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ローカル鉄道の存続運動 決め手はこれだ! 残すためにやらなければならないこと

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

ゴールデンウィークも後半戦に入ります。

田舎のローカル鉄道でのんびりと鉄道の旅をしたいなと思われる方も多いと思います。

ローカル鉄道は都会の皆様方から見ると「行ってみたい」「乗ってみたい」というあこがれの対象ですが、地元の皆様方にすると生活に関係のないお荷物的な見方をされている方も多いと思います。

国鉄からJRになることができた路線と、なれなかった路線

昭和62年(1987年)に国鉄の分割民営化が行われ、各地でJRが誕生しました。

その時にはJRに残るために1日平均4000人という利用実績が求められましたが、簡潔に申し上げると、そのハードルをクリアした路線がJR路線になることができて、クリアできなかった路線が廃止対象となりました。

その廃止対象路線は全国に約80路線。そのうちの約半分が実際に廃止され、残りの半分が地元出資の第3セクター鉄道として走り始めました。

JRの路線から分岐するような短い路線が多かったので、とても存続は難しいと言われたところが多かったのですが、その国鉄民営化時に誕生した第3セクター鉄道の多くは今でもちゃんと走っています。そして、ほとんどの路線で存廃議論は起きていません。

これに対して、今、存廃議論が起きているのは国鉄からJRになるときに無事にハードルをクリアした路線。つまり、ある程度利用人員があった路線で存廃議論が起きているのです。

人口減少で地元の利用者が減っているのは全国同時進行ですからJR路線も第3セクター路線も同じです。ではなぜ、JR路線だけで存廃議論が起きているのでしょうか。

地元の人たちが無関心

昭和62年にJRが誕生した時に、JRになれなかった路線では、自分たちで鉄道を運営する第3セクター会社を作りました。県や地元の行政がしっかり支える仕組みが出来上がり、観光客の誘致などを積極的に行い、赤字ではありますが様々な利用促進策を実施して現在に至っています。これに対して運よくJR路線に残れたところは「ああ、これで大丈夫だ。」と、すっかり安心してしまいました。そして、鉄道を「自分ごと」としてとらえることなく「JR任せ」になってしまいました。

JRの方も赤字を放置するわけにはいきませんから経営効率化と称して列車の編成を短くしたり、あるいは本数を減らして経費の削減に努めます。そうすると不便になりますからますます利用者が減る。

こうして地域住民は「JRはやる気がない。」と言い、JRから見ると「利用実態が少ない。」のいたちごっこで30年以上の時間が経過してきたのです。

そしてコロナ禍で大都市圏や新幹線をはじめとする稼ぎどころが大きな被害を受けたものですから、いよいよ感になってきて現在の存廃議論が巻き起こっているのです。

JRがやらなければ自分たちでやる

こういう状況の中で「JRはけしからん」「やる気がない」と多くの地方でJR批判が起きていますが、実は「JRがやらなければ自分たちでやる」と言って、いろいろな取り組みを始めている地域があります。

