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なぜジェットスター・ジャパンは年末年始の最繁忙期にストライキをやるのか?

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
成田空港のジェットスターカウンター(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

LCC(格安航空会社)のジェットスター・ジャパン(以下ジェットスター)がストライキを継続中です。

ストライキというのは民間会社の労働者に認められた権利で、きちんとした手続きを踏めばその行為自体は合法的で非難されるべきものではありません。

最近では交通機関の労働者のストライキというのは日本ではあまり発生しなくなっていましたので違和感を感じる方も多いと思いますが、日本でもかつては鉄道、バス、船舶、航空機などの交通機関で春闘をはじめ、毎年のようにストライキが発生していましたし、海外では今でもそれほど珍しい現象ではありません。

ストライキは労働者側の要求を会社側に承認させるために行う実力行使の一つの方法ですから、会社側に自分たちの要求を突き付けて「イエス」と言わせるためには一番効果的な時期を狙うのは組合の常套手段です。春闘の場合は3月中旬にスト通告をして4月の初めから交渉をはじめ、ゴールデンウィークの最繁忙期を目途に会社側に要求を承認させるのが一般的な手段です。

「要求を承認しなければゴールデンウィークにストライキを行うぞ。」という切り札をちらつかせながら、できるだけ好条件を勝ち取るというのが組合側(労働者側)の戦略です。

会社としては書入れ時の最繁忙期にストライキを行われてはたまりませんから、何とか回避したい。でも、組合側の要求を丸呑みするわけにはいかないと、団体交渉でギリギリまで折衝を行う。これが春闘の基本的な姿です。

今回のジェットスターの労働組合も自分たちの要求を会社側に吞ませるために、年末年始の最繁忙期にストライキを通告して団体交渉を行うというのは、ある意味当然の戦略なのです。

会社がストライキを受けて立つ理由は何か?

ところが、この年末の最繁忙期の需要をある意味「人質」にして交渉を行うという組合の戦法に、会社側が「受けて立つ」という姿勢を崩さないのがジェットスターで、組合側の最大の武器である「最繁忙期の需要」というものが、会社側に通用しないというのがストライキに突入している理由だと筆者は判断します。

労働組合からの要求に対して会社と交渉決裂するということは、ジェットスターという航空会社の経営側が、「ストライキも止む無し。」という姿勢を示していることと理解できますが、なぜ、この年末年始に帰省や観光で満席になっている状況下でストライキを決行させるのか。利用者のことは一体どう考えているのか。そういう疑問が社会一般的だと思いますが、ストライキが発生した場合に航空会社が旅客に対してどういう対応を取るかが書かれているのが「運送約款」です。

ジェットスターの運送約款を見てみましょう。

運送約款の一部抜粋 ジェットスター・ジャパンのホームページから
運送約款の一部抜粋 ジェットスター・ジャパンのホームページから

10条に航空便のスケジュール、延着又は欠航という項目があります。

その2項にはこう書かれています。

10.2 やむを得ない事情による変更
やむを得ない事情(戦争、内紛、火災、洪水、悪天候、天災、当局による措置、当社の管理や制御が及ばない機体、機械や設備の事故や障害、ストライキを含むがこれらに限らない)によって大幅な遅延又は欠航が生じた場合、お客様が搭乗手続済みか否かを問わず、当社はお客様がお客様の目的地に到着できるよう当社の運航する空席のある次の便への振り替え又は運賃の払戻をいたします。しかし、法律で要求されない限り、当社は、その遅延又は欠航の結果お客様に生じる可能性のある費用の支払いについては責任を負いません。

ストライキというのは戦争や災害に匹敵する「やむを得ない事情」であり、それによって遅延や欠航が発生した場合にはお客様に生じる可能性のある費用の支払いについて責任は負わないと書かれています。

