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新型コロナ感染症:専門家に聞く「行動制限」中の「依存症」リスク

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)の流行が止まらない。自粛で自宅待機が増えているが、気になるのは人との接触が減ることによる心理的なストレス、そして様々な依存状態の悪化だ。専門家に注意点などを聞いた(この記事は2020/04/16時点の情報に基づいて書いています)。

あらゆる依存症のリスクが

 新型コロナ感染症のようなウイルス感染は、人の活動を極端に減らすことで感染拡大を防ぐことができる。大人も子どもも自粛し、自宅に閉じこもらざるを得なくなる人が増え、心理的な圧迫を感じることも多い。

 生活パターンが変わって社会的交友関係が減り、刺激の少ない単調な毎日が続く。外出できない不満が少しずつ蓄積ている人も少なくないのではないだろうか。

 世界中の人が、新型コロナ感染症の感染リスクにさらされ、孤立・隔離された生活を強いられ、自粛することで短調な毎日を送っている。この状況による健康への影響、特に依存状態に陥りやすくなり、依存症になるリスクが上がると警告するのが依存症が専門の医師、磯村毅氏だ。

 では、外出自粛でどんな依存症の危険性があるのでしょうか。

「依存症は、物質依存、プロセス依存(行動)、薬物依存の大きく3つに分類されていますが、どれも増えると思います。外出しても飲食店が休業していることも多く、自宅飲みが増えるのでアルコール依存になる危険性があります。小人閑居して不善をなすなどと言いますが、暇になれば何かおもしろいことがないかと考え、ベランダで大麻を栽培して薬物依存になってしまうかもしれません。今はネットで大麻の栽培キットが売っている時代です。パチンコ店にも行きにくくなっているので、ネットで賭け事をしてギャンブル依存になることも考えられます。また、今は学校が休みの場合も多いですが、子どもが時間をもてあましてスマホ依存やゲーム依存になるかもしれません。脅かすわけではありませんが、大人も子どもも、ありとあらゆる依存症に陥る危険性があると思います」(磯村氏)

 特に注意すべきはどんな点でしょうか。

「新しい依存として問題になりつつある、プロセス依存、行動依存に気をつけたほうがいいでしょう。 特にネットを介したオンラインサービスです。前述したゲームやギャンブルはもちろん、オークションを含むネット・ショッピングなどに注意したいです。また、定額の動画視聴サイトがたくさんありますから、動画や映画のビンジ・ウォッチング(Binge Watching、まとめ見)による依存状態に陥る人は増えるでしょう。また、新型コロナ感染症では雇用不安などの経済的な問題が生じ始めていますが、小遣い稼ぎのつもりでFX投機などのオンライン取引にはまってしまう危険性もあります」(磯村氏)

 健康への悪影響では、外出制限で運動不足も懸念されます。運動やスポーツは精神的にいいのでは。

「なんでもそうですが、やり過ぎると依存状態に陥りやすくなります。運動にしても、個人でデジタルツールを用いながらランニングするときに、距離やラップなどがリアルタイムにわかることで色々と無理をしてしまいがちです。スポーツでは目標依存症とでもいう状態にもなります。例えば、100日を目標に毎日走ってきた人は、97日目に足をくじいたとしてもあと2日と、頑張ってしまいます。こうした結果、ランニング依存症などの増加も懸念されます」(磯村氏)

スマホ開始はなるべく遅いほうがいい

 今回の新型コロナ感染症対策では、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離戦略)により、閉ざされた人間関係になっていろいろな問題行動も起きるようになっています。

「依存症では、人への依存というものがあります。 DV、児童虐待、カルト宗教などですが、すでに海外ではニュースになっているように、人への依存は確実に悪化すると思います」(磯村氏)

 では、この状況で依存状態に陥ったり依存症になるのを防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。

「そうですね、常識的な話になってしまいますが、単調になりがちな日常生活でもしっかり計画を立て規則正しい生活をおくり、家族でコミュニケーションをとるようにすることが重要です。運動も過度にならないように計画して定期的にやったり、瞑想やマインドフルネスなどの心を落ち着かせる活動をしたらいいでしょう。また、時間があるので読書や音楽を楽しんだり、絵を描いたり物や料理を作るなど、様々な生産的な活動をすることもいいかもしれません」(磯村氏)

 この状況に限らず、依存症に関して特に強調したいことはありますか。

「大切なことは以下の3つです。まず、最初のほうでも指摘しましたが、依存症には非常に幅の広いバリエーションがあるので用心が大切だということです。また、ゲームやスマホには脳を変化させる作用があるので、子どもが使い始める時期はなるべく遅らせることが大切ということ。そして、依存症に対する医学は極めて遅れているので、まずは予防が大切ということです」(磯村氏)

 多くの依存症は、脳の報酬系という回路に変化が起き、刺激を感じにくい脳になってしまうことで起きる。自治体のゲーム規制条例について話題になっているが、依存症は子どもなど早い時期になってしまうと回復するのが難しくなる。

 学校が休みになって子どもが家にいるため、子どもにねだられて仕方なくゲームやスマホを買い与える親も増えている。同じ悩みを共有する親同士、教師、カウンセラーなどに相談し、それが本当に子どもにとって必要かどうか熟考してから与えたほうがいいだろう。

磯村毅(いそむら・たけし)

医師(依存症心理学・動機づけ面接)、名古屋大学医学部、同大大学院卒。トヨタ記念病院禁煙外来、トヨタ自動車産業医。藤田保健衛生大学客員教授。寛容と連携の日本動機づけ面接学会代表理事。ゆるーい思春期ネットワーク代表。リセット禁煙研究会・予防医療研究所代表。刈谷病院でグループ動機づけ、名古屋保護観察所での引受人の会のファシリテーター。矯正施設、児童養護施設の職員を対象とした研修会・犯罪心理学会での講演などで多方面に活躍している。著書に『リセット禁煙のすすめ』(東京六法出版)、『二重洗脳-依存症の謎を解く』(東洋経済新報社)、『図解でわかる依存症のカラクリ』(秀和システム)などがある。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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