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【田原総一朗・90歳】老害と言われようと構わない。僕のジャーナリストとしての使命は死ぬまで続く

ボブ内藤編集者、ライター、インタビュアー
撮影/八木虎造

2024年の4月15日の誕生日で90歳の卒寿をむかえた田原総一朗氏が著書『全身ジャーナリスト』(集英社新書)を上梓した。自ら「遺言」のつもりで自身のジャーナリスト人生を語り下ろした迫真の書だ。

そんな彼に、「戦争を知る最後の世代」としての矜持と、ジャーナリストの使命について、語ってもらった。

戦争を境に、大人たちの言うことが180度変わった

1934年、昭和9年に生まれた田原は、「戦争を知っている最後の世代」である。

小学1年生の秋に始まった戦争は、小学5年生の夏休みのさなかに終戦を迎えた。

日本中が戦争というものにどっぷり首を突っ込んでいく世のなかで幼少期を過ごした「少年期戦中派」だ。

「大人たちが説明する戦争の大義はこうです。

『この戦争は、日本を植民地として征服しようとしているアメリカ・ヨーロッパに対する正義の戦いである。お前たち子どもらも、早く大人になって、天皇陛下の名のもと、戦地に行って名誉の死を遂げなさい』。

その言葉を疑う気持ちは、微塵もありませんでした。海軍兵学校に進んだ従兄弟に憧れて、自分も同じ道に進むんだ、と強く願っていた」

そんなゴリゴリの軍国少年だった田原は、戦争が終わったことを突然、報される。近所の5~6人の大人が天皇による玉音放送を聴くため、ラジオを置いていた田原の生家を訪ねてきたという。

「堪へ難キヲ堪へ、忍ビ難キヲ忍ビ」とか、「敵ハ残虐ナル爆弾ヲ使用シ」といった言葉は小学生の田原でも少しは理解できたが、まわりの大人たちの話を聞いても、「戦争はまだ続く」という意見と、「もう戦争は終わった」という意見に二分されていて、本当のところは理解できなかった。

「それがお昼前の出来事で、午後になると市内を巡回していた役所の職員がやってきて、メガホン片手にこう言ったんです。

『戦争は終わりました』と。

『負けた』ではなく、『終わった』でした。

これで海兵隊になれなくなったという絶望的な気持ちになって、誰もいない部屋でひたすら泣きました。泣き寝入りというやつだね。目が覚めたら、夜になっていた。

そしたら、窓の外を覗いてびっくりしました。明るいんです。前日まで、空襲対応の灯火統制で真っ暗だった街のあちこちの電灯が煌々と光をはなっていた。その光が『もう死ななくていいんだ』ということを気づかせてくれました」。

やがて二学期になって学校が始まった。田原はそのとき、教師たちの言う言葉が戦争を境に180度変わる現実に直面する。

あれは「正義の戦争」ではなく、「絶対にやってはいけない、侵略戦争だった」というのである。教科書のなかの国家主義や戦意を鼓舞する内容が書いてある一文に墨を塗らされたことも田原にとっては屈辱的な出来事だった。

「これで僕は、教師たち、大人たちの言うことが信じられなくなった。ラジオも新聞も信用できない。国の言うことも信用できないと思うようになった」。

二度と戦争を起こさせないため、最期まで日本を見つめ続ける

その後、高校に入学して1年目の1950年6月に勃発した朝鮮戦争のときにも、同じことが起った。教師と議論する機会があって、田原が「戦争はよくない。反対だ」と意見すると、「馬鹿野郎。お前はいつから共産主義者になったんだ」と怒鳴られたのだ。

それまで一貫して戦争反対を主張していた政党は、共産党しかなかった。

田原は心底がっかりした。「今度戦争が起こりそうなとき、体を張って阻止しなさい」と言っていた大人が、また意見を変えたのだ。田原は大人たちに二度、裏切られたことになる。

大人たちは信じられない。メディアも信用できない。そんな思いを強くした田原は、後にジャーナリストの道に進むにあたって、守るべき3つの原則を掲げている。

ひとつは、日本に二度と戦争を起こさせないこと。

ふたつは、言論の自由を守り抜くこと。

みっつは、野党をもっと強くして、日本の民主主義を強靭にすること、である。

「最近、田原はいつまでテレビで偉そうにしているんだとか、老害だ、後進に道をゆずるべきだという意見をよく耳にするけど、僕にとってジャーナリズムは終わりのない仕事なんです。

時代の変化を敏感に感じとって、その変化がどこから来るのか、どの方向に向かっていくのかを見極めていかなくてはならない。

戦争を知る最後の世代として、時代の変化を真摯に、執拗に追い続けることが僕の使命なんです」。

「少年期戦中派」の矜持を持つ田原の戦いは、死の直前まで続くのだ。

※この記事は、かっこよく年を重ねたい人におくるWEBマガジン「キネヅカ」に公開された記事を加筆・修正したものです。是非、そちらの全長版もお楽しみください。

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編集者、ライター、インタビュアー

編集プロダクション方南ぐみを経て2009年にフリーに。1990年より30年間で1500を超える企業を取材。財界人、有名人、芸能人にも連載を通じて2000人強にインタビューしている。著書に『ビジネス界に脈々と伝わる先人の知恵 業界のセオリー』(徳間書店)、『人を集める技術!』(毎日新聞社)、『はじめての輪行』(洋泉社)などがある。また、出版社の依頼で賞金500万円の小説新人賞の選考事務局を起ちあげ、10年間運営した経験のもと、齋藤とみたか名義で『懸賞小説神髄』(洋泉社)を執筆。それをきっかけに、池袋コミュニティカレッジ「小説のコツ」の講師を2013~2023年の10年間つとめた。

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