緊急脱出したら手荷物はどうなるのか?
昨日、羽田空港で日本航空機と海上保安庁の飛行機が滑走路上で衝突し、両機ともに爆発炎上する大事故が発生しました。
残念なことに海上保安庁の飛行機に乗っていた6名中5名の隊員の方がお亡くなりになられました。
能登半島地震の救援に向かう任務中の事故ということで悔やまれるばかりです。
日本航空の方はこれだけの大きな事故にかかわらず、乗客乗員全員が緊急脱出し、1人の人命も失われなかったことは不幸中の幸いですし、日ごろから厳しい訓練を積まれてきているクルーの皆様方の業務には大きく敬意を払いたいと思います。
さて、非常時に脱出用のシューターを使って機体から脱出する場合に、「手荷物は持たないでください」という指示が乗務員から全乗客に対して出されます。手荷物を持って逃げようとすると脱出の妨げになり、決められた時間内に緊急脱出ができないことが考えられますから、乗客はどんなに大切な荷物でも持って逃げることは許されません。
今回も、これだけ大きな事故にもかかわらず、しかも一部の脱出用シューターが使用できない状況下で満席に近い乗客が脱出できたということは、ほとんどすべての乗客が乗務員の指示に従って行動した結果だと高く評価できると思います。
機内持ち込み手荷物や空港で預けた手荷物はどうなるのか
通常の場合は、一旦脱出した後に、航空会社の係員が機内に入り、各座席に残されている機内持ち込み手荷物を座席番号付近ごとに回収し、空港ビル内で待機する乗客に返還します。
ところが、今回の場合は搭乗していた航空機が全焼してしまっていますので、機内持ち込み手荷物だけでなく、空港で預けた預託手荷物まですべて燃えてしまったと考えられます。
この場合はどうしたらよいのか。
先日、12月30日に発表しました
なぜジェットスター・ジャパンは年末年始の最繁忙期にストライキをやるのか?
でも述べましたが、このような場合は航空会社が提示している運送約款が根拠になります。
では、日本航空の国内運送約款を見てみましょう。
第47条 会社の責任限度額
1.手荷物運送における会社の責任は、旅客1名につき総額金15万円の額を限度とします。ただし、旅客が運送の開始前に当該手荷物につきそれ以上の価額を申告し、且つ、第41条の規定に従って従価料金を支払った場合は、当該申告価額を会社の責任限度としますが、この場合においても、会社の責任は、当該手荷物の実際の価額を超えることはありません。
2.前項にいう「手荷物」とは、受託手荷物その他の会社が保管を受託した旅客の物及び持込手荷物その他の旅客が携行し又は装着する物のすべてを含みます。
第47条にはこのように書かれています。(太字は筆者が補正)
これによれば、賠償金額は預けた荷物と機内持ち込み手荷物すべてを含めてお客様1人15万円ということになります。
これが運送約款に記されていることになりますから、運送約款上ではこれ以上の金額を会社が支払うことはありません。
ただし書きとして、「旅客が運送の開始前に当該手荷物につきそれ以上の価額を申告し、且つ、第41条の規定に従って従価料金を支払った場合は、当該申告価額を会社の責任限度とします」となっていますから、出発空港で手荷物を預ける際に、自分が預けようとする荷物の金額が運送約款上の賠償限度額を超えていることを申告し、その金額分の追加料金を払った場合には15万円を超えて預けることができます。
その金額に関しては、
第41条 従価料金
手荷物及び旅客が装着する物品の価額の合計が15万円を超える場合には、旅客はその価額を申告することができます。この場合には、会社は、従価料金として、申告価額の15万円を超える部分について1万円毎に10円 (消費税込み) を申し受けます。
第41条に書かれていますが、1万円について10円です。
ということは旅客が自分の荷物の価値は100万円だと申告すると、通常の限度額15万円との差額85万円に対して1Kg10円、つまり850円の追加料金を支払えば預けることができるとされています。
しかしながら、ではいくらでもいいのかというとそうではなくて、上記45条に書かれているように、「この場合においても、会社の責任は、当該手荷物の実際の価額を超えることはありません。」とありますから、20万円の荷物に100万円と申告し、事前に従価料金をお支払いいただいていたとしても、賠償金額は20万円ということになります。
また、第34条を見ると、
第34条 高価品
白金、金、その他の貴金属、貨幣、銀行券、有価証券、印紙類、宝石類、美術品、骨董品その他高価品は、受託手荷物として認めません。
と書かれていますから、基本的に、航空会社は受託手荷物として高額なものや貴重品類に関しては預かることはできませんし、預けた荷物の中にそのようなものがもし入っていたとしても、損害賠償の責任は負わないということになります。
