではありません」「平均賃金の10割はもとよりその6割についても、お支払いには応じかねます」と主張している。

 飲食業界だけではない。ビル管理・清掃業・警備業など委託業務を手広く扱う新生ビルテクノ株式会社(「資本金2億1600万円、従業員数3259名」(同社公式ホームページより))の例もある。

 同社はANAから業務委託を受け、羽田空港のラウンジ業務にてアルバイトを300名ほど雇用していた。学生のAさんは、授業料を稼ぐため、国際線ラウンジが3月からオープンするのに伴い、アルバイトとして働き始めていた。面接の際にはすでにコロナの問題が出てきていたが、そのまま採用された。

 3月後半から出勤をはじめ、3月に1日6時間で3日間働いたところで、4月3日からシフトが削られ、4月11日に国際線が休止したことに伴い、このラウンジは「当面の間」閉鎖すると通知され、完全休業に入ってしまった。

 Aさんは首都圏学生ユニオンに加入し同社と交渉中だが、同社は休業手当をアルバイトらに未だに一切支払っていない。同社もまた、ラウンジ閉鎖はANAグループの決定によるもので、同社の責任ではないとして、休業手当の支払い義務はないと主張。さらに、雇用調整助成金を使っても会社の持ち出しがあるため、雇用調整助成金を使って休業補償をすることもないと説明している。

 これらの企業では、「大企業」であるために、労働者は国からの「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の支給を受けることもできないのである。

中小企業、大企業の定義とは?

 ここで、中小企業と大企業の定義を確認しておこう。ここの制度において、支給対象となる中小企業の定義は「産業分類」ごとに、「資本金の額・出資の総額」「常時雇用する労働者の数」によって定められている。具体的には以下の通りだ。

小売業 (飲食店を含む) /5000万円以下/50人以下

サービス業/5000万円以下/100人以下

卸売業/1億円以下/100人以下

その他の業種/3億円以下/300人以下

 この「資本金の額・出資の総額」と、「常時雇用する労働者の数」のいずれかが条件を満たしていれば、「中小企業」となる。逆に、両方を満たしている場合は大企業となるわけだ。

 企業はホームページなどで上記の情報を公開しているので、自分の勤務している会社が休業支援金の対象となる中小企業なのか、対象とならない大企業なのかを調べることができる。国はこの基準のみを根拠として、休業支援金の支払いの有無を決めているのである。

国に「見捨てられた」大企業の労働者たち

 前述の大企業の非正規労働者は、企業から休業手当もなく、休業支援金の対象にならない。さらに、緊急事態宣言や施設閉鎖を理由とした休業の場合、労働基準監督署も指導するハードルが高くなってしまう。休業補償の支払いを拒む大企業に対して、現時点で国の制度では、なす術がないのである。

 また、休業支援金の日額の8割より少ない、労働基準法で定められた最低限度である平均賃金の6割しか払っていない大企業も非常に多いのが実態だ。大企業の労働者は、国に「見捨てられた」状態であると言っても過言ではないだろう。

 確かに、大企業が実際に経営難に陥っているケースも必ずしも否定できない。特に飲食業界や観光業界においては、コロナ危機のダメージを大規模に受けているという実態もある。国の制度として、大企業の労働者に対しても、大企業の雇用調整助成金の要件緩和など、何らかの休業補償が払われるための支援策が必要なのではないだろうか。

 とはいえ、休業補償を一切拒否していた大企業が、労働組合との交渉で休業補償を認めたケースもある。フィットネスクラブ最大手のコナミスポーツでは、従業員数名が総合サポートユニオンに加盟して休業補償を要求した直後、全アルバイト従業員に平均賃金の10割の賃金補償をすることを発表している。

参考:コナミスポーツが休業補償10割へ 背景にアルバイトたちの「必死」の訴え

 政府の政策が整わない中では、手当が支払われない労働者は、企業に対して声を上げていく以外に手はないのが現実だ。休業補償も休業支援金も支払われない方は、ぜひ専門家に相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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