コナミスポーツが休業補償10割へ 背景にアルバイトたちの「必死」の訴え
本日夕方、フィットネスクラブ・スポーツジム業界最大手・コナミスポーツ株式会社がアルバイトに休業補償を10割支払うと、同社のホームページ上で発表した。
5月11日に、同社のアルバイトのインストラクター数名が、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンに加盟し、休業補償の支払いを求めて団体交渉を申し入れてから、たった数日の間で会社が方針を「大転換」したのである。
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同社は5月11日の時点で、アルバイト従業員に対して「要請により社会の情勢に従って休館したため、現状では休業補償は支払うことができない」という趣旨の説明をしていた。
こうした方針転換の背景には、同社のアルバイト従業員の「必死」の訴えや行動があった。
コナミスポーツでの休業補償問題の発端
同社は、4月8日以降、全国各地のスポーツ施設を休館していき、その間、アルバイトのインストラクターたちを休業させている。その際、同社は、休業補償を一切支払わないという方針を従業員に示したため、従業員から不安の声が噴出していた。
実際に、コナミスポーツクラブでは、3月2日から、新型コロナウイルスの感染対策として、ゴルフやテニスなどのレッスンが休止となった。レッスンを中心的に担当しているインストラクターの一部は、この時点から、会社によって休業を指示されている。
その後、政府の緊急事態宣言の発表を受けて、4月8日から首都圏の施設を中心に休館が始まり、アルバイトのインストラクターは完全に休業となってしまった。
休業が始まって以降も、アルバイト従業員の休業補償については説明がなく、上司であるマネージャーに尋ねても「緊急事態宣言の要請による施設の使用停止だから休業手当の義務はない」という趣旨のことしか聞かされなかったという。
インストラクターたちは「無給」での休業で貧困状態に陥っていた。例えば、Aさんはシングルマザーとして子供を3人育てている。今回、有給休暇もやむなく申請したが2週間で使い切り、万が一に備えてあった1ヶ月ほどの生活費もほぼ使い果たした。子供の学費のための貯金を切り崩している状態だった。
こうした情況の中で、アルバイトのインストラクターたちが、総合サポートユニオンへ続々と加入し、5月11日に同社へ団体交渉を申し入れることとなった。
「話し合い」さえも応じない
申し入れた要求内容は、全従業員に対して休業補償を全額支払うこと、5年以上働いた組合員を無期雇用へ転換することなどであった。
それに対して、同社は書面で「候補日程のご提示につきましては、緊急事態宣言が解除または緩和され対応が可能となった時点で改めてご連絡させて頂きます」とだけ答えて、オンライン通話での団体交渉にさえ応じなかったという(このような対応は労組法違反の可能性がある)。
東京都の緊急事態宣言が解除されるのが5月末だとしても、あと2週間以上、団体交渉の日程すら決定されないことになる。団体交渉が行われるのは、さらに1〜2週間先になるかもしれない。
これからさらに1ヶ月も、休業補償を放置されたままで生活できるわけがない。国の休業補償政策は、企業が休業手当を支払った場合に、企業に助成金を給付するというものだ。企業側が支払わなければ、労働者は「国の政策」の恩恵を受けることもできない。
(なお、後述するように、政府は企業が休業手当を支払わなくとも、労働者自身が休業手当を国に請求できる新しい給付制度を検討中だが、大企業は除外されているため、この制度が実現してもコナミスポーツでは使えない)。
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早急にアルバイト従業員に対して休業補償を全額支払うことを要請するために、総合サポートユニオンに加盟したインストラクターたちは、本日5月15日に、同社の本社へ直接出向くことにしたという。
本社前での抗議行動と記者会見の実施
本日15日の13時頃、品川区のコナミスポーツ本社前に、総合サポートユニオンに加盟したアルバイトのインストラクターのうち4名と、その支援に駆けつけた約20名の組合員が集まり、抗議行動を行った。
インストラクターたちは、緊張で手を震わせながら、初めて持つ拡声器で「従業員の命や健康を守れない人たちが、お客様の健康を守れるのか」「私の命だけでなく、家族の命がかかっている」など、会社に対して切実な思いを投げかけていた。
同時に、組合員は会社に申し入れを行ったものの、休業手当については「法的な義務はありません」「アルバイトは時給制ですよね」と人事担当者が返答しただけだったという。
突然の「方針転換」
その後、15時から総合サポートユニオンは、厚生労働省記者クラブにて記者会見を開いた。そこには、テレビ・新聞など多くの記者が話を聞きに集結していた。
記者会見の結果、コナミスポーツに対して、多くの取材の電話が入ったようである。
そうしたさなかの17時頃、コナミスポーツの公式ホームページに、3月以降の休業期間中について「休業手当(10割)」を支払うという趣旨の文章がアップロードされた。労組の申し入れからわずか4時間後のことだった。
残された課題
この「休業手当(10割)」への大転換は、労働者が団体交渉の申し入れや記者会見を行った影響によるものだと思われる。一方で、労使はさらなる問題も抱えているようだ。
まず一つは、有給休暇の問題だ。アルバイトのインストラクターたちは、休業期間中、有給休暇の取得を強く推奨された。このため、少なくないアルバイトたちが、2年間貯めてきた10数日分の有給休暇を3〜4月で使い切ってしまい、今後病気になったときに休みが取れないなどの不安を抱えている。
有給休暇は、法的には、労働者が自分の希望するタイミングで取得できることが原則だ。そのため、総合サポートユニオンでは、職場の休業による有給休暇の取得については、全て残日数を元に戻し、休業期間の全日分を休業補償することを求めている。
次に、今回会社が発表した「休業手当(10割)」が「全額補償」の内実も不透明な点が多い。
それというのも、休業手当の計算方法は複雑で、どのように算出するかによって、金額に大きな違いが出るからだ。休業手当が「10割」とされている場合でも、計算方法よっては、実際の給与の6割ほどになってしまうこともある(詳細は下記の記事に詳しい)。
参考:休業手当は給与の「半額以下」 額を引き上げるための「実践的」な知識とは?
このような「休業補償の水準」をめぐっては多くの企業で労使紛争に発展している。総合サポートユニオンに加盟しているインストラクターたちも全額の補償をもとめて今後も交渉を続けていくという(なお、企業側は全額の休業補償を支払った場合、一定の条件を満たせばその「全額」に対して雇用調整助成金が適用される)。
今後も求められる労組の交渉
現在、政府・与党が、「休業者給付金」を検討していることが報道されている。企業が雇用助成金を利用せず、休業補償を受けられない労働者に対して直接現金を給付するという制度だ。
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しかし、報道によれば、対象となるのは、中小企業の労働者であり、大企業の労働者は対象外だ。コナミスポーツのように「休業要請」を理由として、休業補償の義務を拒否する大企業に対して、国ができることは何もないことになってしまう。
いわば、大企業と国から見放された状態だ。特に大企業の非正規雇用労働者はこの制度の狭間に陥りやすく、制度や法によって「救済」されないことが大いに予想される。
そのため、大企業の労働者が国の政策を受けるためには、法的には、労働組合による団体交渉の他に手段がない。今後もこうした労働組合による休業補償の交渉は重要な局面が続くことになるだろう。
フィットネス・スポーツジム労働相談ホットライン
日時:2020年5月16日(土)13~17時、5月17日(日)13~17時
主催:総合サポートユニオン
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