Yahoo!ニュース

ウイルスへの危機感が薄いのは若者よりメディアの方だ

境治コピーライター/メディアコンサルタント
あるワイドショーの画面を著作権・肖像権に配慮して筆者が加工した画像

小池都知事の要請にいつも通りのスタイルで放送するテレビ番組

皆さんご存知の通り、水曜日夜に小池都知事が会見で都民に行動の自粛を要請した。仕事はできれば自宅でしてほしい、つまりテレワークで働いてもらえないかというもの。そして週末は不要不急の外出を自粛することもお願いしていた。

要請なので罰則もないが、私も仕事場に行くのをやめて自宅で仕事をした。欧米の悲惨な様子を見ると、あそこまで感染が広がらないようにすべきと考えたからだ。

自宅で仕事すると息抜きについテレビをつける。驚いたことにワイドショーやニュース番組はいつも通りのスタイルで放送している。テレビ番組のスタジオは小池都知事が言う「3つの密」の典型的空間に見える。「密閉した空間」「人びとの密集」「密接な会話」いずれも当てはまる。昼のワイドショーは1時間から2時間くらいほぼ同じメンバーが密閉されたスタジオで密集して過ごし、ずーっと飛沫を飛ばしながら会話するのだ。

そんな典型的空間でキャスターやコメンテーターが「新型コロナウイルスの恐ろしさ」「感染への対策」などを話す。こんなに矛盾に満ちた話もない。「こんな状態は避けるべきだ」と言ってるその空間が、「こんな状態」になっているのだ。

夜のニュースも同様だ。ワイドショーより幾分真面目なトーンでやはり同じように「3つの密」に満ちた空間でコロナウイルスについて真剣な面持ちで語っている。真面目なぶん、かなり滑稽な光景だ。頭のいいはずの人たちが大勢関わっているのに、自分たちの滑稽さに気づかないのだろうか。ちなみに欧米ではキャスターが自宅から喋る事例も出てきているそうだ。

感染症の専門家の肩書を持つ人びとも、「3つの密」を語りながら飛沫を飛ばして何十分も喋っている。呆れるのは、当の小池都知事自身もいくつかのニュースやワイドショーに出て「密な空間」で喋っていたことだ。

さらに驚くことに、いくつかのニュースやワイドショーは若者の動向をレポートしていた。昼間の桜咲く公園に、夜の繁華街に、若者が大勢繰り出している様子を映し出す。「危機感が足りないのでは」と批判的に扱っているのだ。言葉は悪いが、厚顔無恥と言っていいだろう。「3つの密」としか言えない空間で「どうしたら若者たちに危機感を持ってもらえるのでしょう」などと言っている。そんなこともわからないのだろうか。

テレビ番組は本気で危機感を番組で示すべきだ

若者に危機感を持ってもらいたいなら、大人が危機感を本気で感じて態度や行動で示すべきなのだ。それをやってないから若者がピンときてくれない。「3つの密」な空間から何を言ったって聞いてもらえるわけがない。ただでさえ若者はテレビをまともに見ていないのだから、真剣に訴えないと見てくれない。

ワイドショーやニュース番組が”ただならぬ空気”を発して番組を放送すればいい。「密」ではない空間づくりをしてから放送すべきだ。

人数を減らせばいいだろう。その上で、出演者同士の距離を十分にあけるのだ。「あれ?この番組、いつもよりずっとスカスカだぞ」そんな見た目を作った上で、なぜそうしたのかをきちんと説明する。「小池都知事の要請を受けて、この番組のスタッフの半分は自宅で作業しています。スタジオにいる私たちもスタッフも大きく距離を開けています。カメラの数も少ないのでいつもより単調な絵になるかもしれませんがご理解ください」スタジオ全体を映してスカスカぶりを伝えてもいいだろう。

そんな番組なら”ただならぬ空気”を表現できるはずだ。若者にも伝わる。「そうか、いつものテレビがここまでやるくらい非常事態なんだな」そう感じるに違いない。

若者の危機感の薄さをつべこべ言いたいなら、それくらいのことをやってから言えばどうだろう。今のテレビ局が若者を批判しても何も伝わらない。

この土日の番組に注目したい

木金の番組は、まあいいだろう。そんなにすぐ対応できないと解釈しよう。だが「週末は外出自粛」と要請が出ている中で放送する土日も同じように、「危機感が見えないスタジオ」から放送しているようではもうダメだ。その上そんなスタジオからまた「若者は・・・」とやるようではおしまいだ。鈍感すぎる。あるいは、一般会社員は自宅で仕事すべきだが自分たちは特別な仕事をしているからいつも通り放送するのだ、とでも思っているのだろう。

今のテレビはそういうところがダメなのに・・・

少しでもこのことに気づく番組が出てくることに期待したい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

境治の最近の記事