ノニト・ドネアのプロモーターが語る「井上尚弥との再戦が実現したらすごいビッグファイト」
リチャード・シェイファー インタビュー前編
井上尚弥との激闘から6か月…プロモーターが語る5階級制覇王者ノニト・ドネアの今
なぜドネアと契約したのか
ーーあなたから見たノニト・ドネア(フィリピン)の魅力とは?
リチャード・シェイファー・プロモーター(以下、RS) : ノニトは彼の階級では破格のパンチャーです。彼に勝とうと思えば、相手選手は12ラウンドにわたって完璧な試合が要求されます。1つでもミスを犯せば、経験とパワーに恵まれたノニトはそこに付け込み、KOしてしまう。日本での井上尚弥(大橋)との戦いでももう少しでそうなるところでした。これまで多くの好試合の主役になってきたことが示す通り、ノニトは常にエキサイティングなファイトを見せてくれる選手でもあります。“退屈”という単語はノニトには最も縁遠い言葉なのです(笑)
ーーあなたも昨年11月には来日を果たしましたが、改めてリングサイドで見た井上対ドネア戦の印象を話してもらえますか?
RS : 日本での井上戦で、ノニトは自分がどういうボクサーであるかを世界中に示したと思います。多くの媒体や全米ボクシング記者協会から、2019年の年間最高試合に選ばれたほどの凄い試合になりました。とてつもない名誉ですし、この試合でノニトがまだ力を残していると誰もが認めたはずです。ノニト自身も、自分がまだ何年も戦えると確信しているようです。
ーー実はあなたがドネアと契約した2017年夏、私は彼はもう引退すべきと考えていました。当時34歳だったドネアを信じて契約したあなたの選択の方が正しかったわけですが、彼がまだ力を残していると感じた理由はどこにあったのでしょう?
RS : ゴールデンボーイ・プロモーションズのCEOを務めていた頃から、私はずっとノニトのファンでした。個人的にも親しく、家族とも親交がありました。プロモーターとしては、これまでにバーナード・ホプキンス、シェーン・モズリー(ともにアメリカ)、ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)など、一部から“もう終わった”とみなされた多くのベテランボクサーとも契約し、彼らの活躍を見てきました。契約前にノニトとゆっくりと話した時にも、“彼はまだやれる”と感じられたんです。
ーーこれまでの経験から、環境さえ整えればまだ戦えるという判断ができたということですね。
RS : 彼はキャリアの新章を開きたいと感じていて、私にサポートを求めていました。トップランクとの契約最終戦となったジェシー・マグダレノ(アメリカ/2016年7月に対戦し、ドネアは判定負け)戦も見ましたが、多くのメディアはノニトが勝っていたと感じた試合でした。そういった経験も彼の闘志に火をつけており、私には彼の目に光が宿っているのが見えたんです。彼は私に「自分がもう終わったと考えている人たちが間違っていると証明したい」と告げました。その後、彼は自分の正しさをすでに十分に示してきたと思っています。
井上との再戦の可能性は
ーー昨年11月の井上戦でも、惜しくも敗れはしましたが、ドネアは周囲の否定的な意見は誤りだと証明しましたね。
RS : 日本に行った時も、ノニトには勝機がないと誰もが思っていました。井上戦はミスマッチであり、大ケガを負うことを心配する声すらありました。それが大接戦になり、年間最高試合にも選ばれました。おかげでWBCタイトルの挑戦権すら手に入ったのです。彼はまだ終わってはいません。再び世界王座に返り咲き、井上との統一戦に向けて進んでいくつもりでいます。
ーー実際にドネアがウバーリに勝ってWBC王者になり、井上がWBO王者のジョンリール・カシメロ(フィリピン)に勝ってWBA、IBF、WBOの3団体を統一した場合、4団体の王座をかけたリマッチが視界に入ってきますね。
RS : その試合が実現したらすごいビッグファイトになるでしょう。
ーーリマッチが行われるとして、再び日本での開催でも構いませんか?
RS : まったく問題はありません。日本の人たちはとても公平で、ジャッジ、オフィシャルの対応も満足できるものでした。(交渉の窓口になった)ミスター本田(帝拳ジムの本田明彦会長)は世界屈指のプロモーターです。実は先週、ノニトと話したばかりなのですが、彼も日本のファンから歓迎されていると感じているようです。日本のファンは親切で礼儀正しく、井上戦を終えてノニトがアリーナを去る際にはスタンディング・オベーションを送ってくれました。ノニトの闘志に感謝してくれたのでしょう。ノニトは日本でもまるで地元のように感じながら戦うことができるのです。
ーー井上選手はワールド・ボクシング・スーパー・シリーズを制した後、トップランクと契約しました。プロモーターの違いにより、再戦交渉は難しくなると思いますか?
RS : トップランクはESPN、PBCはFOX/Showtimeと契約していますが、最近は両者の間にギブ&テイクの関係が存在しています。 特にパンデミック下の現在、人々はよりオープンマインドで、互いに助け合っていく必要があると感じているはずです。ボクシングの世界でもそれは同じこと。プロモーターも、選手も、メディアも、テレビ局の垣根を超えたマッチメイクをサポートし、成立の術を見つけていくべきなのです。テレビ局の違いが好カード成立の妨げになることは、もともとあってはならないこと。コロナ禍の現状では、それはなおさらです。ボクシング界がサバイブしていくためには良いカードを組む必要があり、ESPN、FOX、Showtimeも「すべての試合は自分たちが放送する」などと考えるべきではないのです。
リチャード・シェイファー
スイス出身 1961年10月25日生 (年齢 58歳)
2002年、オスカー・デラホーヤが設立したゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)のCEOに就任。以降、フロイド・メイウェザー(アメリカ)、サウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)をはじめとする多くのスーパースターをプロモートした。2014年にGBPを離れ、2016年にリングスター・スポーツを設立。2017年7月にドネアと契約した。