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【夏が苦手なランナーは必見!】医師が伝える、夏のランニングでは水分・塩分をどのくらい摂ればいいの?

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ
写真:PhotoACより

暑さの中での運動は、多量に発汗するために水分のみならず塩分の摂取も励行されています。JSPOの「スポーツ活動中の熱中症ガイドブック」では、暑熱下の運動時の水分摂取は「体重が2%減る脱水は避けるよう適切な水分摂取」、飲料の塩分は「0.1~0.2%の塩分を含んだ飲料の補給が効果的」としています。そして熱中症指数での評価で厳重警戒下の運動は、10~20分おきに休憩や水分摂取・塩分補給を推奨しています。スポーツドリンクはだいたいこの塩分濃度なので、結構暑くてもスポーツドリンクを汗の量だけ10~20分おきに摂取すれば大丈夫に思えます。ですが、本当に大丈夫なのでしょうか。そしてガイドブックのでは、水分・塩分の摂取量が分かりにくい表現になっているのはなぜでしょうか。

1.汗の量は個人差や環境による差が大きい

暑さの中で走ったときに汗をかく量は、気温や速さで大きく変わります。そして個人個人の汗のかきやすさでも、大きく変わるのです。

(左)気温18度、28度の気候で異なる速さで走行した時の予測発汗量 (右)気温23.6度の環境下で約60分走行したときの体の水分バランスの変化
(左)気温18度、28度の気候で異なる速さで走行した時の予測発汗量 (右)気温23.6度の環境下で約60分走行したときの体の水分バランスの変化

左の表は2006年のアメリカの文献のもので、様々な体重の被検者モデルが、異なる気温や速度で走行したときの発汗量を予測したものです。例えば気温28度の環境下で体重50kgのランナーが時速8.5kmで走行すると、予測発汗量は1時間あたり0.52Lです。ですがペースアップして15kmで走行すると1時間あたり0.96Lと2倍弱に増加します。また右のグラフは2013年アメリカの文献のからですが、比較的近似した環境下で約1時間走行した結果、体の水分バランスがどの程度低下したかをみたものです。水分摂取や尿量も関与していますが、かなり個人差があることもわかります。また、遺伝的に汗をかきやすい方もいるのです。

「全員が共通して、暑いときはこのくらい水分を飲めばOK」という目安はないのです。

2.汗中の塩分も個人差が大きい

そして塩分の喪失量も、個人差が大きいことが知られています。暑くてもスポーツドリンクだけでしっかり走れるランナーがいれば、経口補水液を摂取しても塩分不足で失速してしまうランナーもいます。

男性141人、女性16人の計157人が気温24.4±3.6度、湿度27.7±4.8%のフルマラソンを走った際の汗中の電解質濃度:Lara B et al.J Int Soc Sports Nutr.2
男性141人、女性16人の計157人が気温24.4±3.6度、湿度27.7±4.8%のフルマラソンを走った際の汗中の電解質濃度:Lara B et al.J Int Soc Sports Nutr.2

上のグラフは2016年のスペインからの文献で、気温24.4度という結構暑い環境下で行われたフルマラソンを走った際にかいた汗の電解質濃度を測定したものです。約3割のランナーが、経口補水液でも足りないNa濃度の汗をかいていることが分かります。とくに暑いときの汗は、塩分濃度が上がりやすいことが知られています。とくに日中の気温が30度オーバーとなるこの時期は、経口補水液を摂取していても塩分不足となってしまう可能性があるのです。

適切な水分量はない

マラソンとは明記していませんが、日本陸上競技連盟では28度以上の環境下では0.2%程度の塩分が含んだ飲料を、運動前に500ml、運動中は1時間あたり1000mlを2-5回に分けて摂取することを勧めています。夏のマラソンイベントの代表格である北海道マラソンでは、気温の上がる中終盤は5kmの間に2-3ケ所のエイドがあります。レース中は約10-20分おきに水分を摂取できますから、各エイドでしっかりと水分をとれば、この推奨量は摂取できそうです。

ですが多くの文献では一定の飲水量を推奨していません。個人差が大きいので、あらかじめ暑熱環境でどの程度体重が減るのかを学び、それにあわせて個別の水分の補給計画を立てること、または尿の色がうす黄色を保つように摂取する水分量を調節することをすすめています。後者は主観的な影響を受けやすいので、テクノロジーで解析する研究もなされています。近いうちにスマートウォッチでできるといいですね!

そして、適切は塩分濃度のドリンクもない!

もともとスポーツドリンクは、スポーツの際の塩分不足を補うために開発されたものではありません。1960年代のアメリカで、その当時あった糖分だけのジュースや炭酸飲料よりも適度に塩分を入れた方が水分の吸収が速くなることが分かり、開発・製品化されたドリンクでした。さらに経口補水液も、運動中の水分・塩分の摂取を目的として開発されたものではなく、主に下痢症の脱水のための点滴の代わりに開発されたものです。暑熱の際の運動の万能役ではありません。

要は経口補水液でさえ、スポーツドリンクより塩分が多く推奨はできるのですが、これですべて解決ではないのです。ちなみに海外の文献では、摂取するドリンクの塩分濃度は45mmol/L以上としています。経口補水液の中には、やや薄めのものもあるのでご注意ください。そして顔に塩が吹くようなランナーは、さらに追加して塩分を摂取した方がよいかもしれません。

夏のマラソンで、適切な飲水量や塩分量は、自身で見つけるしかない!

写真:PhotoACより
写真:PhotoACより

医師という立場上、適切な水分・塩分について助言を求められることがあります。ですがそれは、個人個人が試行錯誤しながら見つけていくしかないのです。そしていつも思うことは、自分が思っているよりも水分は足りてないし、自分が思っているよりも塩分は足りてないことが多い!ということです。

もちろん夏もしっかり走れているランナーはいいのですが、夏は苦手!汗の量が多い!顔が塩だらけになる!というランナーは、水分や塩分摂取の戦略を練り直してみてはいかがでしょうか。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は67回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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