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喜界島のゴマ

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

奄美大島に隣接する喜界島は、在来種の白ゴマ産地として知られている日本一のゴマ産地だ。人口8000人余りの離島で年間50トンを収穫、国内のゴマ生産の7割を占めている。といっても、日本のゴマ自給率は0・1%、約16万トンを輸入に頼る。中国に次ぎ世界第2位の輸入国だ。

その貴重な喜界島のゴマが危機に瀕している。ここ数年の巨大台風、ゲリラ豪雨といった異常気象で生産量が激減。さらにこの10月の霧島・新燃岳の噴火や桜島の降灰が重なり、収穫がままならなくなってしまった。あの小さいゴマの実に火山灰がまぶされたら、始末は大変だろうなとつくづく思う。

喜界島が昔からゴマ産地だったわけではない。関西に産直グループ「関西よつ葉連絡会」のニュースレター『よつばつうしん』の12月号で鹿北精油というこの地域のゴマ製油企業が報告しているのを読むと、34年前同社がこの地でゴマの契約栽培を始めたごろの、喜界島の生産量は年間200キロだったという。それがいま100ヘクタールで50トンの生産をあげるまでになった。島ぐるみの努力で作り上げた産地なのだ。このまま温暖化の影響で異常気象が続けば、日本産のゴマは壊滅しかねない状況なのである。

喜界島のゴマだけではない。地域で、その地に生きる人たちが努力を重ね、工夫を凝らして育ててきた農産物が、いま次々存亡の危機に陥っている現実がある。これも『よつばつうしん』で見つけた記事なのだが、和歌山県田辺市で地域の農産物を使う農産加工の「熊野鼓動」というちいさな会社がある。Iターン組と地元の人が共同で立ち上げた会社だ。今年スダチの収穫量が少ないので農家の方に聞いてみたという。実は実っているのだが高齢化で収穫しきれなかったという返事が返ってきた。

この会社の製品の「熊野番茶」というでおいしいい番茶の原料をつくる地元の茶畑でも、整枝作業の人出がなく、この会社のスタッフを派遣したという。

海外では日本食ブームだという。それに合わせて日本の食材の輸出をと政府は勇ましい。しかし、足元では肝心の食材を得るための持続的な生産体制もその生産の担い手も、崩れかけているのである。そしてそれらはみんな、小さな農家と小さな加工業者、小さな流通業者、それを支える農業協同組合が担ってきているということが、忘れられている。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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