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風の台風15号に続き、大雨の台風19号に見舞われた日本列島

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

大型で強い勢力の台風19号

 千葉県を中心に強風の被害をもたらした台風15号からわずか1か月後に、再び関東地方を大型で強い台風19号が襲いました。この台風は、10月6日(日)3時にマリアナ諸島の東海上で発生し、急速に発達して、翌7日(月)には中心気圧915hPa、推定最大風速55m/sの猛烈な勢力になりました。そして、12日(土)19時前に、強い勢力で静岡県の伊豆半島に上陸し、関東地方を通過して、13日未明に東北地方の東の海上に抜けました。東京都江戸川臨海と横浜で最大瞬間風速43.8m/sを観測し、石廊崎では波高13.2mの猛烈なしけになりました。また、静岡県、神奈川県、伊豆諸島では過去最高潮位となる高潮にもなりました。

台風15号の教訓で万全の体制を敷いたが・・・

 気象庁は10月9日(水)14時から臨時の記者会見を開き、大型で猛烈な勢力の台風19号について、その見通しを説明しました。上陸3日前に、早めの対策を呼びかける異例の会見でした。会見の内容はYouTubeで見ることができますが、非常に丁寧な説明がされています。

 政府や自治体も、台風15号での初動対応の遅れの反省もあり、週末の夜に上陸が予想される大型の台風に対して、万全の体制で備えました。鉄道各社は計画運休を行い、電力会社も発電機車などの準備を怠りなく行っていました。ですが、台風がもたらした雨は事前の想像を超えるものでした。

台風の前面にあった分厚い雲が大雨をもたらした

 多くの人は、台風15号での屋根被害や停電の印象が強烈だったことから、風対策に比べ大雨への警戒が不足していたかもしれません。台風19号は、台風の前面に分厚い雲が広がっていました。さらに大型の台風だったため、台風接近前から長い時間にわたって大雨になりました。中でも神奈川県箱根町では、降り始めからの総雨量が1000ミリを超えました。

 気象庁は、12日(土)15時30分に、静岡県、神奈川県、東京都、埼玉県、群馬県、山梨県、長野県の7都県に大雨特別警報を出し、19時50分には、茨城県、栃木県、新潟県、福島県、宮城県、13日(日)0時40分に岩手県にも追加発表しました。全部で13都県に大雨特別警報を発表し、事前の呼びかけも十分に行われました。

 また、気象庁の防災情報に関するホームページは、土砂災害、浸水害、洪水などの危険度について多くの有益な情報を伝えてくれました。そのおかげもあり、大きな被害を出したものの、1958年狩野川台風に比べ、被害を減じることはある程度できたと判断できます。

増水した河川で堤防が決壊し大規模な震災被害が発生

 広域に膨大な降雨量があったため、各地の河川が増水し、堤防が決壊したり損壊したりして、氾濫し、家屋が浸水しました。山間部や丘陵地では土砂災害も起き、河川を跨ぐ橋梁も流されました。多くの家屋が浸水被害を受け、住宅に取り残された人たちが、ヘリコプターやボートなどで救出される様子がテレビに映し出されました。これらの地域は、いずれも洪水ハザードマップで浸水危険度の高い場所でした。

 多くの雨が降った山地を流れる上流部の中小河川に加え、国が管理する大河川の吉田川、阿武隈川、都幾川、越辺川、久慈川、那珂川、千曲川を含む37河川が決壊しました。また、荒川、多摩川、信濃川などの大河川を含め182河川で越水しました。

 このように多くの河川が同時に決壊・越水などすることはかつて経験していないことです。特別警報がこのように頻繁に発表されることも含め、風水害の激甚化を実感します。

大都市の浸水被害の怖さ

 多摩川下流部の川崎市や世田谷区の浸水地では、マンションに取り残された都市住民も多く、停電した高層マンションでは、浸水とエレベータ停止の中、身動きが取れなくなっていました。入院患者を転院させた病院もあります。

 都会は、孤立住民が桁違いに多くなります。万一、荒川が決壊するような事態になれば、大変なことになります。国の被害想定によると、荒川右岸の低地が氾濫した場合には、浸水面積は110平方キロ、浸水区域内人口は120万人にもなり、決壊翌日の孤立者は86万人にもなると予想されています。

 これだけの人数を救出することは困難です。早期に避難すると共に、万一ライフラインが途絶して孤立しても大丈夫なように十分な備えをしておくしかありません。そのためには、公助のみに頼るのではなく、自助や共助が必要となります。

自助と共助の力を育む「ぼうさいこくたい」

 自助や共助の力を育む国民運動作りのため、年に一度、防災推進国民大会「ぼうさいこくたい」が、日本のどこかで開かれます。今年は4回目の開催で、今週末の10月19日と20日に名古屋駅近くのグローバルゲートで開催されます。5千人を超える犠牲者を出した伊勢湾台風から60年を迎えること、南海トラフ地震に直面していること、産官学民が連携して積極的に対策を進めていること、などが名古屋開催の理由です。主催するのは内閣府、防災推進協議会、防災推進国民会議の3者です。「ぼうさいこくたい」に合わせて、愛知県と名古屋市が主催するあいち・なごや防災フェスタも同時開催されます。300を超える団体が参加し、1万人を超える来場者が予定されています。両日は名古屋まつりも行われ、信長・秀吉・家康の三英傑の郷土英傑行列もあります。ホームページにプログラムの詳細があります。過去の災害も含め、様々な学びができますので、どうぞお出かけください。

 浸水被害を受けた後は、泥だし、室内の清掃などのボランティアが欠かせません。カナダのラグビーチームが釜石でボランティア活動をしてくれたように、台風15号と19号の被災地に対し、全国からの支援が必要です。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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