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【平野レミ】料理は「誰かのため」に作ると、最高においしくなるの

ボブ内藤編集者、ライター、インタビュアー
撮影/八木虎造

料理愛好家の平野レミさんが、初のひとり自炊本『平野レミの自炊ごはん』(ダイヤモンド社)を上梓した。

2019年に愛する夫、和田誠さんを亡くされ、「未亡人」になったレミさんだが、「味望人=味を望むすべての人」を名乗って精力的に情報発信を続けている。

「いつも元気ね~」と言われる、そのバイタリティの源泉は一体、何なのだろうか?

今回はそんなレミさんに、料理との出会いについて、じっくり話を聞いてみた。

料理は足し算じゃなくてかけ算。組み合わせ次第でおいしさは無限に広がるのよ

「料理が大好き」という人は数多くいるが、自分が人生で最初に作った料理を憶えているという人は、そう多くないだろう。

だが、何を隠そうレミさんは、その貴重な人物のひとりなのだ。

レミさんにとって、それは強烈な体験だったという。

そう、あれは小学5~6年生のころ。夏になると家庭菜園のお庭にトマトがなってね、いつもは手づかみでもいで、スカートでゴシゴシしてガブリと噛みついたりするのが好きだったんだけど、その日はふと思いついて料理してみようと思ったのね。

冷蔵庫を覗いてみると、うどんとピーマンとチーズがあったので、つぶしたトマトと一緒にガス台にかけて、即興でグラタンのように料理してみたの。
食べてみたら、おいしくて、おいしくて、ビックリ。

トマトも、ピーマンも、チーズも、うどんも、どれもおいしい食材なんだけど、料理で合体させるとさらにおいしくなるってことに驚いたのね。算数に例えると、料理は足し算じゃなくて、かけ算なんだって。

その計算式に気づいたら、学校の勉強より、家で料理をすることが楽しくなって、のめり込んでいったの。

第9回料理レシピ本大賞エッセイ賞を受賞したレミさんのエッセイ『おいしい子育て』(ポプラ社)には、こんな一節がある。

「お料理は『誰かのため』という気持ちが大切です」

「自分のため」に作る料理と、「誰かのため」に作る料理には、どんな違いがあるのだろう?

家に遊びに来たお客さんのため、生活をともにする夫のため、子どものためというふうに、相手がいれば食べたときの反応が返ってくるでしょ?

「おいしい」って言われればうれしくなって、「次はもっとおいしいものを作ろう」という気になるし、「甘すぎる」とか「しょっぱい」って言われれば、それを参考にして「次はきっとおいしいって言われるものを作ろう」って、やる気が湧いてくるでしょ?

料理を食べてくれる人はそういう意味で、料理の腕をあげてくれる大事なパートナーなのよね。

それで言うと和田(誠)さんは、私が人生で出会ったなかで最高のパートナーだった。
私が作った料理を食べたときにはいつも、「おいしい」って言ってくれたし、ピンとこなかったとしても、「ちょっとコクが足りないかな」とか、「ゴマ油でもたらしてみようか」とか、言い方が上手なのね。和田さんのおかげで、私の料理の腕は、どれだけあがったことか。

だから、奥さんを持つ世の男性たちに私は言いたい。
まずは、奥さんが料理してくれたことに感謝の気持ちを持つこと。
そして、作ってくれた料理は必ず、「おいしい、おいしい」って言って食べること。
もし、それができればあなたの奥さんの料理の腕はメキメキとあがって、毎日毎日、おいしい料理を食べられるようになるわよ!

撮影/八木虎造
撮影/八木虎造

和田さんに初めて作った料理は、ガーリックステーキでした

最愛のパートナー、和田誠さんとの出会いについて、「ふたりは出会って10日で結婚した」という伝説があるが、レミさんは「伝説も何も、本当にあったことよ」と笑って答えてくれた。

とにかく、和田さんには初めて会ったときから強烈な印象を受けたという。

イメージを言葉にすると、足の裏の土踏まずのところがない、へんぺい足で歩いてる人なんじゃないかと思うくらい、地に足のついた人。ちょっとやそっとの物事に動じない人だということが直感的にわかったの。

そのころの私は、ボーイフレンドができても、なかなか長続きしなくて、「私は結婚に向いてないのかも」って、なかばあきらめていただけに、和田さんが出会って10日で「結婚しようか」と言ってくれたときは、「しましょう、しましょう」って即答してた。

ある意味でそれは、「運命的な出会い」だったのかもしれない。

私は舌のことをベロっていうんだけど、和田さんとはベロの感覚が不思議なほど同じだったの。
和田さんが「おいしい」と思うものは、私も「おいしい」と思うし、私が「おいしい」と思えば、和田さんも「おいしい」と感じてくれる。

そういうベロの感覚というのは、小さいころから毎日食べてきた料理によって、少しずつ固まってくるものだから、夫婦によっては、最初はベロの感覚がまったく違っても、毎日同じものを食べることによって感覚が似かよっていくということがあると思う。

でも、運命なのか、それとも単なる偶然なのか、和田さんと私のベロは、最初から意気投合していたの。

自分が生まれて初めて作った料理を憶えているレミさんだが、最愛のパートナーである和田誠さんのために初めて作った料理のことも、鮮明に憶えているという。

当時、和田さんが住んでいた青山のアパートで、今はもうないんだけど、近くのスーパーで買ってきた牛肉で、ステーキを焼いたの。母に教わった、ニンニクをいっぱい入れる焼き方で、これがまた、上手に焼けちゃってね。

そうしたら、和田さんがレコードで「ウェディング・マーチ」をかけてくれて。
♪パカパパーン、パカパパーンっていうメロディを聴きながら、「あ、これ、私たちの結婚式なんだ」って感動したのをよく憶えてる。

とにかく、素敵な食事だったわね。
料理を食べ終わったとき、和田さんがこう言ったの。
「レミが作った料理、あと何千回食べられるのかな」って。

そのとき私は、何万回でも何十万回でも作ってあげるわよと思ったけど、よくよく計算してみると、意外と少ないのよね。

1年365日、毎日2食ずつ作ったとしても、1万食を超えるには13年以上かかるでしょ?

そんなふうに過去の時間というのは計算できるけど、未来の時間って計算できないのよね。当時の私は、未来は無限にあると思ってたけど、過ぎてしまうと未来って意外に短かったんだなぁと感じています。

『平野レミの自炊ごはん』(ダイヤモンド社)でも「おいしい料理を作る原動力は『家族への愛』」だと語るレミさん。

今も楽しく料理し続けていられるのは、その愛が今も消えずにレミさんを励まし続けているからなのだろう。

撮影/八木虎造
撮影/八木虎造

※この記事は、かっこよく年を重ねたい人におくるWEBマガジン「キネヅカ」に公開された記事を加筆・修正したものです。是非、そちらの全長版もお楽しみください。

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編集者、ライター、インタビュアー

編集プロダクション方南ぐみを経て2009年にフリーに。1990年より30年間で1500を超える企業を取材。財界人、有名人、芸能人にも連載を通じて2000人強にインタビューしている。著書に『ビジネス界に脈々と伝わる先人の知恵 業界のセオリー』(徳間書店)、『人を集める技術!』(毎日新聞社)、『はじめての輪行』(洋泉社)などがある。また、出版社の依頼で賞金500万円の小説新人賞の選考事務局を起ちあげ、10年間運営した経験のもと、齋藤とみたか名義で『懸賞小説神髄』(洋泉社)を執筆。それをきっかけに、池袋コミュニティカレッジ「小説のコツ」の講師を2013~2023年の10年間つとめた。

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