ストライキにより予約していた便が欠航となった場合は会社の責任というのは

1:当社が運航する空席がある次の便への振り替え

2:払い戻し

このどちらかの取り扱いをするだけです。

これに対してフルサービスキャリアである日本航空の運送約款ではこう書かれています。

日本航空の運送約款 第43条 会社の責任  日本航空のホームページより
日本航空の運送約款 第43条 会社の責任  日本航空のホームページより

日本航空でも戦争や災害と同様にストライキ(争議行為)は会社の責任外であるとしていますが。しかしながら5項の終わりにこう書かれています。

当該措置をとったことにより生じた損害については、本条第1項、第2項、第3項及び第4項により会社が責任を負う場合を除き、会社は、これを賠償する責に任じません。

会社は賠償しないということはジェットスターと同じですが、例外事項が設けられています。その例外事項というのは第25条です。

日本航空運送約款 第25条  日本航空ホームページより
日本航空運送約款 第25条  日本航空ホームページより

戦争や災害と同様にストライキによって航空機の運行ができなくなった場合、会社はその便を予約している旅客に対して次のような取り扱いを行います。

(1)旅行開始前においては、座席に余裕のある会社の航空機によって、当該航空券の予約事項である最初の目的地まで旅客及び手荷物の運送をすること。
また、旅行開始後において航空券の予約事項である目的地を変更した場合は、会社が選択する次のいずれかによって当該航空券の予約事項である最初の目的地まで旅客及び手荷物の運送の便を図ります。
(イ)座席に余裕のある会社の航空機
(ロ)座席に余裕のある他の会社の航空機
(ハ)他の輸送機関
この場合において、便、経路等の変更による旅客運賃及び料金が、当該区間の適用運賃及び料金の払戻額より大であっても、これを追徴せず、また、小であるときはこれを払い戻します。

旅行開始前においては「座席に余裕がある他の会社の航空機によって・・・目的地までの運送をする」

つまり、他の航空会社への振り替えを含む対応を取るということです。

これが「自社航空機の空席がある次の便」とするジェットスターとの大きな違いです。

また、下の(ハ)の欄にはこう書かれています。

(ハ)他の輸送機関

この場合において、便、経路等の変更による旅客運賃及び料金が、当該区間の適用運賃及び料金の払戻額より大であっても、これを追徴せず、また、小であるときはこれを払い戻します。

飛行機が当初の目的地まで飛ばなければ鉄道やその他の手段による輸送に対しても会社が責を負うとしていて、他の航空会社や他の輸送機関への振り替えに発生する費用が、航空運賃で支払われた金額よりも大きい場合は追加請求せず、安い場合は差額を払い戻しするということです。

これによると、繁忙期にストライキを行われた場合の対応としては、購入されている航空券金額以上のお金が外に出ていくことになります。

これが「空席がある次の自社便に振り替えをする」というジェットスターとの大きな違いです。

つまり、ストライキが行われた場合の会社としての費用的支出が日本航空の場合は大きく、他社への振り替えなどを行うということは、そのサービスにかかわる人的経費も負担するということになります。これに対して、ジェットスターの場合は最大でも航空券の払い戻しだけですから、キャッシュの流出もほとんどなく、人的増員も不要ということになります。

運送約款から判断すると、ジェットスターとしてはストライキを決行された場合でも会社としてのダメージはそれほど大きくないということになり、労働組合の伝家の宝刀であるストライキという手段が通じなくなっていると筆者は考えます。

これはジェットスターとフルサービスキャリアと呼ばれる大手の会社との大きな違いであり、運送約款にそう書かれているということは、利用者は各条項を了承して航空券を買われているということになります。

ジェットスター・ジャパンのホームページにある運送約款の一番最初に書かれている文です。

おことわり:英語の運送約款の優位性
仮に、日本語による運送約款の訳文と英語による運送約款の正文との間で何らかの不一致がある場合には、正文である英語の運送約款が優先します。