事例その1:長野県小海線に見る自治体の取り組み

長野県を走る小海線は非電化単線のローカル線ですが、日本一標高が高いところを走る高原路線として有名で、シーズンには観光客が多く乗車する路線です。

この小海線の中心的なところにある小海駅が無人化された際に、地元の小海町役場が「自分たちで駅を運営する」と言って、JRから業務委託を受けて駅業務を行っています。

駅の事務室は役場の「渉外戦略係」の事務所になっていて、朝から夕まで窓口業務を行っているのは小海町役場の職員さんです。

それだけではありません。駅の中には診療所があって2階には空きスペースを利用して学校帰りの中高生のための勉強部屋が設置されています。

勉強部屋には電子レンジやお菓子まで揃えてあります。

小海町の黒澤町長さんにお話をお伺いしました。

「高校生は自分で何か買えるけど、中学生は学校の帰りに買い食いは禁止されていますから、ちょっとしたお菓子を置いてあげないとお腹が減るでしょ。」

とのこと。診療所も収支は黒字だそうで、鉄道を利用する方はもちろんですが、鉄道以外でも駅ならば来やすいということなのでしょう。

「JR任せではダメですよ。自分たちで路線や駅を守る努力をしないと。第3セクター路線の沿線の皆さんはちゃんとやっているわけですから。」

小海町の黒澤弘町長さんです。
小海町の黒澤弘町長さんです。

小海町役場の篠原潤さんによると、「駅業務は専門知識が必要ですから、JRとの関係が強くなりました。わからないことがあるとすぐに聞くことができる関係です。地域と鉄道会社はそこから始めなければならないのではないのでしょうか。」とのこと。

駅業務を行うことで鉄道会社の仕事に対して理解をすることができたのはもちろんですが、住民の皆様方の生の声を聴けるようになったのも大きな成果とのことでした。

「住民の方は役場には用があるときにしか来ませんが、駅であればいろいろな声が聞けるますから。」と、篠原さん。

それだけ、地域の皆様方にとっては駅は生活の場なのです。

事例その2:JRができなければ自分たちで列車を走らせる。

北海道の釧路と網走を結ぶ釧網(せんもう)本線はオホーツク海に沿って走る流氷路線として有名ですが、冬の間この区間を走る「流氷物語号」という観光列車があります。この列車は実は地元の人たちの手で運営されています。

JR北海道は大赤字ですから、とてもじゃないけど観光列車に回せる人員がいない。そこで網走市のMOTレール倶楽部(石黒明代表)が網走市から委託を受けて、列車の中でお客様へのご案内やお土産品の販売などを行っています。

観光列車と言ってもJR北海道は運転士さんだけのワンマン運転で、あとは地元の皆様方が車内でのおもてなしをしています。懐かしのコンピューターゲームとのコラボなど様々な工夫を凝らしてもう5年も走り続けています。

事例その3:駅に賑わいを作る

九州の最南端を走る指宿枕崎線の西頴娃(にしえい)駅は、無人駅を地元の方々が管理しています。小海駅と同じようにJRから業務委託を受けているのですが、こちらは南九州市からNPO法人頴娃おこそ会が受託して駅業務を行っています。

時おり、マルシェなども開催されて駅に人が集まる機会を作っていますし、この青い服の方は地元の鰹節加工会社の社長さんで、自ら「お出汁車掌」としてイベント列車のおもてなしをしています。

こういう地域ではJRの方でもその応援にこたえるかのように、懐かしい国鉄カラーに塗装した車両を運用に入れて話題性を提供しています。

以上3つの事例をご紹介いたしましたが、JRの路線でも地域の人たちが「自分ごと」として熱心に様々な活動をしているところがいくつもあります。

そして、そういうところではJRもきちんと期待に応えるように努力をしているというのがローカル鉄道の一つの姿です。

今、岐路に立たされている沿線は、「JRはちゃんと列車を走らせろ」という要望ばかりではなく、見て見ぬふりをしないで自分たちができることをまずはしっかりとやっていくことが求められると筆者は思います。

線路の維持管理に自治体がお金を出す上下分離論が浮上してきていますが、その前に沿線の皆様方も鉄道会社も、まずはやるべきことをしっかりとやっていくことから未来は開けるのではないでしょうか。

なぜならば、沿線に熱意がないところには国も予算を割くわけにはいきませんからね。まずは地元で何とか頑張ってこそ、国の支援というのが筋道だと考えます。

今後、残れるところとそうでないところの分かれ道は、こんなところにあるのではないかと筆者は考えています。

ゴールデンウィーク後半戦、どうぞ鉄道の旅で非日常感をお楽しみください。

※本文中に使用した写真は小海線関係は筆者撮影。釧網本線の流氷物語は石黒明氏、指宿枕崎線関係は葛岡克紀氏の撮影です。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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