筆者も航空会社勤務時代に経験していますが、第34条に該当するような物品を預けたいというお客様に対しては事前にご相談をいただき、手荷物ではなくて貨物としてお運びいただくことをご案内いたしております。
よくお客様がご申告なされますが、例えばマニアックなコレクションなど「これは私にとっては大切で高価なものだ。」という品物であっても、そういう物品はいわゆる骨董品に当たりますから、旅客からの受託手荷物としてはお預かりは致しますが、破損、紛失に関しては免責となりますし、機内持ち込み手荷物に関しても緊急時には持って出ることが許されないという前提での持ち込みとなりますから、やはり損害を会社が保証するものではないと考えられます。
では、どうしたらよいのか
通常、このような会社側の責任限度額を超える賠償責任は旅行保険を利用していただくことになります。
旅行保険には様々なタイプがありますが、ご自身の所持品、携行品、あるいは旅行の期間などに合わせて、ご自身が自己申告で選択していただくものですから、「私の携行品はこれだけの価値がある。」と思われる方は、そういった旅行保険に加入していただくことが最善です。
今回のように、万一預けた手荷物や機内持ち込み品が、航空会社の職員の故意または重大な過失がない状況で損害を受けた場合には、旅行保険の賠償を適用された方がお客様の利益になると思います。
この場合、航空会社に証明書を発行してもらい、それを持って旅行保険の会社にお客様ご自身でご請求していただくことになりますが、航空会社と保険会社の両方に請求することはできません。
例えば保険会社に損失金額50万円と請求されて支払われた場合には、保険会社から航空会社に旅客に支払った旨の連絡が入ります。そして航空会社は保険会社に対して賠償限度額である15万円を支払うことで完了となりますので、両方に請求されていると後日トラブルの原因となりますからご注意ください。
日本人にはなじまない制度と考える
運送約款というのは基本的には事業者側に有利となるように書かれているものです。
お客様は予約をして航空券代をお支払いいただいた時点で運送約款の内容を了承したとされますので、「知らなかった」「そんなつもりじゃなかった」と後で言われても会社側は対応することができません。
例えば国際線の運送約款では、旅客が死亡した場合に一人当たり約2000万円(レートによる変動あり)、手荷物1Kgあたり約2500円(同上)と書かれていますが、もともとこういうダイレクトな表示の仕方は日本人の国民性には合わない部分があると筆者は考えます。
ただし、どのような輸送もすべては契約の上で成り立っていることですから、飛行機だけでなく、電車やバスに乗るにも、宅配荷物を送るにも約款というものの存在は知っておくべきだと考えます。
以前はこのような印刷された時刻表が無料で配布されていましたので、誰でも手にとって内容を確かめることができましたし、その中には運送約款を抜粋した注意事項も書かれていましたが、日本航空の場合、2021年に紙の時刻表は廃止されていて、すべてオンラインになっています。
また、航空券という紙の切符も存在しない時代になってきています。以前であれば航空券の裏面に約款の抜粋などが書かれていましたが、そういうこともなくなりました。
世の中の流れとしてはそのような時代になってきていますが、ネットの弱点として、興味があるところはポップアップしてきますが、関心が薄い部分に関しては自ら探しに行かないと表示されません。
ネットショッピング同様、すべては契約事項だということを今一度ご確認いただき、時間のある時にでも、約款や注意事項などを読まれるようにすることをお勧めいたします。
帰省のピークを迎える時期です。
皆様のご旅行が安全で快適であることをお祈りいたしております。
※おことわり
本文は日本航空の国内線運送約款の一部について、筆者が独自の見解を交えて平易に解説したものです。
航空会社には運送約款に基づいて別途「旅客サービスマニュアル」というのが定められていて、約款通りにはいかない事情などを可能な限り考慮する体制になっています。(金銭的な追加支払いをのぞく)
日本航空はLCCではなく、フルサービスキャリアを標榜していますから、今回のような大きな事故が発生した場合、当該機に搭乗されていらっしゃったお客様については、おそらく別途個別に対応されると考えられます。
乗客の中には預けた手荷物もなく、機内持ち込み手荷物もほとんどないお客様がいて、緊急脱出後にそのままご帰宅される方もいらっしゃると思いますが、そういう方に対しても何らかの賠償手続きを用意していることがありますので、やはり約款に書かれているように、発生から7日以内に航空会社にお申し出されることをお勧めいたします。