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井上尚弥との激闘から6か月…プロモーターが語る5階級制覇王者ノニト・ドネアの今

杉浦大介スポーツライター
2018年4月、C・フランプトンに挑戦した際のドネア(左)、シェイファー(中央)(写真:ロイター/アフロ)

パンデミックの中で

ーー先週は本来であればWBC世界バンタム級タイトルマッチ、ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)対ノニト・ドネア(フィリピン)戦が予定された週でした。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックのために、5月16日に計画された試合は正式発表前に延期となりました。あなたがプロモートしているドネアは現在、どうしているのでしょう?

リチャード・シェイファー・プロモーター(以下、RS) : ノニトは家族と一緒にラスベガスにいます。彼はジムに行くのが大好きで、試合がない時期でも常に良いコンディションを保っていますが、現状では安全のために定められた規定に従わなければいけません。彼にはまだ小さな子供たちもいるので、安全対策を真剣に捉えています。今は状況の改善をみんなが待っていて、ノニトもその中の一人です。

ーー予定を立てるのも難しいとは思いますが、ドネアの今後のプランをどう考えていますか?

RS : ベテランの域に達しているノニトにとって、アクティブでいるのは重要なことです。私たちはウバーリ対ドネアという好カードを7月に挙行することを望み、その方向で動いています。ただ、州のアスレチック・コミッションが例え無観客でもボクシング興行を許可するかどうか、その判断を待たなければいけません。ノニトはいつも通り、気力に溢れていますし、リングに戻れる日を楽しみにしています。

ーーフランス人のウバーリはまずアメリカに入国しなければいけませんが、渡航制限が問題になると思いますか?

RS : 渡航制限は徐々に緩和に向かっているように思います。私の友人で、アメリカから欧州、フランスに無事に渡ったものもいます。不可欠ではない旅行はできませんが、ビジネスが目的の渡航は可能だというのが私の認識。ウバーリはアメリカに入国できると考えています。

ーー試合はプレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)の興行で行われるのでしょうか?

RS : 私たちが入札で興行権を落札したので、PBCでの挙行になります。これから開催地と日程を煮詰めていくことになります。今後しばらく無観客試合が基本になるのであれば、プロモーターが試合ごとに開催地を変える意味はほとんどありません。1つの場所、ホテルに留まり、複数のイベントを行うスタイルが主流になるでしょう。PBCの開催地としては今のところロサンジェルスかラスベガスが有力ですが、テキサスになる可能性もあります。

お金はプライオリティではない

ーー具体的にはトム・ブラウンのTGBプロモーションズが興行権を落札したんですよね?

RS : その通りですが、私たちはPBCファミリーの仲間です。最近ではトムがほとんどのPBCイベントのプロモーターを務めているので、彼に任せ、私は入札には参加しませんでした。私、トム、アル・ヘイモンはみんな協力関係にありますから、その必要がなかったのです。

ーーTGBプロモーションズの落札額が40万1000ドルという低額だったことには少し驚かされました。挑戦者のドネアの報酬は規定により約14万ドルになりますが、この点に不満はなかったのでしょうか?

RS : まったくありません。彼は世界タイトルへの挑戦を望んでいて、それこそが最も重要なこと。再び世界王座を獲得すれば、また新たな道が開けるはずで、その中にはWBA、IBF王者・井上尚弥(大橋)との複数タイトルをかけた再戦も含まれます。ノニトは誰とでも戦う選手で、決して「ノー」とは言いません。彼にとって大切なのは、自分自身の価値を証明することなのです。

ーーキャリアの現時点でのドネアにとって、お金はもうプライオリティではないように感じます。

RS : もちろん誰でも、可能な限りお金は稼ぎたいものです。ただ、戦わずに無報酬で終わるより、戦ってできるだけの額を稼いだ方が良い時がある。繰り返しますが、今度の試合に勝てば、ノニトはもっと大金が稼げるようになります。付け加えると、今後しばらくのボクシング興行ではゲート収入は存在しないでしょう。これまでチケット売り上げはTVマネーに次ぐ収入源でしたが、それが失われ、これから先は選手も、プロモーターも、お金に関してより現実的にならなければいけません。これまでと比べて収入が減るとしても、仕方ないことなのです。それはボクシングの世界だけのことではありません。

ーーウバーリと井上拓真(大橋)選手の試合を日本でご覧になったと思います。ウバーリの印象はいかがですか?

RS : 私はウバーリのことはもともとよく知っているんですよ。ウバーリがリングスター・フランスに属していた時期には、彼のプロモーターだったんです。彼が無敗を保っているのは、常に勝利の術を見つけられる選手だからです。強烈なパンチとか、爆発的なスピードとか、1つの特筆すべき武器を持っているわけではありませんが、様々なことを過不足なくできるタイプ。完成された選手と言えます。依然としてとてもハングリーであり、簡単にタイトルを明け渡す王者ではありません。ノニトより若いこともあり、ノニトとウバーリの対戦は興味深いものになるでしょう。

 後編 「井上尚弥とドネアの再戦は実現するのか」に続く

 リチャード・シェイファー

 スイス出身 1961年10月25日生 (年齢 58歳)

 2002年、オスカー・デラホーヤが設立したゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)のCEOに就任。以降、フロイド・メイウェザー(アメリカ)、サウル・”カネロ”・アルバレス(メキシコ)をはじめとする多くのスーパースターをプロモートした。2014年にGBPを離れ、2016年にリングスター・スポーツを設立。2017年7月にドネアと契約した。

写真提供:Ringstar Sports
写真提供:Ringstar Sports
スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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