ジェットスター・ジャパンという会社はもともとオーストラリアの会社ですし、航空運送約款というのはIATA(国際航空運送協会)では英語で定められていますから、日本の航空会社でも「日本語は参考として掲載しているもので、英語が正文です。」と書かれていますが、運送約款の一番初めにこのような「おことわり」が書かれているということは、「日本語の解釈については会社は旅客と議論しません。」と宣言していると考えられるのではないでしょうか。

これが、年末年始という国内輸送の最繁忙期に組合側の要求を受け入れず、ストライキに突入させているジェットスター・ジャパンの現状ではないかと筆者は認識できると考えます。

つまり、「LCCとフルサービスキャリアの違い」をご理解いただいたうえで、ご予約されることが望ましいわけで、この違いを選択の段階で認識しておかないと、運送約款上では後になってクレームしても始まらないのではないでしょうか。

格安航空会社の成り立ちを考えると、運賃が安いのは機内食が出ないとか座席が狭いなどだけではなく、ホスピタリティを含めた旅客対応も簡素ですよということですから、そういう事情をご理解の上、ご納得された方が乗られることをお勧めいたします。

年末年始の皆様方のご旅行が安寧でありますように願っております。

※本記事は航空会社の運送約款を根拠に、トラブル発生時にどのような対応やサービスを得られるかを記載したものです。実際の現場での対応とは異なる場合があります。

【補足追記】(1月15日)

ストライキ時に実際の現場でどのような対応が行われたかについて、ジェットスター・ジャパン社に問い合わせをしましたところ、次のような回答をいただきました。

先般のストライキや体調不良の影響に伴う乗務員繰りで影響を受けたお客様人数は、約9000人となります。お客様対応の内容は以下の通りです。
1. ジェットスター・ジャパンが運航する同区間の運航便へ振替または払い戻し、または
2. お客様ご自身で他社便や地上交通機関(タクシーを除く)をお手配いただいた場合、その費用をご負担(ただし、ジェットスター・ジャパン便の振替または払い戻しを申請した場合[上記1の方法]を除く)
・一旦お客様ご自身でご予約・ご購入いただき、後日領収書と搭乗券半券(航空会社利用の場合)をコンタクトセンター(ライブチャット)にてご請求いただく
・ 航空機の場合、同一路線(羽田/成田、新千歳/旭川、伊丹/関西/神戸、中部/小牧、福岡/北九州発着は同一とみなします)、地上交通機関は空港間の鉄道・バス利用とします。いずれも対象は普通席に限定
・ ご宿泊が必要な場合、交通費とは別にお一人様一泊8,000円を上限にお支払(同日の夜のみ)
・ 航空機の振替対象期限は1月8日まで
年末年始にストライキなどの影響でお客さま、関係者の皆さまに多大なるご迷惑をお掛けしましたこと、深くお詫び申し上げます。
信頼回復に向けて一便一便しっかりと運航して、LCCでの気軽な空の旅を再び皆様に楽しんでいただけるよう努力してまいります。
今後とも何卒宜しくお願いいたします。

以上、筆者の問い合わせに対していただきました返信です。(対象となった合計人数や合計支払金額については非公表とのこと)

1については運送約款通りですが、2に関しては他社便や他の交通機関への振り替え、宿泊ホテルの費用負担など、実際の会社の対応は運送約款に定められている内容以上のものであったことがわかります。

あくまでもお客様ご自身で手配されたものとなっておりますが、会社としてはできる限りの対応をしたと考えることができるます。

また、この旅客対応に当たられた職員の方々は、年末の最繁忙期の混乱の中、多くの困難を越えての対応をされたと思います。

元日の能登半島地震の報を受けて労使ともに即時ストライキの中止宣言をされたのも、好判断だったと考えます。

このような実際のハンドリングを見ると、LCCというサービスが限定される前提の会社としてはかなり努力をされたとみることができます。

以上、筆者の印象をあわせて補足して追記させていただきます。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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