「高校生未来会議は首相シンパが支援」 東京新聞報道に学生「傷つけられた」(上)
東京新聞が2月10日付朝刊の特報面で「『高校生未来会議』どんな組織」と題し、来月開催する全国高校生未来会議を支援している団体の代表が安倍晋三首相ら政権側と近い関係にあり、安保法制に反対する学生デモに「対抗」して「組織化」「動員」されているとの印象を与える記事を掲載したところ、主催する学生らが「酷い記事」「悲しさでいっぱい」などとツイッターで抗議の声を上げている。
東京新聞は、未来会議の事務局をおき支援している団体代表の大学院生を直接取材せずに「首相シンパ」と呼んで記事化。未来会議代表の高校生に10分程度の電話取材をしただけで、実際にしていない発言をコメントとして載せた疑いがあるほか、高校生の写真を事前の断りなく掲載していたことが、日本報道検証機構の調査でわかった。高校生らが記事掲載翌日から当機構の取材に応じ、経緯を詳しく明らかにした。
記事でコメントを引用された学者2人も当機構の取材に応じ、「政権側が慌てて高校生を組織化しているのでは」や「意図ある団体」といった表現は未来会議に対して述べたものではないなどと説明した。
東京新聞編集局は当機構の質問に対し「記事に問題があるとは考えていない」と回答したが、当初記事を宣伝していたツイッターの投稿はひそかに削除されていた。高校生未来会議の運営団体は近く、東京新聞に正式に抗議することも検討している。
取材せず「首相シンパ」? 与野党を超えた参加実績
東京新聞が取り上げた全国高校生未来会議は、3月23日〜25日、衆議院議員会館などで開催する学生主体のイベント。大学院修士課程の斎木陽平さんが設立した一般社団法人リビジョンが手がけてきた「高校生未来会議」プロジェクトの一つで、全国各地から高校生や識者らが集い、18歳選挙権についての「熟議」やプレゼン大会を行う。地方の参加者に交通費・宿泊費を支給する予定で、ネット上での支援金募集(クラウドファンディング)も開始。最優秀のプレゼン発表に内閣総理大臣杯を授与するという。
この未来会議について、東京新聞は「事務局は首相シンパの団体内」「シールズ高校生版に対抗?」といった見出しを立てて紹介。「安倍首相に近い人物が支援する『全国高校生未来会議』が参加者を募集している。(…)18歳選挙権解禁を前に、保守派の対抗策なのか」と書き出し、斎木さんと安倍首相のツーショット写真掲載や安倍昭恵夫人のイベント招待、斎木さんが安倍首相と遠い親戚らしいことに言及。斎木さんの人物像を「安倍首相に近い人物」「首相シンパ」と形容した。
主催者側の発言は未来会議代表の石塚瑞希さん=高校2年=だけ。記事後半は安保法制反対デモのメンバーや政治学者2人のコメントに割かれ、「自民党寄りかなという印象」「未来会議は若者の自発的政治参加というより『動員』」「政権側は慌てて高校生を組織化しているのでは」「特定の政治勢力に危機感を覚え、対抗した政治行動をするのは政治の本性」といった表現が盛り込まれていた。記事全体として、最近拡大しつつある若者の反対デモに対抗する目的で、安倍首相ら特定の政治勢力を後ろ盾に、高校生を動員、組織化している疑いを抱かせるものといえる。
しかし、高校生未来会議は、斎木さんが経営するAO(アドミッションズ・オフィス)入試専門塾「AO義塾」の生徒だった町田彩夏さん=当時、高校3年=が2013年10月に立ち上げた「女子高生未来会議」がはじまり。その後も斎木さん=当時、大学4年=が設立した社団法人のもと、「東北高校生未来会議」や「日ASEAN高校生未来会議」などテーマごとに複数の企画が発足し、与野党議員が幅広く参加してきた。
高校生未来会議のホームページなどをみれば、安倍首相や昭恵夫人の写真も載っているが、蓮舫議員(民主)、福島瑞穂議員(社民)など、与野党を超え多くの議員の参加実績も確認できる。今回の全国高校生未来会議も、首相夫人の安倍昭恵さんが推薦のコメントを寄せているが、蓮舫議員も応援動画の撮影に協力。全政党に幅広く参加を呼びかけていくという。
