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「高校生未来会議は首相シンパが支援」 東京新聞報道に学生「傷つけられた」(下)

楊井人文弁護士
2015年3月の女子高生未来会議の模様

(上)から続く〜

「動員」「金銭的提供」? 支援金を集める趣旨は

東京新聞の記事には、中野教授の「未来会議は若者の自発的政治参加というより『動員』」というコメントも引用されている。これについて、中野教授は当機構の取材に対し「参加者に対して金銭などのインセンティブないし支援があるから」と説明した。

同様に、成田教授も「金銭的な提供は純粋な政治的議論ではなく、物質的な恩恵でひきつけることになるので好ましくない」と指摘したことについて、「宿泊費と交通費の一部を主宰者側が負担するので、イベントに出てくれというのは好ましくないという趣旨」として東京新聞の取材に答えたという。

全国高校生未来会議が支援を呼びかけているクラウドファンディングサイト
全国高校生未来会議が支援を呼びかけているクラウドファンディングサイト

今回の高校生未来会議は、主催者側が参加者の交通費、宿泊費の一部を負担するのが特徴の一つだ。その資金を調達するために、2月13日からクラウドファンディングのサイトも始動、388万円を目標に支援を呼びかけている。

この試みについて、斎木陽平さんは、政権与党から資金提供は一切ないとしたうえで、「過去に参加したくても交通費などがネックで来れないという声があった。参加したくても金銭的に余裕のある人ばかりではない。遠方からも参加できるようクラウドファンディングで支援金を募ることにしたが、万が一集まらなくても私自身が最終的に負担する覚悟でやっている。若者の活動を大人がカンパで支えることはいいことでは」と話した。

必要資金の大半をクラウドファンディングでまかない、中小企業を中心に協賛金を呼びかけているという。ホームページで、支給するのは実費で(地域毎の上限あり)、割引制度の活用を前提と説明している。

「デモはもう時代に合わない」というコメントはしていない

この記事をめぐっては、当事者として唯一取材を受けた石塚瑞希さんは、実際に述べていない言葉が自身のコメントとして付け加えられたと主張している。石塚さんのコメントは次のように引用されていた。

未来会議代表で、都内の私立高二年、石塚瑞希さん(17)は「企業からの協賛やネット上での資金募集で運営費をまかなう」と説明する。「政治に興味がある地方の子が、東京のイベントに参加できないのを悔しく感じていた。斎木さんは首相の遠い親戚らしいが、各党の議員を招くので右翼、左翼関係なく来てほしい。シールズの高校生組織の『ティーンズソウル』の人もぜひ。デモはもう時代に合わないと思う

出典:東京新聞2016年2月10日付朝刊特報面

石塚さんは「デモはもう時代に合わないと思う」という発言は一切していないとツイッターで指摘。しかし、ネット上では「世界でもデモは民主的活動の基本だけどね。がんばって勉強してほしいね」「こんな国際感覚じゃ恥ずかしい」などと、この引用をもとに批判が相次いでいる。

東京新聞の取材経緯を説明する全国高校生未来会議の代表・石塚瑞希さん(2月11日)
東京新聞の取材経緯を説明する全国高校生未来会議の代表・石塚瑞希さん(2月11日)

石塚さんも記事掲載翌日、当機構の取材に応じた。東京新聞の沢田千秋記者からの電話取材で、若者による安保法制反対デモについて聞かれた際、「デモも政治を変える大事な手段の一つ」と肯定したうえで「『高校生未来会議が選択したのは熟議という手段。手段は違っても政治をよくしていきたいという思いは一緒だと思う』と答えた」と説明。「デモはもう時代に合わないと思う」というコメントは「まるっきり言っていない」と強く否定、沢田記者からそうしたコメントの掲載に同意を求められたこともなかったとも話した。

また、記事には石塚さんら高校生3人が写ったホームページの写真が転載されていたが、記者からは事前に一言もなく、石塚さんは記事をみて非常に驚いたという。斎木さんも当機構の取材に「ネット上で公開されているとはいえ、こうした(政治的意図があると印象づける)記事に無断で載せれば、高校生の将来にも影響しかねない」と憤りを隠さなかった。

結局、東京新聞からの取材は、掲載前日の9日午後、未来会議代表である石塚さんに対して2回、あわせて約10分の電話取材が行われたのみ。石塚さんのスマートフォン着信記録で確認した。運営団体トップである斎木さんをはじめ、他のメンバーは誰も取材されなかったという。

東京新聞は「問題ない」と回答する一方でツイートは削除

当機構は12日、(1)石塚さんのコメントに実際にない発言を付け加えたか、(2)「対抗」を裏付ける根拠、(3)「首相シンパ」を裏付ける根拠、本人に取材しなかった問題、(4)ホームページ写真の掲載経緯、(5)各種表現の適切性、(6)当事者への取材経緯について事実確認や報道倫理上の見解を求め、社内検証や訂正等の対応をする考えがあるかについて質問した。

東京新聞の公式アカウントが当初ツイッターで流した記事の告知(画像はまとめサイトより)
東京新聞の公式アカウントが当初ツイッターで流した記事の告知(画像はまとめサイトより)

東京新聞編集局は15日、ファクスで回答したが、個別の質問には答えず、一括して「取材、編集の経緯は従来からお答えしていません。ご指摘の記事に問題があったとは考えておりません」とのみコメントした。

ただ、10日当初、東京新聞のツイッター公式アカウントが全国高校生未来会議のホームページ写真とともに記事の見出しを配信した投稿は、15日までに削除されていたことがわかった。削除した理由は明らかにしていない。

斎木さんは「弁護士と相談しながら正式な抗議も検討している。東京新聞にはどういう経緯でこんな記事になったのか検証し、間違った部分は認めてほしい。記者にはちゃんと取材に来て、憶測で書かないでほしい」と話している。

(※2月17日20時放送のニコ生番組「Japan in-depth」に当機構の楊井代表とともに、全国高校生未来会議代表の石塚瑞希さんが緊急出演し、真相を語ります。→放送内容の動画付き要約記事が配信されました。)

(*) (上)の本文中、過去の高校生未来会議に田村智子議員(日本共産党)が参加していたと記したのは誤りだったため、訂正しました。詳しくは(上)の追記欄をご確認ください。(2016/3/26 23:30追記)

(**) 2月10日付東京新聞特報面の「『高校生未来会議』どんな組織」については、過去の高校生未来会議にゲスト参加したことがあるという林大介・東洋大助教が、3月6日付紙面批評欄「新聞を読んで」で取り上げ、「アンフェアな印象を受けた」「きちんと取材したのか疑問」と指摘していました。3月23〜25日の全国高校生未来会議には、開催前に福島瑞穂議員(社民党)樋口尚也議員(公明党)から応援動画が寄せられ、開催期間中に10政党の国会議員が講演や演説などに参加していました。(2016/3/26 23:55追記)

(***) 当初(上)(中)(下)の3回分に分けて掲載する予定でしたが、若干の追記(上記)にとどめ、2回分で終了することになりました。そのため、見出しの(中)を(下)に変更しました。(2016/3/26 23:30追記)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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