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北朝鮮がミサイルで連続挑発、次第に近づく“ロケットマン”のころの空気

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮が17日朝にも弾道ミサイルを発射し、朝鮮半島情勢が次第に緊張してきた。年明け以後の4回のミサイル発射を時系列でみれば、北朝鮮の挑発行為に米国が呼応して圧迫している様子が明確に浮かび上がり、米朝関係が「強対強」モードに入った可能性を示唆している。

◇米国が制裁強化とともに「あらゆる手段講じる」

 北朝鮮のミサイル発射は今年に入り▽5日・極超音速ミサイル▽11日・極超音速ミサイル(金正恩総書記参観)▽14日「平安北道鉄道機動ミサイル連隊の検閲射撃訓練」として「北朝鮮版イスカンデル」改良型(KN23)とみられる2発▽17日午前9時前にも弾道ミサイルとみられる飛翔体――と続いている。

 北朝鮮は現在、「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」に沿って兵器開発を進めており、ミサイル発射を国防力強化の成果物と位置づけている。米韓などが北朝鮮のこうした「国防力強化」を批判すれば、北朝鮮側も、米韓が実施中の▽定例の砲射撃・野外酷寒期訓練▽グアム島周辺海空域で米海軍主催の多国間共同訓練「シー・ドラゴン」――などを「戦争“火遊び”騒動」と指摘して「二重基準」だと非難している。

 5日の弾道ミサイル試射を受け、国連安全保障理事会は日本時間11日午前5時ごろから非公開会議を開いた。だが北朝鮮は「安保理の圧迫にもかかわらず、自分たちは計画通りミサイル開発を続ける」と主張するかのように、会議開催の約2時間半後、ミサイル発射を強行した。

 これに対し、バイデン米政権は素早く反応し、日本時間13日未明、北朝鮮に対する新たな制裁を発表した。米朝間の公式対話が途絶えている状態で、制裁カードを切った形だ。米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は13日、ツイッターで「北朝鮮は2021年9月以来、6回にわたり弾道ミサイルを発射した。これらはすべて国連安保理決議違反だ」と非難した。

 ブリンケン米国務長官も同じ日、MSNBCとのインタビューで、最近の北朝鮮のミサイル発射を「こちらの注意を引こうとする動きで、過去にもあったし、これからもあるだろう」と表現した。

 ブリンケン氏はこの前日、声明で「米国は北朝鮮の大量破壊兵器と弾道ミサイル計画に対処するため、あらゆる適切な手段を講じる」と述べており、武力による対応という余地も残した。さらに米国務省のプライス報道官も13日、「われわれの『武器庫』にも多くの道具がある」と述べている。

 こうした発言が北朝鮮を強く刺激することを米国側も熟知している。だが、バイデン政権高官が意識的にこれらの表現を使っているようにも見え、バイデン政権が対北朝鮮強硬モードに入った可能性を指摘できる。

◇強対強

 制裁発表の翌日(14日)、今度は北朝鮮が外務省報道官談話を通じて、極超音速ミサイル発射を「国家防衛力現代化のための活動」「特定の国や勢力を狙ったものではない」と主張し、「米国が対決的な姿勢を取るなら、自分たちはより強力で、明確に反応せざるを得ない」と予告し、8時間半後に弾道ミサイルを発射した。

 この際、発射の主体となった鉄道機動ミサイル連隊は14日午前に朝鮮人民軍総参謀部から「不意に火力任務を受けた」と明らかにしており、米国の北朝鮮制裁に対抗した挑発行為であることを明確に表現している。

 バイデン政権発足前に開かれた党大会(昨年1月)で、金総書記は「強対強」「善対善」原則(米国が強硬姿勢なら自らも強硬姿勢で、軟化すれば自らも軟化する)に言及しており、米国の圧迫が強まれば強まるほど、北朝鮮による反発も激化すると予想される。

 ただ、北朝鮮が発射するのは、米本土には及ばない短距離弾道ミサイルをとどめている。米国への強硬姿勢を示しつつも、対話の糸口は残しておきたいという考えは引き続き持っているとみられる。加えて、2月の北京冬季五輪を控えた中国を意識して、朝鮮半島の緊張を過度に高めるような行為は自制しているようにも見える。

 北朝鮮は2月に金総書記の父・金正日氏の生誕80周年、4月には祖父・金日成氏の生誕110周年を迎える。北朝鮮は5年、10年単位を節目として重視するため、この二つの行事を盛大に祝う見通しだ。極超音速ミサイルのような国防力の目に見える成果は、このための「祝砲」という位置づけもある。

 制裁や新型コロナウイルス感染防止に伴う国境封鎖で経済的な成果を見込めない状況の中で、住民の自尊心を高めて内部結束を図るには国防力強化という「成果」は効果的だ。対外宣伝メディア「朝鮮の今日」は16日、「強大な軍力が天下を揺るがしている」「極超音速ミサイル試験発射の大成功で国中が歓喜にあふれている」と誇示している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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