ところが、記事は「高校生未来会議はどんな組織」という見出しをつけながら、「女子高生未来会議」や与野党を超えて議員が参加してきた実績には全く触れていなかった。高校生未来会議がSEALDsの前身とされるSASPL(2013年12月発足)やティーンズソウルなど若者の反対デモが注目されるよりも前に活動を始めた経緯も曖昧に記述。そのため、高校生未来会議を知らない読者が読めば、最近の若者デモに対抗する政治的意図をもって活動を始めたのだろうというイメージを抱いてもおかしくない記事になっていた(なお、記事で取り上げられたティーンズソウルの福田龍紀さんはツイッターで「SEALDsの高校生版ではない」と指摘している)。
「組織化」「対抗した政治行動」? 彼らが活動を始めた思いとは
東京新聞の記事で、学者のコメントは次のように記載されている。
当機構は、この2人の学者にも取材を申し込み、2人ともコメントの引用はおおむね正しいものの、高校生未来会議を特定して「組織化」や「対抗した政治行動」と述べたわけではないなどとメールで回答した。
中野教授は、「政権側が慌てて高校生を組織化しているのでは」という表現について「私が高校生未来会議について言ったように読めるのは、取材時に答えた趣旨と異なる。政権に近い政治スタンスの団体が『右側』から仕掛けている若者動員との関連で答えた」と説明。
成田教授も「高校生未来会議について『シールズ高校生版に対抗したもの』との見方もあると記者から説明されたので答えた。趣旨としては『対抗した政治行動』だと言っているのではなく『対抗した政治行動であっても、非難に値しない(そうだとしても、いいじゃないか)』ということ。『意図ある団体』は私の言葉ではないが、未来会議がそうだと言っているわけではなく、一般的に『特定した政治勢力に危機感を覚え、対抗した政治行動をする』団体を指している」と答えた。
記事の本文中には「政権側による組織化」「シールズ高校生版への対抗」を裏付けるような事実はどこにも記されておらず、憶測で「対抗?」「保守派の対抗策か」などと書いたとみられる。
2013年に斎木さんとともに高校生未来会議を発足させた町田さんも、今回当機構の取材に応じ、女性の社会進出をテーマに熟議の場をつくりたいという思いで始めたと説明。「『女のくせに生徒会長に立候補するなんて生意気だ』と学校の先生に言われたことがきっかけ。政治活動ではなく、高校生目線で熟議し、学び、体験しようという場を作ろうとした。立ち上げから今日まで積み上げてきた高校生未来会議をすごく傷つけられた」と悔しそうに語った。
斎木さんも、活動を始めた動機について「民主党政権下で若者の政策に尽力してきた鈴木寛元文部科学副大臣=現在、文科大臣補佐官=の参院選落選にショックを受けたことが大きなきっかけだった」と明かした。安倍首相の主義主張を全て支持したり、信奉したりしているわけではなく、政策面で考えが異なる部分も少なからずあると言う。斎木さんはどの政党の議員とも分け隔てなく付き合っているといい、東京新聞が直接取材もせず一方的に「首相シンパ」とラベリングしたことに強い憤りを覚えると語っている。
(※2月17日20時放送のニコ生番組「Japan in-depth」に当機構の楊井代表とともに、全国高校生未来会議代表の石塚瑞希さんが緊急出演し、真相を語ります。→放送内容の動画付き要約記事が配信されました。)
(*) これまでの高校生未来会議に田村智子議員(日本共産党)も参加していたと記していましたが、田村議員は、高校生未来会議を運営する「リビジョン」の別企画「Teen's Rights Movement」(TRM)に参加したことはあるものの、高校生未来会議には参加していませんでした。斎木氏より田村議員も未来会議に参加したことがあるとの説明を受けていましたが、TRMと混同していたとの連絡がありました。当機構も確認が不十分でした。お詫びして訂正します。なお、今回3月23〜25日に開催された全国高校生未来会議には、日本共産党を含め10政党の国会議員が参加していました。(2016/3/26 23:20追記)
〜(下)に続く〜